
↓探したけどオオカミを画いたことがなかった。写真も撮ったことない。
清の道光年間(十九世紀の半ばごろ)のこと、平陰の朱葦仙というひとが、かねてよりの知人で隠退している姚元之のところを訪ねてまいりました。
二人とももうかなりの老齢である。お互いに昔話をしあって、今日の日を意義深く過そうというのであった。
この日、朱葦仙の話したこと。
――ご存知のとおり、わしは猟(鉄砲猟)が好きじゃ。さすがに最近は出かける元気も無くなったが、以前はよくオオカミ退治に行ったものである。
――ほう、オオカミ退治とな。
――おまえさんほどの物知りじゃ、ご存知のことだろうとは思うが、
猟狼不可造次。
狼を猟するには造次にすべからず。
オオカミ猟では慌ててはいかんのじゃ。
まず、オオカミが一匹でいるか、二匹で行動しているか、を確認せねばならん。
凡狼独行者可施鎗。
およそ狼の独行するものは鎗を施すべし。
一般に、オオカミが一匹で行動している場合は、そのまま銃で狙ってよろしい。
「鎗」(ソウ)は、「槍」と同じく「やり」のことですが、「鳥鎗」というと「鳥打銃」(火縄銃)のこと。朱老人のいう「鎗」は、猟銃のことである。
――さて、オオカミが二匹で行動しているときはどうするか・・・おまえさんのことじゃ、ご存知じゃろうのう・・・。
――ぜーんぜん、わからぬ。教えてほしいものよのう。
そう言ってやると朱老人はにこにこして、言う。
若両狼行則当撃其後。
もし両狼行くなれば、すなわちまさにその後を撃つべし。
相手のオオカミが二匹で行動していたら、二匹のうち後に従う方のオオカミを撃たねばならんのだ。
――へー。そうなんだ。して、何故?
――それはなぜかというと・・・・。
はい。ここで第一問。二匹のオオカミが相手のときは、何故後ろのオオカミから撃たねばならんのでしょうか。答えは明後日ぐらいに発表します、ので、それまで考えていてください。ただし、何かオチがあるお話しなのであろう、などと期待しませんように。朱葦仙老人の自然観察の結果が教授されるだけである。
――ところで、オオカミというのは、歩くとき、いつも三本の足で歩くんじゃよ。
――ほう。それも初耳じゃな。「狼狽」の古説ともまた違うのじゃな(注)。
――うむ。実はオオカミは前足の一方をいつも上に挙げている。この足の爪は曲っており、この爪でいつも自分の口のまわりを守っているのじゃ。
狼喙最畏人撃、所以禦撃也。
狼喙は最も人の撃つを畏る。ゆえに撃つを禦(ふせ)ぐなり。
オオカミは、口を銃で撃たれるのを最もイヤがる。曲った爪で銃弾をはねかえすために、そこを守っているのである。
――へー。勉強になった。お主は物知りじゃのう。
――いやいや・・・。オオカミに銃弾が当たるとなあ、
長号之声如鬼加氏A最不可聞。
長号の声、鬼の獅加うるが如く、最も聞くべからず。
長く叫ぶその声は、まるで悪霊のたたりを為して呼ばうようで、本当に耳を覆いたくなるぞ。
・・・そこで話しの種が尽きてしまったのか、黙ってしまった朱老人であったが、しばらくしてまた話すべきことを思い出したらしく、
――そうそう、こんなことも・・・いや、これはさすがにおまえさんほどの物知りじゃ、ご存知じゃろうなあ・・・。
――いやいや、ぜんぜんじゃ。教えてほしいのう。
――うむ、オオカミを猟銃で撃った者は、発砲して「しとめた!」と思ったときは、必ず銃を左手で抱えたまま、しっかりと両足を踏みしめて、
転首向後、右手抜短刀持向左耳前。
首を転じて後ろに向かい、右手にて短刀を抜きて左耳の前に向けて持す。
背後を振り向いた上で、右手で抜き身の短刀を持ち、これを左耳の横から前に向けて構えなければならないのだ。(顔は後ろを振り向いている状態ですから、刃先はしとめたオオカミの方に向かうわけである。)
――ほう。どうしてそんなことを・・・。
――ご存知ない? なら教えてやるが、それは・・・
はい。第二問。なぜ、猟者はこんなことをしなければならないのでしょうか。これも明後日あたりに回答いたします。わしもみなさんが少しでも自分のアタマでモノを考えるように、と工夫しているのですじゃ。
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清・姚元之「竹葉亭雑記」巻八より。
なお、途中に「(注)」がありましたが、これも日を改めて。まあ有名な話だし、わしなどが解説する要も無い、と言われるのでしょうけど、ね。