子供の体温(新書館)
1997〜1998年月刊ウィングス掲載
| 「子供の体温」は酒井高紀パパとその息子紘一を中心に、2人を取り巻く様々な人間模様を描いた6つのお話が収録されています。本当にありそうなリアルな日常会話が面白い作品です。 (こどもの体温) 酒井親子はお母さんが亡くなっている父子家庭ですが、それなりに上手くやっていました。ところが、中一になった紘一君がなんと同級生を妊娠させたかもしれないという衝撃の告白をしてきます。これを聞いた時のパパの反応が気の毒なんですが、可笑しい。雷が落ちる程の衝撃とその後に続く「・・私立中学にもなんとかつっこんだうちの子がそんな金八先生のドラマみたいなそんな、ああああああ」という台詞が妙に頷けます(笑) パパは相手の女の子(森さん)と知人の産婦人科に行くことになり、そこでの森さんとの会話がとても好きです。ブスッとして平気そうな顔をしていた森さんが自分の父親の悪口や、事が起こった当日の話をしているうちに「ごめんなさい、おじさんは何も悪くないのに嫌なこと一杯させて・・本当は家の保険証がどこにあるかも知らなかったの」と涙します。ちょっと切ない場面です。 そんな森さんの姿を見て、パパは「近頃の若い子は・・」と思いつつも結局自分達が子供の頃と大して変わらないと、同じ目線に下りてきます。ここがこのパパの懐の深いところ・・子供に共感できる人なんですね。 森さんは自分の父親が所謂「オヤジ」なので、「おじさんみたいな人がお父さんなら恥ずかしくないのに」と酒井パパに言っています。私はこの気持ちがよ〜く判ります。本当にこんな渋くて、カッコよくて自然に会話できる父がいたらな〜。 紘一君、パパを驚かしちゃダメよっ! (ホームパーティ) このお話は紘一君が6歳の時のもの。ママが亡くなって1年たったある日、ママの実家にお泊りにきている2人です。 紘一君が寝てからの大人3人(パパ・おじいちゃま・おばあちゃま)の会話がリアルで面白いです。 突然友達を呼んでホームパーティをすると言いだしたおじいちゃまに、頭にくるおばあちゃま・・彼女の台詞は最高〜、本当にどこの家庭でも使われていそうな言葉です・・(私は言うな、この台詞/苦笑) この家族は娘・妻を若くして失うという、一般的にはかなり不運な境遇ですが、いくら特殊な環境でもやははり些細な揉め事はたくさんあって、残された人達は普通の日常を送っていかなければならない・・。 ホームパーティはそんな「現実」がよく出ている本当にありそうなお話です ラストの方で、パパとおじいちゃまが料理を作りながら「やっとお互い加奈子の話ができるようになった」「亡くなって1年経ってやっと・・」と言っています。話題にも出せないほど悲しかった1年・・ママの思い出話を語れるようになった2人は少しずつ立ち直っているのでしょう・・・。 「去年の花見はそれどころじゃなかったなあ」という台詞後のパパの切ない表情がなんとも上手いです。 (僕の見た風景) このお話は酒井パパの後輩2人の物語です。高校時代の仲良し3人組が久々の再会で自動車事故に会い、一人は死亡、もう一人は下半身不随、そして運転者だった綾小路は軽傷を負います。 下半身不随となった黒田の面倒を見る決意をした綾小路は異常なまでの献身ぶりで、そして黒田は綾小路を奴隷のようにあつかいます。 2人の様子を見に行ったパパは黒田の「綾小路は自分の足代わりで人格は無い」と言い切るオレ様ぶりにあきれはてます・・。 黒田は綾小路に復讐するために自立する努力をせず、本当はしてもらいたくない下の世話まで彼にさせています。これに気がついた綾小路の「人格を奪われてるのは僕じゃなくて、君の方だ」という台詞は納得できるし切なくなりました。ただその後に続く「・・て今ひとりにされたら俺は死ぬぞ」という目が点の黒田は可笑しい。かなりシリアスな場面の後に必ず可愛いオチが用意されている・・このよしながさん独特の展開は大好きです。 1年後、死んだ高木の墓前で事故後初めて黒田は綾小路の名を呼び、話かけます。お互いが高木を凄く好きだったことを確認し合い和解するラストはコマわりが全て縦割り、台詞も画面構成も本当に上手くて感動的です。 ただ私的には、綾小路が買ってきたチーズとワインを黒田が美味しく食べるシーンが一番好きです。言葉は交わさないけれど、お皿やグラスをコンコンと叩くやりとりで心が通い合ったことが伝わる・・この場面はラストの和解シーンより何故か心に響くものがありました・・。 ところで、この2人の高木に対する「思い」は果たして友情なのか??BL的に考えるとウ〜ン・・判らない。大体この後、黒田×綾小路はありえるのか??・・・と、まあそんな腐った妄想はさて置き、もう一つの注目所はパパの喪服姿!これイイ〜!なんてカッコイイの〜「子供がまだちっちゃくてなあ」って言うコマなんて、もうウットリ・・ネクタイに手なんてかけないでっ! 黒スーツに弱い私はメロメロでした(←バカ)。 (踊る王子様) 「踊る王子様」・・まず題でプッとなったのは私だけでしょうか?で、読んでみるとやっぱり笑えました。 中2の紘一君のクラスに西園寺という天才バレエ少年がいます。彼は髪型・歩き方・指先・つま先、全てがバレエなのでクラスの中でも浮いてる存在。とにかく美しいので給食当番の白衣姿も変です。ダイエットしてるため給食もお残し・・先生に怒られているところを紘一君が助けてあげます。 ところが王子様は紘一の苗字を知りません。「今、3学期だよ」と紘一もあきれ気味・・本当にバレエオタクだよ・・西園寺。 王子は「踊りに照れがある」と先生から注意を受けていて、それを克服できないでいます。なので、教室のイスに座っている時でさえ、踊りのイメージトレーニングをしています。傍から見るとこれが貧乏ゆすりのようで、見ている女子の台詞が爆笑です。「な、何あれ?霊・・?霊ついてる・・・?」「こわいわよ、バレエ王子ってば」 西園寺は離婚して自分を置いていった母親(やっぱりバレエリーナ)に照れがあります。手をつなぐのは6年生の時から恥ずかしい・・。ところが紘一とパパが手をつないでいる姿を目撃。「何でお前にはできるんだ?」とショックを受けますが、紘一にはげまされます。そこで、紘一を母にみたてて手を握ることに成功!もうママとだって踊れると自覚します。・・こうして「照れ」から脱皮できたのでした〜。 マイペースな王子様はとても面白くて魅力的。でもそれ以上に紘一君の優しさ、大人っぽさ、情緒の安定ぶりがステキです。学年便りに目をとおし、給食お残しを咎めた先生をかばい、さらにラストで気楽に微笑みながら「絶対できるよ」と西園寺を励ます姿・・素晴らしいです。こんな息子が欲しい! あとパパと手をつないでる姿も微笑ましくてよいです。怪しい親子だけど・・この2人なら成人してもやっててOK(笑) (よくある一日) まずは表紙の紘一君に注目。そして次のページ、もっぷを持つ紘一君にも!・・・・なんて大きくなって、なんてカッコイイの〜ぉ!!中3でこの可愛さ、この色気・・末恐ろしいです。 クラスの女子も言っています「酒井はいいよ、さり気なーく大人だよ、寒いことは言わないし、笑うと可愛いい」←そうでしょ、そうでしょ。でも、その後の「どうせああいうのから早く売れちゃって結婚後は奥さんとガーデニングだよ」「いやー!!ありそうじゃーん」という会話はおばさん化した女子中学生で笑えました。 紘一君は帰宅途中の電車の中で、何時、誰と初体験したかを友達にばらします。が、このばらした瞬間を「森さん」が偶然聞いていました。森さんと目があって、そして彼女が電車から降りて行く姿に自分の軽率さを悔やむことになります。「人はどーしていくつになっても同じよーな過ちを繰り返すんだろうね・・」という乾いた笑いの紘一は笑えますが(「いくつになっても」ってほど生きてないでしょ〜に)自分の言動に後悔してグルグルする気持ちってよく判ります・・後味悪くて気になるの・・。 軽率さに悶え苦しんでる紘一の元に森さんが訪ねてきます。自分も初体験を修学旅行の時にばらしていることと、紘一とは別の高校に進学することを告げて、「酒井とはばつの悪いまま別れるの嫌だったから」という大人っぽい言葉を残して去っていきます。 「こどもの体温」は最初この2人の事件ではじまり、ラストで2人にさわやかな卒業が訪れる。読者には心地よい後味が残ります。「元気でね」「うん、森も・・」という場面はとても微笑ましいです。 (たまにあった一日) これはたった4ページの描き下ろしです。 酒井パパが悪さをした紘一のことをげんこつするほど叱っています。 「もう2度としないと約束できるか?」と言っているパパの表情が毅然としてていいの〜。 そして「うん」と約束した紘一を最後のページで抱きしめます。 これは見習いたいです。怒りっぱなしにしないところ・・・。 「こどもの体温」は特装版と普通のコミック版の2種類があります。特装は福田里香さん(料理研究家)の解説がついています。福田さんの解説で大きく頷いたのが・・・ ・「よしながさんは余ったページで私信的な楽屋落ちを描かず、ショートストーリーで埋める」 ・「起承転結の結びが秀逸」 というものでした。 どんなページ数でも必ず物語の結びは微笑ましい(又は笑える)ラストが待っていて、大げさに言えば「救い」があります。終わりよければ全てよし・・本当に上手い作家さんです 特装版はカバーをはずすと紘一君(7歳くらい?)の可愛い笑顔があります。 普通サイズは解説はありませんが内容は同じです。これも表紙の笑顔が可愛くて大好きです。 |