
↑ひとの世のはかなさよ。陸上にてはこんなのに食べられることもあり、
水中にては↓こんなことに・・・。
宋のころ、李主簿というひとがいた。名前は伝わらない。(「主簿」は県などの庶務担当の責任者の職名)
このひと、ある夏の晩、月に乗じて部下らとともに舟遊びと洒落込んでいた。
涼しげな
臨舷濯足、忽有物自水中掣其足。
舷に臨んで足を濯うに、忽ち物ありて水中よりその足を掣(ひ)く。
ふなべりにいて、足を水につけてじゃぶじゃぶしていたところ、突然、
「あ、あわわ、救けてくれえ!」
と慌てたように叫び出した。見ると、主簿は、足を水中に突っ込み、腕で船べりにしがみついて
「な、何かがわしの足を引っ張って、水中に引っ張り込もうとするんじゃ!」
と喚いているのである。
その必死の訴えに、一体何モノのせいなのかわからないまま、
衆力為救之。
衆力これを救わんとす。
居合わせたものみんなで、主簿が水中に引き込まれないよう引っ張った。
しかし、李はすごい力で引っ張られているらしく、舟の上から、彼が水中に引き込まれないように引っ張っている衆人の力と拮抗して、しばらく船べりで呻りながら耐えていたが、やがて、
号呼、云、其痛徹于心骨、不可忍、吾寧死也。
号(さけ)び呼びて云う、「其の痛み心骨に徹して忍ぶべからず、われ寧ろ死なんかな」
呼び叫んで言うに、
「ああ、もうだめだ、もうだめなのだ、引っ張られて骨の中心までしびれてきた。わしはもう死んだ方が楽じゃ」
と。
遂随之而入。
遂にこれに随いて入る。
とうとう何モノかに引っ張られて、ずぶずぶと水中に沈んで行った。
「ああ、主簿どの!」
みな舟の中からその名を呼んだが、もはや答えることもなく、
明日、求其尸不獲。
明日、その尸を求むるも獲ず。
夜が明けてから死体だけでも、と探したのだが、どうしても見つからなかった。
ほんとうにどこに行ってしまったか、わからなくなったのである。
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水中にあって主簿の足を引いたモノは何だったのでしょうか。興味つきない?このお話は、彭乗の語るところである。(「続墨客揮犀」巻五)
明日もまた早出なので、短いお話にしました。言い訳ではなく本当なのです。
わたくし、昼間の仕事、追い込まれております。間もなく己れの心の中の闇に潜む何ものかに引き込まれて、水中に消えて行くもの遠くは無いでしょう。ああ、そのとき、救いの手を差し伸べてわしの腕を引っ張ってくれる者はいるのだろうか。