11月24日から続く。
・・・第四の関門にたどりついた。
ここは、これまでの三関と違い、ぴかぴかと輝いている。
「なんという美しいのであろうか」
とわしはとろんとした気持ちになった。
「む」
そして立ち止まる。
門の正面に二人のお方の姿が見えたからである。
いずれもふくよかなお顔、でっぷりと豊かにお肥りになられ、左の方が金色、右の方が銀色に光り輝いておられるのだ。
気が着くと、わしのすぐ後に第三の栄貴関を通り抜けて来た男がわしのすぐ横まで来ており、
「なんとお美しく、そしてお優しそうなお二人であろうか」
とつぶやいたのであった。
「まったくですなあ」
とわしも相槌を打った。お二人とも微笑んでおられる。切れ長の御眼だけがなんとなく笑っていないような気もするが・・・。
わしとその男は、もうたまらなくなって、お二人のもとに膝まずこうと、早足になった。
次いで、駆け足になった。
「ええい、おまえにはまけぬ」
「いいや、わしが先じゃ」
と競走になった!
わしの方が一歩はやくお二人に近づく。
「よし、わしの勝ちじゃ!」
と思った瞬間、
ばさ!
とわしの目の前に、大きな芭蕉の葉のようなものが上からかぶさってきて、わしは後ろにはねとばされた。
「く、遅れをとったか?」
と横を見ると、隣りの男もはねとばされたらしく、しりもちをついている。
「よし、今度こそ」
と立ち上がって、お二人の方に走りかけると、また、
ばさ!
とわしははねとばされた。
「ど、どういうことじゃ。くそ、負けるものか」
わしはまた立ち上がり、またお二人の方に近づこうとすると、またまた
ばさ!
と芭蕉の葉が立ちふさがり、
「ええい、まだ目が覚めぬのか、この愚か者めが!」
という大声が、頭の上から降ってきた。
・・・はあ。
そこで、ようやく目が覚めたかのように自分を取り戻しました。
大声でわしに呼びかけておられたのは、悟元道士・劉一明で、芭蕉の葉と見えたのは、彼の手にした払子であったのだ。
「こ、これは、道士どの・・・」
と、先ほどまであれほど近づこうとしていたお二人の方を見やると、これはどういうことか。
「や、や、や?」
金色・銀色に輝いていたと見えた人影は、なんと薄汚れ、歪んだ顔の二体の泥人形であった。
と、隣りの男は、まだ気づかなかったと見えて、
「ええい、今度こそ!」
とわしを押しのけて飛び出した。
「待て!」
と道士が払子が揮ったが、今度は間に合わず、男は二体の泥人形のもとに膝まずき、
「ああ、ついに、ついに、わしはお二人のもとにい!」
と叫んで感極まったか、そのまま倒れてしまった。
「むう、間に合わなんだか・・・。やつはしばらくは目を覚ますまい。下手をすれば一生・・・」
その道士の言葉を聞いて、わしはびっくり。
「い、一生、でございますか。・・・一体、あの泥人形は? そしてこの関門は?」
道士、わしの方を振り向いて、曰く、
「かの二体の泥人形は、看財奴(かんざいど)と慳貪鬼(けんどんき)。
彼らは一生の間、
只知積財、吃也舎不的、穿也舎不的、又不肯恤孤憐寡、又不知扶危救困。
ただ財を積むを知るのみにして、吃(く)らうやすてて的せず、穿(き)るやすてて的せず、またあえて孤を恤(あわ)れまず寡を憐れまず、また危うきを扶け困(くる)しめるを救わず。
ただ財産を積み上げるだけで、きちんとしたものを食うでもなく、きちんとしたものを着るでもなく、みなしごを救済したり未亡人を憐れんだり、危険にあるものを助けたり困難な状態にあるものを救うといったことをしないでいた。
そして、
断気在于眼前、而猶吩咐子孫、如何生財、如何聚財、何人少我債、何処有我銭。
気の断たれんとすること眼前にありて、なお子孫に吩咐(ふんぷ)するに、如何ぞ財を生ぜん、如何ぞ財を聚(あつ)めん、何びとぞ我が債を少なうせん、何れの処にか我が銭有らん、と。
「吩」(ふん)も「咐」(ふ)も「息を吐く」の意ですが、ここでは臨終の遺言に、最後の力を振り絞って途切れ途切れに言う言葉を表わしている。
最後の息を引き取るべき時が目の前まで来ているのに、なお回りの子や孫に対して、どうやったらお金もうけができるか、どうやったらお金が殖えるか、誰が借りを返してくれるか、どこに銭が預けてあるか、といったことをぶつぶつと告げる。
そんな者がして、変化して成ったのが、この泥人形なのじゃ。
そして、この関門の名は「財利関」。・・・」 (続く)
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清・悟元道士・劉一明「通関文」より。
もちろんみなさんもこの関門はお好きでしょうから、ご興味おありと思います。が、今日は仕事が日付変更線過ぎた。それから風呂屋寄ってきたのですから、もうすごい時間である。よって、今日はここまでにさせていただき、「財利関」の通り抜け方は来週のお話しとさせていただきます。
・・・文句は会社の方へどうぞ。