↓行きますよ〜。

 

平成21年 1月18日(日)  表紙へ  一昨日に戻る

昨日はハラとかアタマがぶっこわれた感じでずうっと寝てましたので更新ができませんでした。

――しなくても誰も困らぬ。

のですが、今日はアタマが治ったのでしておきます。

宋の王栄老というひと、観州知事の任を終えて都・開封に戻ることになった。出発には州を流れる観江を舟で渡らねばならないのだが、旅立ちと決めたその日から、風雨が激しくなって舟を出すことができぬ。

出発を日延べすること七日に及んだとき、ついに土地の長老たちが

必篋中畜奇物。此江神極霊、当献之得済。

必ずや篋中に奇物を畜わうるならん。この江神極めて霊、まさにこれを献ずれば済(わた)るを得べし。

「おそらく知事さまのお荷物の中に、二つとなく珍しく貴重なモノがありますのじゃろう。ここの川の神さまは以前より極めて霊験あり、(それを欲して風を吹かせ雨を降らせていると思われまする。)そのモノを献上すれば渡れるに違いありませぬ。」

「篋」は竹を編んでつくった行李。

しかしながら王栄老は(比較的)清廉な官僚であったから、あまりすごいモノは持っておりませんでした。

「もしかしたらこれであろうか」

と取り出したのが、

@玉麈尾

であった。

「麈」(シュ)は「埤雅」に

似鹿而大。其尾辟塵。

鹿に似て大。その尾、塵を辟(さ)く。

鹿に似てもっと大きい。その尻尾は塵埃を避けようとする。

とあり。逆にいうと、「塵埃がその尻尾を避ける」ので、自動的に掃除ができる代物、らしい。

「麈」(シュ)は鹿より大きいので鹿の群れのリーダーを務めるらしく、

群鹿随之、視麈尾所転而往。

群鹿これ(麈)に随い、麈尾の転じるところを視て往く。

鹿の群れは、麈の後をつけ、その尻尾の向かう方向を見て移動する。

と「名苑」という書に書いてあるそうですから、尾もでかいのでしょう。

「麈尾」は禅僧が机の上の塵などを掃くためにこの麈の尾を束ねて筆のようにした道具であり(要するに「払子」である)、「玉麈尾」とはその柄のところが「玉」でできているものをいうのでしょう。

麈尾は蜀の宜君山というところで多く採れるというが、まことの麈の尾なら貴重なものである。

王栄老はこの玉麈尾を江神の神殿に奉納いたしました。

しかし、その翌日も風雨は治まらなかった。

「う〜ん、では、これであろうか」

A端石硯

これは端州の石で作った硯ですね。今でも貴品として出回っているかと思います。

しかし、翌日も風雨は治まらなかった。

B宣包虎帳

広げられた虎皮のとばり。(「宣包」の解釈は誤っているような気がします。識者の教示を待ちたいのじゃ。)

しかし、翌日も風雨は治まらなかった。

「どうしたものかのう・・・」

王栄老は、その晩、家人たちに命じて、荷物箱を開けなおして何か貴重なものが入っていないか点検させた。

やがて、

――だんなさま、もしかしたらこれではございますまいか。

召使の一人が探し出してきたものを見て、王は

「むう」

と呻ったものである。

C黄魯直草書扇頭子題韋応物詩

黄魯直の草書せし扇頭子――韋応物の詩を題す

北宋の大文人、蘇東坡も一目置いた黄魯直が草書で、中唐の詩人・韋応物の詩を書いた扇子

である。

「これか? しかし・・・じゃ、

我猶不識、鬼寧識之乎。

我なお識らず、鬼なんぞこれを識らんや。

わし自身が今の今までこんなものを持っていたのを忘れていたのだ。霊的なものがどうしてこれに気づくことがあろうか・・・」

と呟きつつ、

持以献之。

持して以てこれを献ず。

神殿にこれを持って行って献上した。

すると、

香火未収、天水相照、如両鏡対展。南風徐来、帆一餉而済。

香火いまだ収まらざるに、天水あい照らし、両鏡の対展するが如し。南風徐(おもむろ)に来たり、帆一餉にして済(わた)る。

お香の火がまだ燃え尽きないうちに、風雨は治まり、空と水はともに晴れ渡ってお互いを照らしあって、まるで二つの鏡が向かい合っているかのようになった。そして追手の南風がゆったりと吹き始め、早速出帆した一行の船は、一回メシを食う間に江を渡ってしまったのであった。

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「・・・ということでした。ちゃんちゃん」

と、話し終えたのは、彭乗さんでした(「続墨客揮犀」巻二)。

「これは、おじき(彭淵材)の友人の恵洪という坊さんが書いた「冷斎夜話」に書いてあったのだ。だから、もしウソ八百の話であってもわしのせいではないのだ」

と彭氏は言い、かつ、

「ついでなので、扇子に黄魯直が書いていたという韋応物の詩はこうであったそうな」

と嘯きはじめた。

独憐幽草澗辺生、  ひとり憐れむ、幽草の澗辺に生じ、

上有黄鸝深樹鳴。  上に黄鸝有りて深樹に鳴くを。

春潮帯雨晩来急、  春潮は雨を帯びて晩来急に、

野渡無人舟自横。  野渡に人無く舟自ずから横たわる。

目立たない草が谷間に生えた。その上の深い森の樹の枝で、

黄色い鳥が鳴いているのだが、その趣に気づいたのは、わしだけであろうか。

春、雪解けの水が増し、おまけに夕暮れになって雨も激しく降ってきた川辺の

渡し場には誰もおらぬ、ただ舟がおのずとたゆたうのみ。

「野渡」は官が整備する「官渡」と違い、住民が使うみすぼらしい渡し場をいう語である。

さて、また五日間もしごとなのだなあ。

 

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