昨日から引き続き、清・陳其元「庸闕ヨ筆記」から。
・・・みなが次々と拝んでいる間、そのカエル、いや青蛙将軍はほとんど動く気配もなかった。
やがて・・・
「やや」
青蛙将軍は、
躍至杯畔。
躍りて杯の畔に至る。
ぴょん、と飛んで、焼酎を供えた杯の縁に飛びついた。
「おお」「見よ」
ひとびとはざわめく。
その間、将軍は、二本の前足で杯の縁を持ち、そこから顔を出して、焼酎の酒気を嗅いでいるようであった。
久之、身色漸変為淡紅、腹下則燦若金色。
これを久しくして、身色漸く変じて淡紅となり、腹下すなわち燦として金色のごとし。
さらにしばらくすると、その体色がだんだんと変わってきて、うっすらとピンク色になり、また腹の下の方は、金色のきらきらと光りはじめた。
「おお」「見よ」
衆皆曰、将軍換袍。
衆みな曰く、「将軍袍を換う」と。
ひとびとは言うた。
「将軍さまが上着をお着替えになられたのじゃ」
「やや」
カエルさまはまたぴょうん、と飛び上がり、今度は、
縁案後所懸画幅而上、直至頂格、踞坐良久。
案後に懸けるところの画幅に縁りて上り、直ちに頂の格に至り、踞坐やや久し。
机の後ろの壁に懸けてあった画の掛け軸の縁を伝わって昇り、すぐに掛け軸のてっぺんの横棒のところまで至って、そこでまたお座りになって動かなくなった。
ちょうどそのころ第四鼓が聞こえてきた。もう十二時近い。
主人の金氏はここで大きなお皿を持ち出してきて、掛け軸の前に立ち、カエルさまに一礼した。するとカエルさまはひょいとそのお皿の上の、漆塗りの箱の中に飛び移られた。
金氏はその上から、そっと蓋をした。そして錦の袱紗でこの箱を包み込み、
男婦持香提灯送至巷口金剛禅寺中。
男婦、香を持し灯を提げ、送りて巷口の金剛禅寺中に至る。
家中の男女が、手に手にお香を持ち灯りを提げて、箱の入った袱紗を捧げ持つ金氏を中心にして、すぐ近くの小路の金剛禅寺にお送りしたのであった。
もちろん、わしもついて行った。
寺の方にも既に青蛙将軍が顕現されたことは報せが行っていて、
寺僧迎至仏前供定、解袱啓盒視之、則已渺矣。
寺僧迎えて仏前に至り供定し、袱を解き盒を啓きてこれを視るに、すなわち已に渺(びょう)たり。
寺では門前まで僧侶が迎えに出ていた。僧侶は金氏から箱を包んだ袱紗を受け取ると、これを捧げ持ってご本尊さまの前のお供え台に置いた。
そしておもむろに袱紗を解き、箱を開いてみたところ・・・ああ、何という不思議であろうか。箱の中にはそのお姿はもう見えなかったのである。
どこかに消えてしまったらしい。
此事為余所目撃。
このこと、余の目撃するところなり。
カエルさまを箱にお入れするときも、仏前で箱を開いたときも、わしはこの目でそれを見ていたのじゃ。
まことに不思議なこともあるものである。
庸闕ヨ老人・陳其元は
蛙亦霊異矣哉。
蛙もまた霊異なるかな。
カエルも不思議な力を持つものなのじゃのう。
と感服したのであった。
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思うに、世界には日常の因果律では説明できぬことが日々に起こっているのであろうと思います。ゲンダイでも「なぜそんなことが・・・」ということは起こっているのです・・・が、ゲンダイではそのようなことは千回に一回ぐらいしか起こらない。一方、古代には三回に一回ぐらいは不思議なことが起こっていたのではないかと思います。庸闕ヨ老人の時代、清の後半期では百回に一回ぐらい、ではないでしょうか。「庸闕ヨ筆記」巻四より。