
↑ニワトリ見ているとのどかな気分になるです。自分より「あほ」だと思えるからでしょうか。
(そう思っているひとは気をつけた方がいいかも知れませんぞ↓)
江夏(こう・か。湖南の地名)の林という主簿(県の役人。ナンバー2か3ぐらいに相当)というひとがいた。性格は残虐で賭け事が好き、という人柄で人望は無かった。妻では無かったが寵愛する女がおり、この女がいないと昼も夜も無く、しごとも手につかない、というほどであった。
今一つ耽溺と言っていいほどお気に入りのものがある。
ニワトリの肉であった。
夕食にニワトリの肉が、それも飽きるほど無いと機嫌が悪く、お付のものを鞭打ったりする。ために、
里胥日供双鶏。
里胥、日に双鶏を供う。
お世話する下役らは、毎日二羽のニワトリを食卓に供えていた。
ある日、下役に命じられた料理人が、ニワトリを殺そうとして、取り逃がしてしまった。
鶏走。
鶏、走れり。
ニワトリは庭先を逃げ回った。
すると、
女自逐之。
女、自らこれを逐う。
林の寵愛する女が、どういうわけか自らこのニワトリを追いかけたのだった。
ニワトリは追手を振り払い、ぐるりと屋敷を巡って、北庭にあった古い井戸に、ひょい、と入って行った。
この井戸は、ずっと使われていない。既に水は涸れてしまっており、井戸の入り口近くまで土で埋まっていたはずである。
女もまた、ニワトリを追いかけてその井戸を覗き込んだ・・・すると・・・
入井、遂不見。
井に入り、遂に見えず。
井戸に、ひょい、と入ってしまい、そのまま姿が見えなくなってしまった。
土で埋まって、ひとが身を隠すにはしゃがみこむしかないぐらいになっていた井戸の中に入ってしまって姿が見えないのだ。不思議なことである。
林主簿はちょうど女を探しに来て、彼女がその井戸に入ってしまった、と聴くと、
「どうしてそんなところに隠れられるものか」
とやはり井戸を覗き込んだ・・・すると・・・
亦入井、不出。
また井に入りて、出でず。
また井戸の中に、ひょい、と入ってしまい、そのまま見えなくなってしまった。
直後、
俄井中黒気騰上如炊。
俄に井中より黒気、炊のごとく騰上せり。
突然井戸の中から黒い煙が、炊事をしているかのように立ち上ってきたのであった。
家人がどうしたことかと騒いでいると、ひとりの男が勇を奮って、
「おらが見てくる」
と井戸のそばに行き、中を覗き込んだ・・・
と、男は
「おお」
と声を上げて、ひとびとの方に向き直り
「煙でよく見えないが、どうやら
但見大釜、湯沸火熾。
ただ大釜の湯沸き火熾(さか)んなるを見る。
大きな釜があるようじゃ。その中にはお湯が沸きたち、釜の下では火がさかんに燃えてらしい」
と言い、次いで井桁をまたいで中に入ろうとしたが、
「や、や?」
と何物かに拒まれた風情で、ぽうん、と井桁の外に投げ出された。
家人ら助け起こして、
「どうしたのだ」
と問うに、
有人拒其足、曰、事不干汝。
ひとありてその足を拒み、曰く「事、汝に干せず」と。
「煙の中から誰かの手が出てきてわしの足をつかみ、「おまえには関係の無いことじゃ」と聞こえたかと思うと、投げ飛ばされたのだ。」
と答えたのであった。
その間にも黒い煙はもくもくと激しく沸きあがり、もはや井戸にも近寄れないほどであったが、
久之、気稍稍而息。
これを久しくして気ややにして息(や)む。
しばらくすると、ようやく煙が止んできた。
そこでひとびと、井戸を覗きこむと、そこにはいつものように土がすぐそこまで溜っていたのであるが、その土の上には・・・
唯鶏骨一具、人骨二具。
ただ鶏骨一具、人骨二具のみ。
ニワトリの骨一羽分と、ニンゲンの骨二人分だけ。
が転がっていたのであった。
・・・ああ、わたくし(著者)は、
数聞故老言之。
しばしば故老のこれを言うを聞けり。
老人たちがこの話しをしているのを何度も聞かされたものじゃ。
しかしながら、
不知其何年也。
その何れの年なるやを知らざるなり。
この事件がいったい何時起こったのかをはっきり聞いたことはない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以上。「稽神録」より。
「だったら何だ、というのだ! まったくためにならん。教養にも仕事にも役立たん! 」
と言いたいひとがいたら、著者の五代の徐鉉さんに言ってください。
わたし的には、曖昧もこもことして不思議な味わいのお話で、残虐ともとれるしファンタジックな感じもするし、徐鉉さんは相変わらずオモシロいなあ、と思います。
なお、木曜日まで来ましたが、昼間は追い込まれている。このHPに逃避。