↑「欧米か!」と言うて通行人の頭を殴りつける者もいると聞く。おそろしいことです。

 

平成20年10月2日(木)  表紙へ  昨日に戻る

昨日は調子に乗って変な問題を出してしまいまして、ご迷惑をおかけしました。正直にいいますと、昨日の文章の出典は「西国近事彙編」という書物です(ただし「庸闕ヨ筆記」に摘録所収のもの)。同書は、

外国之新報、即中国之邸抄也、閲之可得各国之情形、即可知天下之大局。馮竹儒観察令美国人金楷理口訳之、歴城蔡錫齢筆述之。・・・誠留心世事之学也。

外国の新報は即ち中国の邸抄なり、これを閲すれば各国の情形を得べく、即ち天下の大局を知るべし。馮竹儒観察、美国人・金楷理をしてこれを口訳せしめ、歴城の蔡錫齢をしてこれを筆述せしむ。・・・誠に世事に留心するの学なり。

欧米各国のニューズペーパーなるものは、チュウゴクの官庁動向の写しのごときものである。これを閲覧すれば、各国の情勢がわかり、世界の状況を知ることができる。観察官の馮竹儒さまが、アメリカ人・金楷理をして(米語の)ニューズペーパーを口頭で漢語に訳させ、それを歴城の蔡錫齢に筆録させた(ものが、この「西国近事彙編」である)。・・・馮さまの学問こそ、まことに現実社会に留意した学問というべきであろう。

という書物です(陳其元「庸闕ヨ筆記」による)。

昨日の文中には、「師丹」の戦に関する記述があり、これは普仏戦争の「セダンの会戦」のことですから、1870年のこと(のはず)。この文章はその翌年のプロシア太子(後の皇帝ヴィルヘルム二世)のロシア訪問についての報道であるようです。「布」がプロシア、「俄」がロシアです。

俄王が六十年前の「法」との戦いというているのは、もちろんナポレオン戦争である。

ついでに、普仏戦争後、徳意志(ドイッチェ)の属である拝宴国王から、同国軍の損害の報告を受けた徳王(ドイツ皇帝=ドイツ王=プロシア王)にインタビューした記事もあります。拝宴国はバイエルン国のこと。

ドイツ王はバイエルン国王からの同国軍の損害を聴いた。

戦没者・士官162人、兵1597人。

重傷者・士官261人、兵20598人。

捕虜・士官22人、兵1083人。

逃亡者・士官2人、兵3363人。

これを聴いて、王は、言うた。(どうでもいいのですが、さすがに当時は兵の逃亡者多いですね)

甚矣。兵之不可軽用。

甚だしいかな。兵の軽用すべからざること。

なんという被害であろうか。たいへん重大・明白なことであるぞ。軍隊を軽々しく動かしてはいけない、ということは。

彼喪師失地者、骸骨積如丘山、肝脳塗于原野、殺戮之惨無論矣。即戦無不克、攻無不勝、如我軍之入法都、虜法王、厥功甚偉、而按軍籍以稽之、損折之数、人百而我亦十焉。

かの師を喪い地を失いしもの、骸骨積みて丘山の如く、肝脳原野に塗り、殺戮の惨論ずる無きなり。即ち、戦いにかたざるなく、攻めて勝たざるなく、我が軍のごとく法都に入り、法王を虜とし、その功甚だ偉なる、しかして軍籍を按じて以てこれを稽がうるに、損折の数、人百にして我また十ならん。

しかも、敵軍は軍は潰走し土地(アルザス・ロレーヌなど)は失われ、死者の骸骨は積まれて丘や山のごとく、肝臓や脳みそは原野にべっとりと塗られ、その殺戮された惨めさは言うに足らぬ。一方で、会戦にはすべて勝ち、攻城にもすべて勝利を収めた我が軍は、フランスの都にも軍を進め、フランス皇帝(ナポレオン三世)を捕虜にしたのであり、その功績は偉大というべきなのであるが、それでも軍籍にあったものの損害を見ると、かくのごときの被害があったのだ。推察してみるに、敵軍の被害100に対して我が軍の被害10ぐらい、フランスは我が軍の十倍の死傷者であろう。

この損害は軍隊だけのものである。戦地となった地帯の人民が救いを求めて呼び叫ぶ声は本当に耳に聴くに忍びず、目に見るに忍びぬものがあった。その人民たちのことを思うと、彼らに何の罪があろうかと哀れである。(←20世紀の総力戦時代を経た我々の眼から見るとかなり中世的なことばに見える)

自今以往、非衅啓隣封、師先加我、而妄談兵事、争尚武功者、罪之。

自今以往、隣封を衅啓して師のまず我に加えるにあらずして、妄りに兵事を談じ、武功を争い尚ぶ者は、これを罪せん。

この後、隣国を侵略しようとして向こうから先に軍隊を進めてきたのでなしに、妄りに軍事を語り武功を争おうとするような言辞を弄するものは、罪に問うであろう。

と言っておりまして、やはり百五十年ぐらい前のひとたちは、戦争しているのに牧歌的だなあという気がしますね。

このほか、布国の相臣・畢士麻克(ひっしまこく。ビスマルクのことであろう)の策謀とか、英国人が魚雷なるものを発明して、発明者がそれを誇ると、同国人の嘆いて、

噫。作法自弊矣。我既用以攻人、人亦用以攻我。則新造数十号鉄甲兵船、恐不敷他国試魚雷之用耳。

噫(い)。法を作りて自ら弊せるかな。われ既に用いて以て人を攻むるれば、人また用いて以て我を攻めん。すなわち新造数十号鉄甲兵船、恐るらくは他国の魚雷を試すの用に敷せざるのみ。

ああ。新しいことを造って、結局自分を苦しめるのだ。我がほうが使って他者を攻撃すれば、これを用いて他者もまた我がほうを攻撃するに決まっているではないか。すなわち、我が国がこのたび新たに造りたる数十隻の鉄の甲板の軍船も、いずれはおそらく他国の「魚雷」の威力を試す実験台とならないことがあろうか。

と言うた、というのは、西欧人のくせになかなかよくわかっているというべきか。

など、なかなか興味を引く記述がたくさんあるのですが、あまりオモシロくもないのでもう止めます。どういう英文を訳すとこうなるのでしょうね。「噫」はやはり「Oh!」でしょうか。

 

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