二、サービスは在庫がきかない
モノは生産され、それがメーカーや小売店に在庫され、そしてお客様が購入し消費されます。生産→在庫→消費という時間的流れがあります。
サービスの流れを考えた場合、生産と消費が同時に発生します。つまり、在庫や流通が存在しないのです。
たとえば、笑顔のサービスというものがあります。お客様に爽やかな笑顔で応対しようとするサービスです。この笑顔のサービス、店が比較的すいているときには十分にできます。しかし、たくさんのお客様がひとりの販売担当者のまえに並んでしまいますと、接客に追われて笑顔どころでなくなってしまいます。
そこで、暇なときに「笑顔のサービス」をたくさん作っておいて棚に在庫しておき、お客様が混み合ってきたら棚から笑顔を出してお客様に配る、ということはできないわけです。サービスは在庫がきかないからです。
また、生産即消費ですから、やり直しがききません。お客様が店に入ってきたときに従業員同士おしゃべりをしていて「いらっしゃいませ」が言えなかったとします。そのときに「お客様がいらしたのに気づかず失礼しました。申し訳ありませんがもう一度入りなおしてください。こんどはきちんとお声を掛けさせていただきます」というわけにはいかないのです。サービスは生産された瞬間にお客様が消費するという、大変に特異な商品なのです。
こうした、瞬時に消費されてしまうサービスにもただ一か所だけ在庫ができる場所があります。それはお客様のこころの中です。よいサービスも悪いサービスも、お客様のこころの中にはしっかりとストックされていくのです。
だから、固定客というのは、過去に良いサービスを受けた経験のあるお客様の集まりということができます。
そして固定客を多く持っている店というのは、良いサービスの在庫を多く持っている店ということになります。
これはたとえばこういうことです。
固定客でないお客様が、ある店に入りました。ところが非常に混み合っていて、従業員に声を掛けても「お客様、少々お待ちください」というばかりです。そのお客様は「なんだこの店は、満足に接客もできないのか」と怒って帰ってしまいました。
ところが、固定客のお客様が同じようにその店に入りました。従業員が「山田様、少々お待ちください」といいました。そのときに、そのお客様は「彼女がいうのだからしかたがない。また後でこよう」というふうに解釈しました。お客様は受けられなかったサービスの代わりに、自分のこころの中にあった在庫を使うことができたのです。
小売店にとって、いや小売店に限らずすべての企業にとって、固定客を作ることは最大の使命です。固定客が作れない店は、経営者の店育成の能力がないといえます。
小売店の使命は、一人でも多くの固定客を造ることです。
セミナー会場で「うちはフリー客が少なくて、売上が上がらない」という声をよく聞きます。これは、自ら固定客を作るだけのサービスをおこなっていませんと、言っているのと同じことです。
そのような方にわたしは質問することがあります。「フリー客とはどういうお客様のことですか」と。
「一見のお客様」
「なじみのないお客様」
と、いろいろな答が返ってきます。
しかし答のすべてが小売店側から見たお客様の定義なのです。たとえば、なじみがないというのは店からみてなじみがないのであって、お客様はどう店をみているのかわかりません。もしかしたら、店が「初めてきたお客様」と思っているだけで、ほんとうは何回も店に足を運んでくれている方かもしれませんし、毎日店の前を通っている方かもしれません。
いや、むしろ、小売店を利用するお客様は、ほとんどがその地域に住んでいるひとか、または通勤通学で毎日店の前を通るひとである、と考えた方がよっぽど自然です。常にお店の前を通って、お店の中を眺め、何回に一回かはお店の中に入っているかもしれないお客様が、どうしてフリーなのでしょうか。
たとえターミナル立地や大型ショッピングセンターの中のテナントであっても、これは同じことです。
東京ディズニーランドだって八割のお客様がリピーターだからあんなに盛況なのです。もしもフリー客を一見のお客様、ただ一度のお客様とするならば、本当のフリー客相手の商売は「観光地のみやげ物屋」しかありません。
だから地域に密着する小売店にとって、フリー客などあり得ません。来店するお客様のすべて、店の前を通るひとのすべてが固定客、または将来の固定客なのです。
「フリー客がすくないから」と売上不振を、実態のないフリー客のせいにして、固定客を造る努力不足を省みない店は、今後ますます低落していくことでしょう。