一 父母をいとをしみ、兄弟にむつまじきは、身を脩(修)むる本なり。本かたければ末しげし。
一 老を敬ひ、幼をいつくしみ、有徳を貴び、無能をあはれむ。
一 忠臣は国あることを知りて家あることを知らず。孝子は親あることを知りて己れあることを知らず。
一 先祖の祭を慎み、子孫の教を忽(ゆるがせ)にせず。
一 辞はゆるくして誠ならむことを願ひ、行は敏(さと)くして厚からむことを欲す。
一 善を見ては法とし、不善を見ては、いましめとす。
一 怒に難を思へば、悔にいたらず。欲に義を思へば、恥をとらず。
一 倹より奢に移ることは易く、奢より倹に入ることはかたし。
一 樵父は山にとり、漁父は海に浮ぶ。人々各その業を楽しむべし。
一 人の過ちをいはず、我功にほこらず。
一 病は口より入るもの多し。禍は口より出づるもの少なからず。
一 施して報を願はず、受けて恩を忘れず。
一 他山の石は玉をみがくべし。憂患のことは、心をみがくべし。
一 水を飲んで楽むものあり。錦を衣て憂ふるものあり。
一 出る月を待つべし。散る花を追ふこと勿れ。
一 忠言は耳にさかひ、良薬は口に苦し。
というのは、江戸中期、伊豆下田生まれの一風変わった儒学者・中根東里の「壁書」である。
井上哲次郎博士、これを評して、
右十六条いまだ甚だ奇なりとせずと雖も、亦日常の行為に適切なる治心の法を列挙せり。学者若し之れを実行するを得ば、其君子たるに於て綽綽然として余裕あること疑なきなり。
といへり。
みなさんに宜しかろうかと思い、掲げた。