わたしは、みなさんにもわたしのように賢くなってほしい。
そこで、いにしえの書から教訓を導き出して、みなさんにわかりやすく教えてさしあげることにしました。
・・・漢の武帝のときのこと。
ある猟師、皇帝の園林である上林苑に迷い込み、そこで鹿を殺してしまった。
皇帝のものである園林の鹿を殺してしまうとは、なんという悪いことであろうか。
武帝は大いに怒り、猟師を司刑官に引き渡して、これを死刑にするように指示した。
群臣皆相阿、殺人主鹿大不敬当死。
群臣みな相阿(おもね)り、人主の鹿を殺すは大いに不敬にしてまさに死すべし、とす。
臣下たちはみなおもねって、「皇帝の鹿をコロすとは、まことに以て大不敬の罪じゃ。死刑にしなければなりませぬなあ」と同意した。
群臣の様子を見て、自分も武帝の気を引こうとしたのでしょう、間近に控えておられた東方朔(とうぼう・さく)どのが
「まったくでござる!」
と大きな声でおっしゃった。
「どうした、東方朔、何かいいたいことがあるのか」
と武帝が下問なさりますると、東方朔すかさず曰く、
是人罪当死者三。
このひとの罪、死に当たること三あり。
まことにこの猟師、死罪にするにふさわしいことが三つもござるぞ。
さすがですね。すぐに君主の言葉を正当化する理由を三つも考えつくとは。いつもお側近くにいるだけあるわい。
「そうであるか」
「あい。まずは・・・」
と東方朔、指を折りながら申し述べた。
使陛下以鹿之故殺人、一当死。
陛下をして鹿の故を以て人を殺さしむ、一の死に当たることなり。
陛下に、鹿のせいで人を殺す、という(ばかげた)ことをさせる原因となった、というのが死罪にふさわしい第一の理由にございます。
次いで、
使天下聞之者以陛下重鹿賤人、二当死。
天下のこれを聞く者をして、陛下を以て鹿を重んじ人を賤しむなりとさせしむ、二の死に当たることなり。
そのことを聞き知った世界中のひとびとに、「武帝さまはニンゲンより鹿を大切になさる(ばかものな)のだな」と知らしめてしまう原因となった、というのが死罪にふさわしき第二の理由にござります。
そして、
匈奴即有急推鹿触之、三当死。
匈奴即ち急に鹿を推してこれを触す、三の死に当たることなり。
当時、北方の匈奴帝国は漢の最大の敵であり、武帝はその討伐のために名馬を入手し名将を育て、軍兵を養っていたのですが、
匈奴どもは、この噂を聞いて、ただちに鹿を後ろから押して、障害物にその角を触れさせて(鹿を苦しめ、あるいは角を折るなどの傷を負わせるでしょうから、そのことで)鹿を大切にする陛下のお心が痛まれるでありましょう。その原因となったことが、死罪にふさわしき第三の理由にございます。
なるほど。これほどの罪があってはそのひとを死罪にして当然です。東方朔はうまく言ったものですなあ。
ところが、
武帝黙然遂釈殺鹿者之罪。
武帝は黙然として遂に鹿を殺す者の罪を釈す。
武帝はむっつりと考え込んで、とうとう鹿を殺した猟師の罪を赦すことにしてしまった。
あーあ。皇帝に気にいられようとしたのでしょうが、機嫌を損ねてしまいましたよー。三つも理由を言わずに二つぐらいにしておけばよかったのに。ばかだなあ、東方朔は。
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以上、「東方朔別伝」(「太平御覧」巻457所引)より。
このことから、教訓を導き出してみます。
教訓@皇帝に気にいられるためには、阿(おもね)るのはほどほどにしましょう。
教訓A君主はすべからくニンゲンより鹿を大切にするものだ。
教訓B鹿を殺すと君主のものかも知れませんから気をつけましょう。
この三つの教訓が得られた。みなさん三つの教訓をよくよく味わって賢くなってくださればいいと思う所存じゃ。
? 何かおかしい? わたしが間違っている? どこが?