昨日の続きです。
・・・鄂州小将の某、侍女に案内されるままに
随之而去。
これに随いて去る。
その後について行った。
やがて、狭い小路に面した一画にある貧舎(貧しい小屋)の前まで来ると、侍女言う、
此是也。
これ、是れなり。
この家が、そうでございます。
そうして、まず自分が先になって、腰をかがめて狭い入り口から入って行った。
―――さて、ここまでの某の行動の詳細は、某に従っていた一人の従卒が後に語ったことから判明したのでした。ところが、某は、この貧舎の前で、従卒に、
「おまえはしばらくここで待っていてくれ」
と言い置いて、侍女の後について入り口を入って行った。だからこの後、某の身に起こったことは誰も見ていないのである。
従卒が後に語ったところでは、某が入って行ったあとしばらくすると、先ほどの侍女が入り口のところに現われ、
「だんなさまは今、奥様と再会して、別離以来のことを語り合っておられます。しばらく時間がかかりそうですので、おまえさまはこのおアシを元手に、どこかでしばらく時間を潰してきて、夕刻になったら迎えに来て欲しい、との仰せじゃ」
と言いながら、銭数枚を手渡してくれた。
「へい」
従卒は銭を押し頂くと、近所の飲み屋に入って夕刻までどぶろくを飲んでいたのだという。
・・・・・・・・・やがて日が暮れ、したたかに酔った従卒は貧舎の前に戻ってきた。
「小将さま、まだお話しの途中でございますか。へへ、お話しがお済みになって、別の御用の途中かも知れやせんがね、とくらあ・・・」
従卒はご機嫌なことを言いながらしばらく待っていたが、しかし、あまりにも家の中が静かである。
「水入らずでお出かけになったのかな・・・」
従者稍前覘之、寂然無人。
従者、やや前(すす)みてこれを覘うに、寂然として人無し。
従卒は少し入り口の前に進んで中を覗きこんでみたが、どうもひっそりとしてひとがいる気配もない。
「う〜ん、これはどうしたことか」
酔いも醒めてきた従卒、
直入室中。
室中に直入せり。
案内も請わずに部屋の中にまっすぐ押し入った。
すると、
但見白骨一具。衣服毀裂、流血満地。
ただ白骨一具を見るのみ。しかして衣服毀裂し、流血地に満つ。
そこには人間一人分の骨が、転がっているだけであった。そして、(某が着ていた)衣服が破れ裂けてあたりに散らばっており、また、流れ出た血が地面をびっしょりと濡らしていた。
「あわわ・・・」
従卒は即座に城市の役所まで届け出、すぐに実地調査が行われたのであった。
このあたりに住む者の話しでは
此空宅久無居人矣。
この空宅、久しく居人無きなり。
ここは空き家でごぜえやす。なげえこと誰も住んでおりやせん。
とのことであり、某の妻らしき者はもちろん、侍女さえもその出入りを見た者は誰ひとりもいなかった。
果たしてこれが生者の行った犯罪であるのか、それとも死者の為した怪異であるのか、あるいは白骨が某のものであったのか無かったのか。さらには妻と侍女のもともとの死因が本当に強盗によるものであったのか否か。すべてが謎のままであったが、ただ白骨の傍らには、久しく以前に某が無くしたはずの仕込み杖が転がっていて、遺物を引き取りに着た親類らが不思議に思っていた、ということである。
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以上。太平広記巻一百三十「鄂州小将」より。もう少しで出世できたかも知れませんのになあ。ひっひっひ・・・。