昨日は体調を崩した、といいますか、頭ががんがんと痛かったので更新を休みました。しかし不思議なことに昨日も今日も体重は増えています。不条理ですなあ。
不条理といいますと、南朝・宋の元嘉年間(424〜453)のことじゃが、このようなことがあった。
益州(蜀の地なり)のひと三人、木を伐るべく山中に入った。奥深い山中で伐るべき木を探すうちに路に迷い、さまようこと数刻、疲れ果てて谷川のほとりに腰掛けてこれからどうすればいいか思案していたところ、
忽見一亀。
忽ち一亀を見る。
突然、一匹のカメが現われた。
ただのカメではない。
大如車輪。
大なること車輪の如し。
その甲羅のさしわたしは車輪ほどもあった。
驚くべきは、物理的な大きさだけではなかった。
四足各躡一小亀而行。
四足おのおの一小亀を躡(ふ)みて行く。
四本の足は、直接地面を踏むことなく、それぞれ一匹の小さいカメを踏みつけており、この小さいカメが歩いて、それによって大きなカメは移動していたのである。
自らの足で地の卑しきを踏むことがない、ということから、このカメが極めて尊貴なカメであることがわかった。
しかも、
又有百余黄亀従其後。
また百余の黄亀のその後に従う有り。
その上、百余匹の黄色い普通の大きさのカメが、その後ろに従って、ぞろぞろと歩いているのだ。
「こ、これは・・・」「伝説の山の主さまじゃ。本当におられたのじゃ」
三人のうち二人は恐れ入って土下座した。
「た、たかがカメではないか・・・」
と一番若い男は強がったが、あとの二人が促がすのでやはり土下座し、
三人叩頭。
三人叩頭せり。
三人は頭を地面にすりつけんばかりに下げた。
その前をカメたちは悠々と通り過ぎる。そのとき、くだんの一番若い男、
「このあたりの主とおっしゃる以上このあたりのことはようくご存知のはず。われらは路に迷って久しゅうござる。カメごときがニンゲンのコトバを解するか否かは知られねど、解するならば山から出る路をお教え願いたい」
と声をかけた。
「あわわ」「お、おめえというやつはなんという大それた・・・」
あとの二人はその不遜に驚いたが、
亀乃伸頸、若有意焉。
亀すなわち頸を伸ばし、意有るがごときなり。
カメは首を伸ばして三人の方を見た。何か言わんとしているようである。
「つ、ついて来い、とおっしゃっていなさるか」「ありがたや」
「く・・・カメ風情が・・・」
大いなるカメが首を左に振ると、足の下の小さい四匹のカメは左の方向に向きを替えて歩み始めた。大いなるカメはゆっくりと左に向かい、百余の黄亀がそのあとに続く。
三人はそのさらに後に続いた。
やがて、木の切れ間から山下に降る道が見えた。
「おお、道が見えた」「ありがたや主さま」「・・・・・」
そこまで来るとカメたちはまた向きを右に替え、三人をその場に残して山中に消えて行った。
三人はこうして帰ってくることができたのである。
・・・・・・なんという不条理でしょうか。ニンゲンの誇りはカメに踏みにじられたのだ。
ところでこの中の一番若い男、何とも恐ろしいことを仕出かしていた。ひそかに一匹の黄亀を捕らえ、腰の袋に入れて持ち帰ってきていたのである。
この男、家に帰るとこのカメを
割以為臛、食之。
割りて以て臛(カク)と為し、これを食らう。
甲羅を割って湯に入れ、スープにして食ってしまった。
スープのうち、菜が入っているものを羹(コウ)といい、菜の入ってないものを臛(カク)という、のだそうです。
次の日、近所の者が見に行くと、この男は、左手にスープの入った椀を持ったまま、真っ黒に黒ずんで死んでいたのであった。
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宋の劉敬叔が「異苑」より引きました。今日も変な話で失礼いたしました。