四、商品よりもお客様に愛情を持つ
日本マクドナルドでは、作って十分たったハンバーガーは捨てる、としています。いつもできたての味をお届けします、という企業の姿勢を表しているのです。十一分以上たったハンバーガーは十分のものと味が変わるのかどうかわかりませんが、これはお客様にとって「効果的」なことでありましょう。
ところが、この「十分たったら破棄」を企業の常識で進めると、「では注文を受けてから作って、その間お客様に待ってもらえばよいではないか」ということになります。これは、企業にとって効率的な生産方法です。
しかしそうなると、「すぐ買える」というファーストフードを利用するお客様にとって最大の期待を裏切ることになります。モスバーガーでは「注文生産」という方法をとってこの問題を回避していますが、「すぐ買いたい」というお客様のニーズに応えることができなくなっています。私も昼食時にモスバーガーを利用して、大変に待たされたことがあります。それ以来、よほどヒマなときにしかモスバーガーを利用しなくなりました。
いつでも十分な在庫を確保し、かつ捨てる量を少なくする、この相反する命題にマクドナルドは取り組んでいます。ピーク時にこそ商品をすぐ渡すということが、固定客を獲得するチャンスであると考えているからです。マネジャーがフロアで指揮を取ることによっていまやハンバーガーの破棄率は二パーセント台だということです。
また、イトーヨーカ堂は「業務改革」という「お客様を大切にする戦略」で、大きな成長をしています。
一九八二年に決算が減益になったのを期に「業務改革」がスタートしました。日本経済の高度成長が終わり、ストア冬の時代を迎え、売り込みが限界になってきたので、業態店への変貌を図ったのでした。
お客様を大切にして、流通の流れを逆転させようという戦略が「業務改革」でした。
さて、業態とはお客様に愛情を持つ売り方のことです。小売店は売る物が何アイテムもあるので、その一品一品すべてに愛情を持つのは不可能です。ですから、お客様に愛情を持つのです。
イトーヨーカ堂では、パートに仕入れ、発注業務をさせています。パートは販売に関しては素人です。素人だからこそ、お客様の意向がよく分かるのです。ですからパートにお客様の立場に立った仕事を与え、その結果を評価するシステムを作ったのです。
例えば、鮮魚売り場では鮮度の落ちた魚は破棄しています。その売り場を担当するパートの顔が、常にお客様の方を向いているのです。
もしも商品に愛情を持っていたら、捨てることよりも売り切ることを考えるでしょう。でもその魚を買っていくお客様のことを考えたら、とても売ることはできません。お客様に愛情を持つ売り方を実行することにより「イトーヨーカ堂の商品は鮮度が良い」と評価を受けることになります。 さて、こうして「商品よりお客様に愛情を持て」という話をすると、「確かにそうだがそれでは費用が掛かりすぎる」「うちみたいな売上高ではそんなコストがかかることはできない」という声が上がります。
たしかに、商品を捨てるということに限らず、種々のサービスを行うためにはカネが掛かります。それによって利益が少なくなることもあるでしょう。
しかし考えていただきたいことは、「効果」を期待するために掛かるカネは、はたして費用やコストなのかということです。
「効果」とはマーケティングの考え方です。将来に渡っての売れる仕組み作りのためにカネを掛けるわけですから、これはあきらかに「費用」でなく「投資」です。
費用と投資を混同してしまうことは効果と効率の混同であり、経営者として失格です。そしてなにより、お客様にとって喜ばれない商品を捨てるという行為の裏にある考え方を理解していただきたいと思います。商品に固執すればするほど、お客様の様子が見えなくなるのです。商人は商品を大切に考える必要はありません。商人にとって一番大切なことは、お役に立つことによってお客様に喜んでもらうことであり、商品はそのための手段にすぎないのです。
「お客様に喜ばれるために」を第一に考え、次にそのための品揃えや効率のよい発注をどうするのか考えることが大切で、けっして在庫を売り切るためにお客様がいるわけではありません。