二章、サービス商品の特質

一、サービスは目に見えない

よいサービスを実践していくにあたっては、サービスの特質をよく理解しておく必要があります。

小売店はモノにサービスをプラスしてお客様に提供する、サービス業です。モノを販売するときに、確かな商品知識が不可欠であるように、サービスについてもその特質をよく知っているかどうかが、良いサービスに反映されます。

前章でフィリップ・コトラーのサービスの定義をご紹介しました。コトラーは、サービスは目に見えない効用である、といっています。

この目に見えないということが、サービスの最大の特徴であり、また欠点でもあります。

どんなに良いサービスをおこなっていても、それが見えなければお客様に伝わらないからです。だから、見えないサービスを、見えるように演出することが重要になってきます。

政治家は選挙のとき、有権者に自己アピールをします。そのとき必ず全員が真っ白の手袋を着用します。まちがってもグレーの手袋はしません。これは「自分の手はよごれていません」という演出です。胸に付ける真紅の薔薇は強固な心臓の象徴であり、ウグイス嬢を何人も従えた様子はハーレムを作るオットセイを彷彿させます。まだまだ身体は大丈夫、任せてください、というわけです。

ホテルを利用すると、トイレの便座やコップに「消毒済」と書かれたセロハン紙が巻かれていることに気づきます。ほんとうに消毒したのかどうかはわかりませんし、コップに巻かれた一枚の紙で雑菌の進入を防げるかどうかもわかりません。しかし、清潔であることはホテルの重要なサービスのひとつであるわけで、その清潔にしているという見えないサービスを、見えるように演出しているのです。

わたしが金沢のあるビジネスホテルを利用したときのことです。初めての宿泊でしたが、こざっぱりとした感じのよいホテルでした。

チェックインをすませ部屋に入ると、ベッドの上に置いてある名刺に気づきました。名刺には女性の名前が記されていました。といっても、あやしげなものではありません。その名刺には「このお部屋は私が清掃いたしました。お気づきの点がありましたらフロントまでご連絡ください」と書いてあったのです。

すばらしい演出だと思いませんか。もう清潔なホテルというのは当たり前のことです。その当たり前のサービス、すなわち機能的サービスが演出という表層サービスによりさらに盛り上がるのです。

ある持ち帰り寿司チェーンの店長マニュアルには、お客が並んだら板前さんは顔を上げなさい、とあります。板前さんが一所懸命に寿司を握っていても、お客様の方としては自分の注文をちゃんと作っているのか気になるものです。そんなとき板前さんは下を向いて黙々と寿司を握るのでは無く、頭を上げなさい、そして左右を見なさいとあるのです。「安心してください、ちゃんとお客様のことを分かっていますよ」ということをと演出するのです。

さて、ここで小売店にとっての演出についてかんがえてみましょう。

たとえば清潔な店を演出するために必要なことは、まず店頭が清掃され、店内も整理・整頓さていることです。汚れている看板は、わざわざ金をかけて「うちの店は汚れています」と宣伝しているようなものですし、通路に置きっぱなしの段ボールや仕舞い忘れたシャッターのガイド棒は「だらしない店」を演出します。

信頼感を演出するためには、従業員ひとりひとりがネームプレートを付けるとか、統一したユニフォームを着用するとかが考えられます。また、セミナーの修了証書や公的機関の認定書などを掲示する、接客したら担当者が名刺を渡すなどもひとつの方法です。

すなわち見えないサービスを、お店のあらゆる部分─看板・店頭・ショーケース・商品・販売員等々─をつかって演出し、お客様にアピールするのです。

お客様に自分の店をよく知ってもらうためには積極的に「見せる」ことです。外から中の様子が見えないという店があります。これでは、この店でどんなサービスが受けられるのかお客様にまったくわかりません。つまり、演出がないのです。逆にいうと、「一見さんお断り、うちは固定客だけの店です」という演出をしているともいえます。

だから、私が地方に出張し、夜飲み屋を探すときに中の様子がわからない店には入りません。酒を出すということはわかっても、どんなサービスをどのくらいの金額で提供してくれるのかわからないからです。

サービスは受けてみるまでその品質がわかりません。受けてみて初めて自分の思う通りのサービスであるか、期待外れのサービスかがわかるのものです。

受けたサービスが自分の期待通りでなかった場合、お客様は失望し二度と来ることはなくなります。そして「あの店はだめだ」という情報をまき散らすことになります。

はやっている店は外から見ただけで、どんなサービスが受けられるかわかるものです。サービスをイメージ化・視覚化しているのです。ですから、お客様にとっても自分が期待するサービス内容が事前にわかるし、そうすることによって失望することもなくなるわけです。

大切なことは、お客様がお店を選びやすくできるように、「自分の店はこんな店ですよ」と精一杯アピールすることなのです。店がお客様を選ぶのでなく、お客様に店を選んで頂けるような工夫、それが演出です。