五、クレームは固定化の最大のチャンス 企業にとって一番怖い存在は「物言わぬお客様」です。自分の販売したサービスなり商品なりがどのような評価を受けているのか全く分からないからです。だから、わざわざ金と時間と人手を投資して、アンケートや市場調査を行うのです。
自店に対して良い印象を持っているお客様であったならば問題はないのですが、裏切られた経験をもつ「物言わぬお客様」は、自分の友達や家族に対してまで「物言わぬ」わけではありません。自分が受けた失望を必ず広めます。そして、悪い噂というものは良い噂の数倍のスピードで増殖していくものです。
ですから顕在化したお客様の失望感、すなわちクレームは企業にとって「天の声」なのです。金や人手を投資せずに、お客様の方からわざわざ自店の悪いところを指摘してくれるわけですから、こんなにありがたいことはありません。
アメリカのノード・ストロームという衣料品店では、どんな理由であっても返品を受け付けるということを行っています。たとえ、ドレスを買ったお客様が明らかにパーティで一度着たものを返品してきても受け付けるのです。しかも返品の時には、お買い上げの時以上の笑顔を忘れません。
ところが、クレームと聞くとただひたすら自己弁護に必死になる方が実に多いのです。あるセミナーでこのノード・ストロームの話をしたところ、化粧品店の奥様からこんな質問を受けました。「お客様が半分も使ってしまっている商品を交換して欲しいと持ってきた。こんなものでも交換するべきか」というものです。
結論から言いますと、お客様の求めることをして差し上げるべきです。そしてなぜこの商品に不満を持ったか理由を伺うのです。商品説明ができていなかったのか、お客様の要望と違う商品だったか、その原因を知ることによって今後の自分の販売姿勢の改善が可能となります。
「その商品が、自分の店で売ったものでない場合にも返品交換するのか」という質問も続きました。これも答えはイエスです。もしも、お客様が他の店に不満を持って自分の店を訪ねてきたのならば、お客様を増やすチャンスです。他の店のお客様を自店のファンにするまたとない機会であると考えるべきでしょう。
「お客様の中には、クレームばかりつけて店から金品をせしめる人もいるが、そういう人の場合はどうするのか」という質問もありました。例えこういうような犯罪者まがいの人に対しても、言われる通りするべきです。なぜかと言うと、クレームを言ってくるお客様のほとんどが「本当に困っているお客様」であるからです。犯罪者まがいの人はほんの一部に過ぎないはずです。お客様のうちごく一部の心ない人のために、他の大勢の「本当に困っているお客様」に対して満足のいく応対ができなくなるということは避けなくてはいけません。要は確率の問題です。小売店は客数商売ですから、確率として多いお客様を中心にサービスを行うべきです。
クレーム処理の第一のポイントは「損して得とれ」という商人の基本を実践することです。半分以上使った商品を返品交換して欲しいとお客様が持ってきたとき、商品一個を惜しむよりそのお客様との一生のお付き合いを選ぶべきです。商品一個の損が、その何倍何十倍の利益になって返ってくるのです。
「返品を取るのはいいのだけれども、仕入れ先の販売会社はその商品を取ってくれるかどうか分からないから、なかなか返品に応じられない」というご意見も出ました。たしかに卸売会社が商品の返品を認めてくれるかどうかは分かりません。しかし、分からないからというのが返品拒否の理由にはなりません。お客様のご希望に沿うクレーム処理を行ってから、卸売会社に相談しても遅くはありません。卸売会社にしても小売店からの返品は喜ばしいものではないでしょうから、簡単に応じてくれないかも知れません。しかし、卸売会社やメーカーにとっても、お客様のクレームは大切な情報です。小売店としてこの情報伝えることは義務でもあります。こうした上で返品を取ってくれないならば、それでもよいではありませんか。「損して得とれ」です。今回は店側で負担するから、次回の販促助成物を増やす約束でもすればよいのです。
第二のポイントはできない理由を言わないということです。お客様はそんな理由など聞きたくもありません。何ができるかを知りたいのです。クレーム処理こそお客様の信頼を得、固定化するチャンスとし、どうすればお客様の問題を解決することができるか真剣に考えるのです。こうなればできない理由など挙げるヒマは無いはずです。これが「お客様の立場に立つ」ということです。
そして、お客様の根本的な問題が解決するように全力を尽くすのです。「根本的問題」とはこういうことです。
例えば、購入された商品に不具合が生じたというお客様が来店されたとします。販売担当者は故障箇所を聞き、部品交換するようにメーカーに依頼する手続きを取ることでしょう。
この場合お客様が望むことが「完全な商品」を手にすることであるならばそれでもよいでしょう。しかし、お客様によってはどうしても今その商品が必要という方もいるはずです。例えば、いま家に病人がいてそのためにこの加湿器が必要であるとか、明朝から旅行に行くのでそのためのスーツケースであるとかという場合です。このようなお客様にとって「メーカーに修理に出す」ということは問題解決にはなりません。
この時、販売担当者が考えるべきことは、どうすれば故障が直るかでなく、どうしたらお客様の抱えている問題が解決できるかです。店として「できること」を探るのです。店頭にある商品から部品は取れないか、修理期間中の代替の商品は提供できないか、自分の店で無ければライバル店で売っていないか等本気になって考えればいくらでも出てくるはずです。
第三のポイントはいままで述べたことがらを実行するにあたり、お客様の期待以上のことをお客様から言われる前にするという事です。
クレームを店に持ってくるのが好きという人はほとんどいないでしょう。店の人は自分の言うことを聞いてくれるか、自分の問題を解決してくれるか、いろいろな不安を持って来店されるのです。そのときに、商品を買った時以上の笑顔で迎えられたら、これは期待以上のことであるし、お客様は感動を覚えるに違いありません。クレームの時ほど「お客様の期待を上回るサービス」を心がけることが大切です。
結果的に「商品交換」となったとしても、さんざん尋問されてまるで犯罪者であるかのような応対の末であったならば、最初からお断りしていた方がまだましです。
以上のポイントを踏まえ、お客様の満足いくような応対ができたならば、ほとんどのお客様はきっとその店のファンになるはずですし、無理なお願いをして悪かったなと思うに違いありません。