・・・狢(むじな)というドウブツがいましてね。このドウブツは不思議な習性があります。
観察してみればすぐわかる。
このドウブツを放してみると、
行数十歩輙睡。
行くこと数十歩にしてすなわち睡る。
数十歩あるくとすぐ眠ってしまう、のである。
そこで、
以物撃足、警之乃起。
物を以て足を撃ち、これを警すればすなわち起く。
棒などでその足を叩いて、目覚めさせてやると、いちおう起き出す。
しかしながら、
既行、復睡。
既に行くに、また睡る。
そうするとしばらくは起きて歩いているのだが、またすぐに眠ってしまう。
ということで、まことに
可愛。
愛すべし。
かわいいやつ。
というドウブツである。
「・・・わたしは北宋の治まれる時代に、京師(開封)の薬売りのじじい(「売薬翁」)のところで見ましたよ」
と、年末からまだ在留して、モチばかり食っている彭乗さんが教えてくれました。(「墨客揮犀」巻三より)
ああ。
麒麟や鳳凰よりもこの狢というドウブツこそが、四海の果てまで治まれる世にふさわしく、まことにめでたい太平のドウブツというべきではありますまいか。こんなにすぐ眠ってしまうようなやつのくせに厳しい適者生存の進化論を生き残っているのですから、すごい力をどこかに秘めているにちがいありません。
最近のムジナが数十歩ごとに眠ったりしないのは、中近東をはじめ四海の隅々で戦火が収まらないからであるかも知れません。いや、そうに違いない。