本当に、やさしい
1995〜1996年 BE×BOY GOLD・b-BOY・MAGAZINE BE×BOY掲載
「本当に、やさしい」は時代も国も様々な7つの物語が入った短編集です。
1話・1話短いながらも頭にどっしり残るお話がほとんどで、少ないページ数に素晴らしい起承転結の数々・・。
価値ある1冊です。
| 本当に、やさしい 悟は私生児で中卒。何をやっても長続きせず大学生のヒモをやっています。ある日同居人の首を締め、慌てて外へ逃げ出したところ、裕という名の男に声をかけられます。そして誘われるまま自宅へ泊めてもらうことに・・。 裕は無邪気な子供のようで、軽い障害の疑いがあります。警戒心がないため簡単に悟に犯されてしまいますが、それでも彼を家に居続けさせます。 悟は9歳から母親が死ぬまで母と肉体関係があり、一方裕は母親から抱きしめられた経験が乏しい子供時代を送ったようで、悟が母親とセックスしていたことを羨ましがります。軽蔑されるはずの母との関係を受け入れ、自分の料理もマジメに誉めてくれる裕に悟は愛しさを募らせます。ところが、朝帰りした彼に女の匂いを感じ激怒。裕を殴って結局大学生の下に戻ります。 殺したと思っていた同居人が生きていたことに安心したのも束の間、裕が何人もの女性を殺害していたことがニュースで分かり、優しく無邪気だった彼からは想像もできない事体に悟は取り乱します。 裕の体を拭く脱衣所のシーンは2人がとても和んでいるため「殺人犯」というどんでん返しは強烈です。彼らは歪んだ親子関係という共通点から通じ合うものが在った筈。殺人に走る前に裕が悟に出会っていたらと、アンハッピーな結末だけに「もしも」を考えてしまう作品でした。 少しだけ意地悪な告白 作家のショーンは友人の弁護士ギルバートのホームパーティに毎年料理を作りに行きます。 ギルバートは学生時代、ショーンを犯してしまった過去がありますが2人はその事には触れず表面的にはよき友人を演じ、仲良く買出しをしています。ところが、にこやかに会話していたギルバートが突然買ったものを全てゴミ箱に捨て、離婚したことをショーンに告げます。 離婚理由は「君が僕を愛しているから」という台詞で告げられますが、「僕が君を愛しているから」と言わないところが意地悪・・。そしてその後に続く言葉は紳士だったギルバートをいきなり無礼者に豹変させ、思わず引き込まれます。 大学時代、男同士という関係に突き進む勇気はなく、結局イイ歳になってようやく開き直れたギルバートですが、今更愛全開の告白をするわけにいかなかったのでしょう・・・屈折したプロポーズが面白い作品でした。 昨日よりいつも違う日 大学に不合格・突然の雨・親友のキス目撃・発熱・・、とどめに「やらして」と自宅に踏み込んでくる親友四宮・・。この物語はこんな最悪な1日を過ごした大谷君のお話です。 四宮は大谷と同じ大学を受験したものの不合格・・もう一緒にいられないと思いつめ大谷に告白、襲いかかります。温和でマジメそうな外見とは裏腹に四宮は過激です。「ちなみにお前にYES NOの選択の余地は無い」はあまりに尊大で爆笑しましたが、「終わったら忘れてくれて構わんから・・」には驚きでした。こんなことされて忘れられるわけないでしょ〜!(笑) 翌日、四宮がキスしていた女の子は姉さんでしかも大谷と仲良く1浪することが判明、昨日よりはいい日だと機嫌を直す大谷君なのでした。 「昨日より・・」は大谷の気持ちが恋愛感情に変わる過程が知りたい・・、続編が読んでみたいストーリーです。 パンドラ 題名はカタカナですが、日本の時代劇です!和服です!長屋です!簪職人です〜!(時代劇好きです!) 簪職人の辰と浪人の静は長屋で同棲中。2人は錠前破りから足を洗い、二度とやらないという誓いを立てています。そんな彼らの元に火事でお解き放ちになった混血の罪人がやって来ます。男は親の形見を開けて欲しいと「箱」を置いて行きますが、辰はやる気がしない様子。静は世間から差別されてきた男の生い立ちに同情し承諾します。 静は癖っ毛で髷が結えず長髪を束ねているため、美しい上に色っぽいです。とても強そうには見えませんが盗っ人時代は用心棒。ところが辰より錠前破りの腕が上がってしまった・・。 今の生活を護りたい辰は静に開錠の快感を思い出して欲しくないわけで、無理やり静を押し倒し邪魔をします。が、辰が翌朝目を覚ますと箱は見事に口を開け、オルゴールだったということが判ります。 オルゴールは男の父親が母親に残していったもので、曲が「子守唄」だったというのが泣かせます。男が両親から気をかけてもらっていたということが判った静は彼の更生を確信し、辰に微笑みかける表情は爽やかです。 よしなが先生は鬼平犯科帳などの時代劇ファン・・そのせいかこういう人情BL時代劇も上手いです! シノワズリ 時は革命が起こる30年前のフランス。よしなが先生の「貴族たちは浮気とか浮気とか浮気とかに大変忙しかった頃」という時代描写が笑えますが、フォンタンジュ伯爵も例外ではなく、夫持ちの貴婦人に歯の浮くような口説き文句を並べています。ところが待っていたのは中国の血が混じった従者のセルヴィニアン・・。そして貴婦人の手紙には彼を好きなようにしてよいと書かれていました。伯爵はシノワズリゆえにセルヴィニアンが男であろうと即ベットイン。乱れた貴族っぷりを披露していますが、初心で正直者の従者は感じがよく、楽しい夜を過ごしてしまいます。 伯爵とセルヴィニアンは2人とも妻に先立たれています。亡き妻を語る彼らの言葉から人柄や妻との関係がよく判り、切なさが伝わってきます。伯爵の「あなたはまるで妖精のように軽やかだ」と「・・メレンゲの泡のようにしぼんでいって・・」はとても美しくユーモのある表現で、よしなが先生のエスプリには脱帽です。 伯爵はセルヴィニアンに交際を申し込みますが、立場上貴婦人の顔を潰すわけにもいかず、結局応えることができません。 ラストの「まるで妖精のように・・」を口にする伯爵と笑うことができないセルヴィニアンには、身分を越えられない恋のもどかしさを覚え、最終ページの去って行く後姿には哀愁を感じます。 貴婦人の手紙が床に落ちていく2人のキスシーンがとても好きです(P.144)。想いの強さがこのコマに表れ、何度読んでも胸に響きます。 執事の分際 革命前夜のフランス、とある貴族の台所は破産寸前。そこで執事はぼっちゃまを裕福な家の娘と結婚させようとします。 ぼっちゃまは小さい頃から執事一筋・・結婚は絶対にしたくないと駄々をこねています。ところが、執事は大そう事務的で身も蓋もない言葉を吐きまくり、聞く耳をもちません。 言うことを聞いてくれない執事に腹を立て、男娼に涙を見せたり服のレースを引っ張るぼっちゃまはバカみたいに可愛いですが、こんな可愛い人にキスを迫られても「この縁談が上手くいかなかったらこの家は破産だ」と言い放ってしまう執事は本当にイケズです! ところが、2人が揉めている間にフランス革命が勃発。「俺は平民達に何もしてないぞ」と目が点のぼっちゃまはアントワネットのようで笑えますが、とにかく亡命せざるおえない事体になります。 主人との別れを予感した執事は自ら職を解き「愛していました」と告白します。更にキスをしながら言う「腰が砕けるほどあなたを愛してさしあげる」にはドヒャ〜っとこちらまで腰砕け・・。無表情で小言ばかりだった彼が、余裕の顔つきで主人を抱く姿は鳥肌ものです。 翌朝寝乱れることもなくシャキッとぼっちゃまを躾ける執事さんは可愛げがなくて笑えますが、これに対して自分と一緒に来て欲しいと頼むぼっちゃまは素直でいじらしいです。 執事のぼっちゃまに対する辛辣語は爆笑です。「裏庭にいる野良猫にも劣る」「あんぽんたん」「甘ったれのくせにプライドだけは一人前」とか言いたい放題で・・、ところが好きな人の言葉は蜜の味なのか?!これだけ言われても切れない彼は偉いというか・・とにかく執事の掌で踊らされてるわけです。それでもぼっちゃまにとっては天下一の保護者であり、恋人。執事にとっては目の中に入れても痛くないご主人様なのでした。 この作品はコミック「愛とは夜に気付くもの」に続きます。執事とぼっちゃまはクロードとアントワーヌという名で呼ばれ、鬼畜な下僕におばかちゃんなご主人の素敵な日常が描かれています。必読です。 ある貴族達の一日 ある貴族の家に跡継ぎ(ぼっちゃま)が生まれ、「シノワズリ」登場の伯爵がお祝いに訪れます。 食事の仕度ができたことを告げに来た黒目・黒髪の使用人(執事)を見て、セルヴィニアンという親類がいないかと伯爵は思わず声をかけてしまいます。使用人は10年ほど前に亡くなった叔父の名だと答え、既にこの世にいないことを知らされた伯爵はショックを受けます。呆然とした顔からあきらめの表情になる伯爵の心理描写が上手いです。 時間的なことを計算するとセルヴィニアンは伯爵と別れた後あまり間をおかず他界したことになり、伯爵が10年の長旅へ出かけたのも別れた直後?!「死」」と「旅」は成就しなかった恋が遠因であろうと考えてしまいます・・。 このお話の執事はまだ10代の少年・・アップになった顔は可愛くてハッとさせられますが、斜め45度の目つきがやっぱり偉そう!セルヴィニアンの甥とはとても思えません(笑)。 |