四、サービスは品質保持が難しい

サービスにも商品と同じように、品質を保つことが必要です。常に一定の安定したサービスを提供することがお客様の信頼を得ることにつながります。

しかし、この一定の品質を保つことが、実は大変に困難なことなのです。それはサービスはひとに依存する度合いが大きいものだからです。

わたしの晩酌は毎晩ビールです。会社帰りに、昨晩ビールを切らしてしまったのを思い出し、ある酒屋へ買いに行ったことがありました。

そこでロングサイズの缶ビールを半ダース買いました。すると、店のひとがキャンペーン中ですからと、小さなジョッキを一個くれたのです。

家に帰ってからそのジョッキを見ると、これがなかなかいいのです。このジョッキで飲んでいるうちに、どうしてももう一個欲しくなってしまいました。

そこで、翌日もう一度その酒屋に行き、昨日と同じビールを半ダース買ったのです。ところがお目当てのジョッキをくれません。そこでわたしは店のひとに尋ねました。

「ジョッキはつかないのですか」

「あ、このビールにはつきません。メーカーがちがいます」

「だって、昨日はくれましたよ」

「それは、アルバイトがまちがえたんでしょう」

ではなぜ、もう一度まちがえないのか、と言いたいところを抑えて店をでましたが、大変に腹が立ちました。

それ以来わたしはその店に行かなくなりました。

ここには、サービスの品質管理上の問題が二つあります。

ひとつめは店主とアルバイトという、サービスをおこなう人間が異なることによって、提供するサービスにばらつきが生じたということ。

ふたつめは、どんな理由であれ一度おこなったサービスを店の都合で続けることができなかったことです。

この問題を解決するために、なぜこんなことが起きたのかを考えてみましょう。

まず、なぜアルバイトが景品をまちがえたのでしょうか。それは、店主がどの商品にどの景品がつくのか、アルバイトにきちんと伝えていなかったからです。一定のサービスを提供するためには、きちんとしたルール、決めごとが必要です。だれが接客してもブレのないサービスを提供するためにできるだけ詳しく、アルバイトでも理解できるようなやさしい、そして守れる工夫をしたルールを明文化しておくことです。これが「マニュアル」です。

小売店は地域密着型の商売ですから、その地域に合ったサービスを開発し提供することが必要です。ですから店独自のマニュアルを開発しなければなりません。

従業員教育をマニュアルに基づいておこなっている店では、たとえ新人であっても一定のサービスを提供することが可能となります。その結果、お客様にとっても受けるサービスの質がいつも同じになり、失望することがなくなります。

さて、サービスにはマニュアルが必要であるというと、反対されるかたも多いと思います。

「マニュアル人間は、マニュアルに書いていないことは何もできない」

「本当のサービスはマニュアルを越えたところにあるものだ」

等々。

マニュアルに否定的な、もしくはマニュアルに限界があると思っているかたが、よく例に出されるものにマクドナルドの話があります。

会議に差し入れるためにハンバーガー三十個を買いにきたお客様に、店員が「こちらでお召し上がりですか」と聞いて、お客様が怒った、というあの話です。

だからマニュアル人間は応用がきかない、というわけです。

この話が本当にあったことなのかどうかは分かりません。しかし、マクドナルドは接客応対はもちろんのこと、作業手順、組織、昇進、賃金体系にいたるまで、マニュアルが完備しているということですから、ありそうなことかもしれません。

しかしながらこの話が本当のことであったとしても、マニュアルが悪いことにはならないと思います。むしろよかったのではないかとさえ思うのです。

なぜなら、マニュアルは一定のサービス提供のために人材を育成するツール(手段)であるからです。おそらく、お客様に怒られたこの店員の女の子は「あ、こういう場合にはこう言ってはいけないんだな」と、気付いたはずです。そして、この子はもう二度と同じあやまちはしないことでしょう。

実はこのマニュアルが教材であるという見方が大切なのです。マニュアルをどう使って従業員教育をするかという「マニュアルの運用法」を考えず、単なる手法であるマニュアルが良い悪いという議論は意味がありません。

そして従業員教育が行き届いた店、イコールサービスが良い店となります。

だからマニュアルをどう使っていくかも含め、その店独自のマニュアルを作っていくことが大切なのです。

さて、酒屋の話に戻ります。同じサービスができなかったというふたつめの問題です。ここにはつぎのような可能性が考えられます。それは最初に景品をくれたアルバイトが、景品がつかないことを知りながらも好意でつけてくれたという場合です。

物的なサービスであれ、人的なサービスであれ、人間というものはときにすばらしいパワーを発揮するときがあります。いわゆる「のっている」ときです。

期待する以上のサービス提供を受けたわけですから、お客様には感動してお帰りいただけます。しかし次回が問題なのです。お客様は次に来店したときにも、また同じようなサービスが受けられるものと大いに期待します。ところがこういうサービスは長続きせず、この期待は裏切られることになります。

つまり、どんなにすばらしいサービスであってもそれが思いつきのサービスであったとしたら、むしろやらないほうがましということがいえます。

ここにもサービスの品質管理の難しさがあります。

そこで小売店の経営者として考えなければならないことは、お客様に接するという商売の最前線に立つ販売担当者には、現場で判断し行ったサービスに対する矛盾のない受け皿を作っておかねばならない、ということです。

これはたとえばこういうことです。従業員に「笑顔のサービス」を教育している店に、お客様が返品を持ってきたとします。返品を受け取った従業員の頭の中では、「返品を取ってあげてお客様に喜ばれたい」という気持ちと「返品が多くなれば店主に怒られる」という考えが葛藤します。このとたん「笑顔のサービス」はどこかへ吹っ飛びます。

だから整合性のあるマニュアルが必要なのです。従業員が現場で迷うような、また自分の判断が否定されるようなことがあってはなりません。

安定した均一のサービスから、お客様は店に対する信頼感を持つことができます。

わたしは車で旅行したときに、全国に展開しているファミリーレストランに入ることがあります。旅行ですから土地の名物を食べるべきなのでしょうが、均一のサービスに安心感を覚えるためです。

「こころのサービス」はマニュアルの上に成り立つものなのです。