大阪府人事委員会は、最終口頭審理が行われた本年4月20日から3ヶ月を経てやっと「裁定書」を届けてきましたが、その内容は申立人(我々側)の主張を一切聞かず、処分者側の言い分だけを採用するとい不当なものになっています。ここに全文を掲載することにしました。なお、勇気をもって口頭審理で発言いただいた「同僚」の名のみ「○○」としています。
大阪府人事委員会の裁定書(全文)
平成16年大人委(不)第4号事案
申立人 元大阪府池田市公立学校教員
川瀬 正博
申立人承継人 川瀬 弘美
上記代理人弁護士 中北 龍太郎
同 代理人弁護士 川端 元樹
同 代理人 田中 一巳
処分者 大阪府教育委員会
上記代理人弁護士 筒井 豊
同代理人 西村 嘉一
裁 決 書
大阪府人事委員会は、平成16年11月4日付けで申立人から提起された不利益処分に関する不服申立てについて、次のとおり裁決する。
主 文
処分者が平成16年8月20日付けで申立人に対して行った懲戒免職処分は、これを承認する。
事実及び理由
第1 不服申立ての趣旨
処分者が平成16年8月20日付けで申立人に対して行った懲戒免職処分の取消しを求めて、同年11月4日付けで当委員会に不服申立てを行ったものである。
第2 事実の概要
1. 処分の内容
処分者は、平成16年8月20日付けで大阪府池田市立石橋南小学校(以下「石橋南小学校」という。)の教諭であった申立人に対し、地方公務員法(以下「地公法」という。)第29条第1項第1号及び第3号の規定により本職をずるとの発令(以下「本件処分」という)を行った。
その処分理由は、次のとおりであった。
申立人は、平成16年5月29日(土)午後8時34分頃、池から田市所在の会社敷地内において展示されていた普通乗用自動車からアンテナ1本を取り外して窃取した。
また、同年7月5日(月)午後4時10分頃、能勢町宿野の路上で、徒歩で帰宅途中の小学校高学年の女子児童二人に対して、千円札を示しながら、「妙見山の入り口を知っていたら千円札をあげるから入口まで車に乗って案内して欲しい。」などと声を掛けたが、同児童らに断られた。
申立人は、これらの行為の結果、同年7月30日(金)、窃盗罪及び未成年者誘拐未遂罪で起訴されるに至った。
このことは、学校教育に携わる公立学校教員として、その職の信用を著しく失墜し、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であると言わざるをえない。
よって、地公法第29条第1項第1号及び第3号に該当するものとして、本職を免ずる。
2.争点
本事案の争点は、(1)本件窃盗行為に対する懲戒免職処分は過重な処分ではなかったか、(2)平成16年7月5日の能勢町における行為は懲戒事由に該当するか、(3)懲戒処分をしたことは処分権の濫用か、(4)公正な手続きに基づき処分が行われたか否か、の4点である。
これらの争点に関する当事者の主張は、大要次のとおりである。
(1)本件窃盗行為に対する懲戒免職処分は過重な処分ではなかったか
@ 申立人承継人の主張
申立人は、前科前歴が一切なく、申立人が行った行為は、時価1万5000円相当のアンテナの窃盗に過ぎず、行為態様も敷地に入ったが建造物に侵入したわけではなく、ガレージに駐車中の車からとったに過ぎず、被害金額や行為態様として軽微な窃盗である。
また、被害者の中古車センターに対し、時価1万5000円のアンテナの被害弁償金として、被害額をはるかに上回る43万円の金員を支払っている。申立人は、窃盗行為に関しては、真摯に反省し、その気持ちの表れとして十分な被害弁償を行っている。
申立人は、教職員として、27年間勤務し続けており、その間、教え子や保護者、同僚らから慕われ、尊敬されてきた。そのような申立人の人柄・人間性からすると申立人の行った行為は、異常かつ異例の行為であり、その主な原因は申立人の精神的な状態が極めて悪化したしていたことにある。
申立人は平成16年4月頃、自然学舎を見に行った帰りに警察に自宅まで送ってもらうほどに泥酔をしたり、眠れない日が続き、家庭内や学校での様々な異常な行動が見られるなど、精神的な状態が極めて悪化していた。
また、このころ教頭から、申立人に対して、「あなたの行動について周りから指摘を受けている。タバコを吸ってはいけないところで吸っている。戸締りを忘れている。…私も精神的にまいっていた時期がある。そのときにこの本を読んで乗り越えた。私からの忠告だと腹が立つと思うので、私からだと思わずに受け止めてほしい。」という内容の手紙をもらっている。
また、窃盗行為を担当した警察官から申立承継人に対して、「彼は病気や。早く医者に連れて行ったほうがいい。」と述べているなど、申立人に接した複数の関係者から見て当時の申立人は、心身のバランスを崩していたことが明らかになっていた。
さらに、申立人は、平成16年になってから、従前の生活指導、担任及び社会科に教育部長に加え、文部省の「就学前教育と小学校の連携に関する総合的調査研究事業」(幼・保・小連携)の研究指定校となった石橋南小学校の責任者であったこと、また社会科の教科書編集委員も担当することになったうえに、自然学舎の担当にもなり、計画立案、説明、実行を下見から引き受けていた。以上から、申立人は、一人で多数の業務を兼任し、他の教職員に比べ、過重な業務負担を負っていたことは明らかである。
このように、申立人の精神状態が悪化していたこと及び過重な業務負担を負わされていたにもかかわらず、管理職らから申立人に対し、親身な声かけや話し合い、疲れていないかなどという配慮は全くなかったことが認められる。申立人に対し、適切な管理体制がなかったことは明らかである。
加えて、申立人に対する本件処分後、申立人の教え子や教え子の保護者、同僚の教職員らが中心となり、「かわせの会」が結成された。
「かわせの会」の参加者らは、申立人の優れた教育活動、教育者として高く評価されること、生徒達・保護者・他の教職員等「かわせの会」の参加者以外からも慕われ、尊敬されていたことから、本件処分が行き過ぎであると確信し、その取消しなどを求めて活動してきた。
また、申立人のことを心配する人々から多数の暖かい支援の手紙が寄せられているなど、申立人ないし申立人承継人を支援する多数の声が上がっている。なお、処分者がこれまでに行った窃盗に関する懲戒免職処分の事案は次のようなものであった。
・ 平成13年5月21日の懲戒免職処分:自転車窃盗及び強制わいせつ事例
・ 平成13年12月10日の懲戒免職処分:298万円の窃盗、多額の現金の横領及び覚醒剤使用事例
・ 平成15年2月17日の懲戒免職処分:被害品が発泡酒1本に過ぎないが、隣家に侵入したうえで盗った事例
・ 平成18年6月15日の懲戒免職処分:被害金額が75万1000円と極めて高額な事例
本件は、こういった懲戒免職処分事案に比し、行為態様や被害結果の点で明らかに軽微であることがわかり、本件に対し、懲戒免職処分は著しく重い処分である。
以上の申立人に有利な多数の情状からすれば、申立人に対する懲戒免職処分は極めて重く、処分者の裁量を逸脱した違法な処分であることが明らかである。
A 処分者の主張
申立人は、中古車販売業者の敷地内に無断で侵入し、自分の自動車のアンテナの調子が悪いからという身勝手な理由で、被害者の困惑・迷惑を思わずに、そこに展示してあった自動車のアンテナを窃取したものであり、その行為の悪質さを否定できない。
同人に前科前歴が一切ない、建物などに侵入したわけではない等の申立人承継人が主張する事情を考慮したとしても、本件処分が処分者に委ねられた合理的な裁量権の範囲を逸脱したものでないことは明らかである。
申立人承継人は、申立人は反省の気持ちから、多額の被害弁償をしたことなどを主張するが、事件が判明した後も本件窃盗行為を校長に報告しておらず、必ずしも反省しjていたとは認められない。
本件窃盗行為は児童生徒の教育を担うという職席上、高度な倫理観と自律心を要求される教育公務員としてのその職の信用を著しく失墜し、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であることは明らかである。
また、申立人は、処分者の事情聴取において、「16年4月から自然学舎の下見で鳥取へ行くのを同僚の平松教諭に一人で行かされたことや、文科省の幼稚園との交流事業が16年11月5日に研究発表があるが、それを私の担当にさせられたことなど人間関係の問題があった。報道されていた教頭試験が原因というのは関係がない。また、好きだったパチンコがおもしろくなり、年休をとりパチンコ屋へ行くようになった。精神的な病気はありません。」と供述しており、心身のバランスを崩していたとか、心身のバランスの崩れが窃盗の原因であることを認めたり、また窺わせるような供述は一切していない。
むしろ、申立人は、窃盗の動機について、「簡単に考えていました。アンテナの調子が悪いことが日頃から頭にあったので、アンテナを変えれば調子がよくなると思い盗りました。アンテナを買うつもりはなかった。とくにそのアンテナがほしいというわけでもなかった。」と明確に答えており、その供述内容からみても心身のバランスの崩れを認めさせるような精神状況では全くなかったことが認められる。
なお、平成18年3月30日に定めた「教職員懲戒処分基準」は、処分者が行った過去の処分事例を参考として、懲戒免職に相当する重大な非行で、今後も起こりうる可能性のあるものについて標準的な処分量程を明記することにより教職員の不祥事の防止を図ることを目的として制定・公表したものである。「教職員懲戒処分基準」では、公務外非行の窃盗について「他人の財物を窃取した教職員は免職とする。」と定めているところ、公務外非行の窃盗については、過去の処分事例においても懲戒免職しており、公務外非行の窃盗が懲戒免職相当であるという処分方針は、申立人が窃盗行為が行われた平成16年5月29日当時も変わりがなかったのである。
(2)平成16年7月5日の能勢町における行為は懲戒事由に該当するか
@ 申立人承継人の主張
申立人は、妙見山の入口の道案内のために自動車への同乗を頼んだというのである。見ず知らずの人に道案内を頼むことは日常茶飯事の出来事であって、道案内の方法として自動車に同乗してもらったからといって、通常それが誘拐罪にあたるとは評価されない。
また、お礼に金員を供与したとしても申立人の行為が通常誘拐罪にあたらないというのは、極々常識的な判断である。
本件において、道案内をしてもらうお礼として二人の児童二人分として交付すると持ちかけた計千円という金額は、相手が高学年の小学生であるといっても、社会的常識を逸脱した不当な高額だとは決め付けられない。したがって道案内の対価として「千円をあげる」との発言は甘言とはいえないし、ましてや相手方の判断を誤らせる誘拐とは到底いえない。
また申立人は、平成16年7月10日に開催された職員会議において「声を掛けただけで誘拐の意思はない」と言明し、多数の教職員の前で誘拐の意思を否認していることからいって、その発言は相当の重みがあるというべきである。かつ、処分者が行った事情聴取において、申立人は「誘拐の意図などなかった」(乙第6号証)と明言し、未成年者誘拐未遂罪の成立を否定している。
一方、申立人の同僚からの証言によれば、申立人は授業だけでなく生徒指導にも熱心で、ゲームセンターで遊んでいた他校の児童らに対しても、しばしば注意や指導をしたりしており、時には食事代を与えて、食事をして早く帰宅するように指導していたこともあった。
こうした証言から、申立人は子供たちに愛情を込めて接していたこと、学校外で他校の児童にもよく声を掛けていたこと、その声掛けは申立人が子供好きであったことによるものであること及びその際申立人が子供たちに金銭を提供することもあったことが証明されている。
申立人の子供たちに対する学校内外での普段の接し方を考え合わせると、本件行為は、道案内を頼み、道案内の礼に千円の提供を申し出たに過ぎず、およそ未成年者誘拐未遂罪だとか非違行為であると評価される行為ではないことが一層明らかである。
A 処分者の主張
女子児童2人にとって見ず知らずの申立人が、女子児童に対し同人の自動車に同乗して道案内をするように依頼し、かつ、その謝礼としてお金をあげると言って千円札を見せるという行為は、極めて不自然であり、当該女子児童2名はもとより、その保護者らにとって明らかに危険と感じる言動であることは明白である。
現に、申立人の言動の直後に、当該女子児童らの保護者を通じて、申立人の行動が学校に報告され、同日午後6時40分ころには能勢町教育委員会が不審者情報として、申立人の自動車の車種とナンバーを大阪府教育事務所が翌日には池田市各学校に通知するということが行われている。
申立人の行為は、平成13年6月8日に発生した大阪教育大学付属池田小学校児童殺傷事件をはじめとして、学校の内外において児童生徒の安全を脅かす事件が相次ぐ中で、地域住民と協力して、当該児童、生徒のみならず地域住民を不安に陥れたものであり、教育公務員としてその職の信用を著しく失墜し、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であることは明らかである。
処分者は、申立人の行為が未成年者誘拐未遂罪に該当すると認定して、懲戒事由としたものではない。
懲戒処分は、公務員の一定の義務違反に対する道義的責任を問うことにより、公務における規律と秩序を維持することを目的とする処分である。したがって、公務員としてふさわしくない非行がある場合は、当該非行について有罪判決が確定したか否かとは別に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために懲戒処分を行うことができると解されている。
処分者は、申立人への事情聴取による同人の自認、公訴事実の確認、池田市教育委員会教育長の報告等により、申立人の非行事実を認定した上、処分を行ったものであり、その事実認定に誤りはない。
処分者は、申立人は処分者の事情聴取において女子児童に声を掛けた理由について「ちょっと、この辺の地域の目立ったところや学校の様子などについて話をしたかったからです。それは、たまたま下校時間帯となったので、女子児童たちを見てふっとそう思いました。」と答えており、道案内の協力を依頼することが、申立人の本心ではなかったこと、あるいは、それに加えて、道案内の協力以外の意図もあったことを述べている。
申立人が自認した内容をみれば、女児に声を掛けたことが誘惑(甘言)にあたることは明白であり、同女らがこれに応じなかったとしても未成年誘拐未遂罪が成立する可能性は極めて高いと考えられる。
なお、本件処分の理由とはされていないが、申立人については、保釈中の平成16年8月19日に大津市内いおいて小学2年生の女児を連れ去ろうとしたという容疑で同月20日に逮捕され、同年9月9日に未成年者誘拐未遂罪などで大津地方検察庁に起訴された事実がある。
(3)懲戒処分をしたことは処分権の濫用か
@ 申立人承継人の主張
職員が刑事事件に関し起訴された場合、それを地公法第28条第2項第2号の休職処分事由である。起訴されたにすぎない申立人を懲戒免職処分にすることは、地公法の趣旨に反して申立人に酷に過ぎ、明らかに不当である。
処分時点における処分者の収集した証拠によっては、申立人の行為が未成年者誘拐未遂罪に該当しているとは認定できないのであるから、せいぜい起訴休職処分にとどめ、最終処分は有罪判決後あるいは同罪に該当するか否かを客観的に認定できる証拠が固まった後になされるべきであって、本件処分は明らかに処分権を濫用したものと断ぜざるを得ない。
A 処分者の主張
職員が刑事事件に関し起訴された場合に、当該職員を休職処分にするかどうかは任命権者の裁量に委ねられており、必ず休職処分にしなければならないものではなく、任命権者の裁量に基づいて懲戒事由を確認することができれば、起訴されたかどうかを問わず、地公法第29条に基づき、任命権者の裁量に基づいて懲戒処分を行うことができる。
処分者は、豊能警察署で申立人に行った事情聴取の内容及びその他の証拠により認定した処分説明書記載の申立人の非行事実が地公法第29条第1項第1号及び第3号に該当するものと判断して本件処分を行ったのであり、申立人について未成年者誘拐未遂罪が成立すること又は同罪で起訴されたこと、あるいは同罪につき有罪判決を受ける予測に基づいて本件処分を行ったのではない。
(4)公正な手続きに基づき処分が行われたか否か
@ 申立人承継人の主張
処分者は、申立人からの事情聴取をわずか20分程度行ったのみである。その場所は、申立人が身体拘束されていた警察署内であり、あらかじめ用意してきたチェック項目の確認作業で終始し、弁解聴取といえるものではなく、捜査機関の取調べに類したものであった。
本件事情聴取は、聴取者側において予め質問項目を決めたうえでそれを沿ってすすめられたことは乙第6号証から歴然としている。
処分者において、申立人が誘拐を企てていたと憶測し、その企ての有無について確認したいと考えていたのであれば、その企ての有無についてもっと丹念に申立人から事情聴取すべきであった。それをしていれば、申立人において誘拐の企ての意図がないことを十分弁明する機会となった可能性を否定できない。それをしなかったことは弁明の手続きとしては極めて不適切であった。
さらに、「誘拐の着手になることは認めますか」との質問は、不適切な誤導質問であったことが明らかである。こうした質問は、申立人に未成年者誘拐未遂罪を犯していないことを十分弁明する機会を奪い、むしろ弁明を封殺する結果となってしまったというほかない。
また、7月5日の行為が申立人の普段の声掛け行為と同様なのかそれともそれらとは異なって誘拐の意思によるものであるかの事実認定が声を掛けられた子供やその親からの事情聴取もせずに、また申立人から必要にして十分な弁明を聞かずに極めて安易に行われたことが明らかであり、公正を期したことに到底ならず、処分者は極めて杜撰な手続きで安易に非違行為と認定し、本件処分を行った。
A 処分者の主張
申立人に対する事情聴取は、聴取担当者が豊能署に拘留されていた申立人と面談し、同人に対しあらかじめ作成した質問項目を記載した文書にもとづいて口頭で質問を行い、申立人が答えた内容を聴取担当者がその場で記入したうえ、最後に文書を官房内に差し入れて、申立人がその内容を確認した後、署名捺印したうえで聴取担当者に返却されるという方法で行われ、当該文書が事情聴取書として作成された。
処分者は申立人に対し誤導質問をした事実はない。申立人は、事情聴取者が「小学校高学年の女子児童に千円札を見せて、車に乗って案内してほしいということは誘拐の着手になると認めますか。」と質問したのに対し、「はい、認めます。」と答えており(乙第6号証)、申立人が聴おつ取者の質問に引きずられて答えたような状況は認められない。また、申立人は、事情聴取書の別の箇所で「千円はポロシャツの胸のポケットに入れていたのでその千円を見せました。これは誘拐未遂となるので立件されている。」(乙第6号証)と答えており、申立人の認識に矛盾や混乱は見られない。
処分者は、申立人と30分間にわたり面会し、申立人から事情聴取を行い、同人の任意かつ明確な自認に基づいて、本件処分の事由となる事実を確認し、かつ弁明の機会を与えており、本件処分の手続きは適法かつ公正である。
3証拠関係
当委員会が取り調べた証拠は、次のとおりである。
(1)申立人側から申出のあった証拠
証書 甲1号証乃至甲第38号証
人証 証人○○○○ 証人田中一巳 申立人承継人 川瀬弘美
(2)処分者側から申出のあっ証拠
書証 乙第1号証乃至乙第7号証
第3 認定した事実
当事者間に争いのない事実、証拠調べの結果及び本件に現れた一切の事情を総合すると以下の事実が認められる。
1 申立人の勤務経歴・職務内容等
申立人は、昭和54年に大阪府池田市公立学校教員として採用され、平成13年4月から平成16年8月までの間、石橋南小学校の教諭として勤務していた者である。
2本件処分の前提となった事実
(1)申立人は、平成16年5月29日午後8時34分頃、大阪府池田市神田4丁目14番1号所在の中古車販売業等を営む有限会社タグ商事敷地内において、同所に展示されていた普通乗用自動車からアンテナ1本(時価約1万5千円相当)を取り外して窃取した(甲第1号証及び乙第6号証)。
(2)申立人は、平成16年7月5日午後4時10分頃、能勢町宿野の路上で徒歩で帰宅途中の小学校高学年の女子児童2人に対して、千円札を示しながら、「妙見山の入口を知っていたら千円あげるから入口まで車に乗って案内して欲しい。」などと声を掛けた(甲第1号証及び乙第6号証)。
(3)申立人は、平成16年7月30日、窃盗罪及び未成年者誘拐未遂罪で起訴された(甲第1号証)。
3.本件処分に至る経過
(1)平成16年7月6日、不審者情報として自動車のナンバーが池田市教育委員会から石橋南小学校に通知された(乙第1号証及び乙第2号証)
(2)平成7月9日午後、石橋南小学校教頭が校門内に駐車している自動車のナンバーが7月6日に届いた不審者情報の自動車のナンバーと似ていることに気づき、学校長に報告した(乙第1号証及び乙第3号証)。
学校長は池田市教育委員会に報告したうえ、教頭とともに本人に事情聴取を行い、不審者情報の内容が申立人本人のことであることを確認した(乙第1号証及び乙第3号証)
(3)平成16年7月10日、申立人が池田警察署において事情聴取され、その後豊能警察署に身柄を移送された。(乙第2号証)
(4)平成16年7月11日、申立人が未成年者誘拐未遂罪容疑で逮捕された(乙第3号証)
(5)平成16年7月12日及び13日、処分者は石橋南小学校校長が本人からの聴取において把握した状況について池田市教育委員会から報告を受けた(乙第1号証及び乙第2号証)
(6)平成16年8月3日午後1時10分から午後1時40分まで、処分者は、豊能警察署内において、池田市教育委員会事務局職員の立会いのもと、申立人に対し事情聴取を行った(乙第6号証)
その際、「あなたに対しては、教育委員会として厳しく対処せざるを得ないが、何か弁明しておくことはありますか。」との質問があった(乙第6号証)
第4 当委員会の判断
1.本件窃盗行為に対する懲戒免職処分は過重な処分ではなかったか
申立人承継人は、本件窃盗行為が、被害金額や行為態様の点で軽微であり、また、被害者に対し多額の弁償をしていることから、本件処分が過重な処分である旨主張する。
しかし、第3の2(1)で認定したとおり、申立人は、午後8時半過ぎという夜間に他人の敷地内に無断で侵入し、自己の自動車のアンテナの調子が悪かったという身勝手な理由から、車のアンテナをわざわざ取り外し窃取しており、行為そのものの悪質さを否定できない。
もとより、申立人には児童・生徒に法の遵守を説くべき教育者としてふさわしい高度の倫理観が求められ、厳しい自律心がされるのであるから、たとえ、多額の被害弁償をしたこと(甲第5号証)を考慮しても、本件窃盗行為は、教育公務員としてその職の信用を著しく失墜し、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であると認められる。
また、申立人承継人は、申立人が過重な業務負担により精神的状態が悪化させ、これが本件窃盗行為の原因となったことから、本件処分が過重な処分である旨主張する。
しかし、たとえ申立人が過重な業務負担により心身のバランスを崩していたとしても、申立人は、通常勤務についていたのであって、是非善悪の判断能力を欠き、又は著しく減退した状態であるとして、責任能力を否定されるような状態ではなかったと認められる。 また、仕事の増大や職場の人間関係などによって心身の疲れがあったとしても、窃盗行為そのものに対する責任を免れることはできない。
その他、申立人承継人は、本件は処分者がこれまでに行った窃盗に関する懲戒免職処分の事案と比し、行為態様や被害結果の点で明らかに軽微であるから、懲戒免職処分は著しく重い処分である旨主張する。
しかし、平成9年度から平成18年度までの窃盗行為に関する処分者の懲戒処分事例(平成18年12月14日及び平成19年2月6日処分者回答)によると、現在の処分基準が策定される平成18年以前においても、処分者は公務外非行の窃盗について、すべて懲戒免職処分としている。本件窃盗行為について、同様の取扱いとしていることは妥当であると認められる。
以上のことから、本件窃盗行為に対する懲戒免職処分は重すぎるとする申立人承継人の主張はいずれも理由がなく、認めることができない。
2.平成16年7月5日の能勢町における行為は懲戒事由に該当するか
申立人承継人は、申立人は道案内を頼み、道案内の礼に千円の提供を申し出たに過ぎないとして、その行為は懲戒事由に該当しない旨主張する。
しかし、平成16年当時、大阪教育大学付属池田小学校児童殺傷事件の影響により児童の安全を守るため、学校や保護者はもとより、地域をあげて様々な取り組みが行われていた。そういった状況での申立人の金員供与を仄めかし、同乗させることによる道案内を依頼した行為(以下「本件同乗依頼行為」という。) は申立人本人の意図に関わりなく、客観的にみて声を掛けられた女子児童の保護者や学校関係者らに極めて危険と感じさせる行為であり、地域の児童、保護者、住民に対して不安を助長するなど重大かつ深刻な影響を与えるものであったといわざるを得ない。
教育公務員は、児童の安全・安心を守ることも重要な職務であり、高度の倫理的責任を負うことを期待されているところから、本件同乗依頼行為はあるまじき行為である。
したがって、申立人の本件同乗依頼行為は、教育公務員として、職の信用を著しく失墜し、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行であり、懲戒事由に該当するとした処分者の判断に誤りはなく、本件同乗依頼行為が懲戒事由に当たらないとする申立人承継人の主張は認めることができない。
3.懲戒処分をしたことは処分権の濫用か
申立人承継人は、職員が起訴された場合は、起訴休職処分にとどめ、最終処分は有罪判決後あるいは犯罪に該当するか否かを客観的に認定できる証拠を固まった後になされるべきであるとして、本件処分が処分権を濫用したものある旨主張する。
しかし、職員が刑事事件に関し、起訴された場合に、地公法第28条第2項第2号に基づき、休職処分とするかどうかは任命権者の裁量に委ねられており、必ず休職処分にしなければならないものではない。
また、地公法第29条に規定する懲戒処分については、処分者が懲戒事由となる事実を認めた場合に「懲戒免職を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべき」(昭和52年12月20日最高裁判決)と判示されている。
懲戒処分は任命権者が職員の一定の義務違反に対し道義的責任を問う処分であり、義務違反の事実については、いずれも認めており、処分者との間に争いはない。
処分者は、申立人のこれらの行為が懲戒事由であることを確認し、地公法第29条に基づき、処分者の裁量に基づいて懲戒処分を行っているのであって、地公法第28条の休職処分の適用の是非について論じる余地はなく、また、処分は有罪判決後あるいは同罪に該当するか否かを客観的に認定できる証拠が固まった後になされるべきであると申立人承継人の主張には理由がない。
したがって、本件処分が行われたことに瑕疵はなく、本件処分が処分権を濫用したものであるとする申立人承継人の主張は認めることができない。
4.公正な手続に基づき処分が行われたか否か
申立人承継人は、処分者は申立人からの事情聴取をわずか1回行ったのみで、しかもその内容は混乱を招く誤導質問などがあり、弁解聴取といえるものではないとして、処分手続が不適切であった旨主張する。
しかし、第3の3(6)で認定したとおり、処分者は、申立人本人と面会し、事情聴取を行い、同人から本件処分に関する事実を確認し、弁明の機会を与えている。事情聴取書(乙第6号証)によると、聴取者が申立人に対し、誤導質問をしたり、申立人が聴取者の質問に引きずられた状況は認めることができない。
また、申立人承継人は、処分者が声を掛けられた子供やその親からの事情聴取も行っていないことから、その事実認定が極めて安易に行われ、処分手続の公正を期したことにならない旨主張する。
しかし、処分者の行った申立人への事情聴取により、本件同乗依頼行為の事実について、申立人はそのことを認めており、誘拐の意思の有無に関わらず、申立人の行為は懲戒事由に該当するとして処分者は懲戒処分を行ったのであって、声を掛けられた児童やその保護者への事情聴取を行う必要はない。
したがって、処分者は公正を期した適正な手続に基づき処分を行ったものであり、申立人から必要にして十分な弁明を聞かずに極めて安易に本件処分が行われたとする申立人承継人の主張は認めることができない。
第5.結論
以上のとおりであるから、本件処分の取消しを求める申立人承継人の主張はいずれも理由がない。また、他に本件処分を取り消すべき理由も見当たらない。
よって、不利益処分に関する不服申立て等に関する規則(昭和38年大阪府人事委員会規則第2号)第29条第1項の規定により、主文のとおり裁決する。
平成19年7月25日
大阪府人事委員会
委員長 中村 久美子
委 員 吉村 修
委 員 片岡 健彦