二、「効果的効率」を考える

「効果的効率」について、病院を例に考えてみましょう。

全国の病院は、その七五パーセントが赤字経営だといわれています。経営的に成り立ちにくい業種といえます。

今、病院が伸びていこうとするならば「患者に喜んでもらうこと」を考えなければなりません。つまり「効果の追求」です。ところが、患者に喜んでもらうという立場に立ちにくいのが病院なのです。

以前は町には町医者がいて、ひとびとは病気になると必ずその病院を訪ねました。少々評判が悪くても、隣町の病院に行くには汽車とバスに長く揺られなければならず、患者に病院選択の自由はあまりなかったのです。病院が患者を生かす時代でした。

ところが今やちょっと車を走らせれば、いくらでも良い病院を捜すことができます。患者が病院を生かす時代が来たのです。

しかし、いまだに「病院が患者を生かす」という考えから抜け出せないために、患者に喜んでもらうことよりも、病院の常識の追求(効率の追求)を考えてしまいます。

病院の常識とは次のようなことです。

1)夕食時間が午後五時である

入院の経験がある方はお分かりかと思いますが、病院の夕食時間は世間の常識とは大いにかけ離れたものがあります。ほとんどの病院は早い所だと午後四時、遅くとも午後五時には出されます。それは、賄いをする従業員を遊ばせないためです。昼食が終わって後片付けがすんでからすぐに夕食の支度に取りかかるためです。こうすることによって人件費を少なくすることができるのです。

2)ベッドが高い

病院のベッドは随分と高く作られています。お年寄りなど、ベッドに慣れない人が落ちたら腰を痛めるような高さです。なぜ、あんなに高いかご存じでしょうか。

それは医者が腰を痛めないようにです。ベッドが低いと医者は腰を折って患者を診なければならず、効率が悪くなるからです。

3)待合室で待たす

「三時間待って五分の診療」が問題になっています。しかし、患者を待たせるということは病院の常識なので、多くの患者を待たすことに対して何にも感じないのです。

だいたい客を待たせる商売は効率が良いのです。企業の側で「生産」をコントロールできるからです。

大阪の心斎橋に「リクローおじさんのケーキ屋さん」という店があります。いつもお客様が長蛇の列で並ぶ店です。ここではまるごとの大きなチーズケーキが五〇〇円で買えるからです。

ケーキは売れ残りの量で値段が決まります。だからお客様が少ないケーキ屋では待たずに買えますが、値段は高くなります。お客様は「待つこと」と引き換えに、安いケーキを手に入れることができるために自発的に待つのです。

しかし病院で待たされるのは「患者」です。私も子供が生後三ヵ月のとき、病院で二時間も待たされたことがありました。病人を固い長椅子で長時間待たすのは「犯罪」に近いものがあると思いませんか。

さて、こうした病院の常識から抜け出せない病院が経営不振になると、迷わず効率から入ってしまうのです。

経営不振の病院が先ず行うことは、看護婦の数を減らすことです。そうなると一人あたりの仕事量が増え、質の高いサービスを提供することが不可能になります。

看護婦がなぜ早足で、走るように病院の廊下を歩くのかお分かりですか。それは病室の患者と目が合うと、余計な仕事が増えるからではないでしょうか。

そのほか、高い薬を出したり、時間外診療を取り止めたり、効率を上げようとするのです。

その結果、さらに患者の病人離れは進んでいくことになります。

そんな中で効果を追求し、多くの患者から支持されている病院があります。長野県にある篠ノ井病院です。篠ノ井病院は業界の常識をくつがえす斬新なサービスを採り入れた経営で、大変に伸びています。

それでは、そのサービスをご紹介しましょう。

1)夕食時間を六時とした

六時に夕食を出す、というだけで全国の病院関係者から大変な注目を浴びたそうです。どれだけ「業界の常識」と「お客様の常識」がかけ離れているかが分かります。

さらに篠ノ井病院では「あたたかいものを、あたたかいうちに出す」ということを実行しました。栄養課長にはスカウトした料理店の板前を据え、毎朝市場に材料を買い出しに行かせました。

2)ベッドの高さを低くした

いままでベッドを高さの低いものに替え、お年寄りでも安心して寝られるようにしました。その代わり、患者を診るときには医者の方が腰を低くしたり、ひざまずいたりすることになりました。

こうした診察で、一番喜ぶのは家族です。

「お医者様がうちのばあちゃんのことをひざまずいて診てくれる」となります。

相手の目線と高さを合わせる、というのは接客の基本です。たとえば、ディズニーランドの風船の売り子は、子供が一人で風船を買いに来たときは必ず腰をかがめます。「視線の高さを合わせること」というマニュアルがあるそうですが、このときに考えなければならないことは、子供が一人でディズニーランドに来るかということです。必ず、どこかで両親が見ているはずです。自分の子供に、腰をかがめて接してくれている売り子を見て、両親は小さな感動を覚えるに違いありません。こうした小さな感動の積み重ねが固定客を作っていくのです。

3)薬の待ち時間を十分以下にした

患者を待たせないために、調剤の時間を十分以下に決めました。そのために、病院内のリレーションを早くとるにはどうするかを考えました。医者が書いたカルテは直ちに薬局に回され、診察が終わった患者が長く待つことはなくなりました。

4)看護婦が患者を診る時間を作った

病院内のマニュアルで、看護婦は一日のうち一定時間必ず病室にいなければいけないということを決めました。用があってもなくても患者に接することで、きめの細かい看病ができるようになりました。

既存の病院イメージを打ち破る新しい試みで、各方面から注目されている「千葉県こども病院」においても、「子供からのナースコールを待っていてはいけない」という積極的な対応をしています。

サービスというのは、相手から要求されて初めて行うのではなく、先手を打って行う方が効果があるからです。

こうした効果的な経営改善の結果、篠ノ井病院には患者がどんどん集まるようになりました。そして、次の課題として、集まった患者を「効率的」に診察することを考えればよいのです。効果・効率の順です。決して効率・効果ではないのです。

そして、効果追求とは「業界の常識」から脱却することです。

もうひとつ、どんなに業界の常識というものの殻が固いかお話します。皆様はお客様を接客する時に、お客様を立たせて自分が座ったままで応対するでしょうか。おそらく、そんな失礼な接客をする販売担当者は皆無でしょう。先程も言いましたが、相手と視線の高さを合わせるというのがサービスの基本だからです。

ところが、お客様を立たせて自分が座ったままで応対する業界があります。銀行です。金を貸すのにわざわざ来店させて、しかも立たせたままで、借りる方が座って応対するなどは世間の常識とは大きくかけ離れたものがあります。

ところが銀行にしてみると「座った方が金額の計算を間違えないから」「書類を書かねばならないから」という理由を挙げてきます。しかし、このことは「効率」の追求であって、お客様に対するサービスを考えたものではありません。スーパーのレジ係も一日中立って計算をしますが、計算を間違えることはありません。ホテルのフロントも多くの書類を書きますが立ったままです。いまだに「立って接客する」という、単純明解なサービスの発想ができないのです。

ビジネスは顧客の創造です。そのためには「効果」を先ず追求する姿勢が必要です。そしてややもすると見えなくなる「業界の常識」という厚い壁の存在を常に意識し、壁を打ち破る努力が不可欠です。