出生の秘密

朝、TVを見ながら、ぼーっと朝ご飯を食べていると母がわたしに何か言い ました。

私の白濁した意識がゆっくりと動き出し、

「…あ、何か言ってる」→「聞かなくてはならない」

の「何か言ってる」と認識して、母の方に顔を向けたときには、母の言葉は終って いました。
「ここで聞き返すと、また、怒られるかなぁ」
と、ぼんやり〜と思いつつ、またTVにひきこまれそうになっていると、再度、 母が何か言いました。

しかし、今度は、
「聞かなくてはならない」
で、止まってしまったので、何を言ったのかわかりませんでした。

そこで、
「え?」
と、ききかえすと、母は、
「ほんとに あんたはぼーっとしてるんだから…(ぶつぶつ続く)」
と、一通り嘆いた後、また、繰り返してたずねました。わたしは、それを理解するため、 しばらく頭の中で
「りんご食べる?」「りんご食べる?」・・・
と、反芻しました。

すると、母の怒りは頂点に達したらしく、今度は
「ほんとに、あんたはっ!!この間だって…」
と、他のことまで持ち出して嘆き始めました。

”この間のこと”というのは、そのちょっと前、
”友人たちと旅行の後、アパートの部屋に入ろうとしたら鍵がなかった” 時のことでした。鍵は、コート(家まで送ってくれた友人の車に忘れた)のポケットの 中に入っていたのでした。

母は、しまいに、わたしに鍵を首からかけておくよう言い渡しました。わたしは、昔、 かぎっ子に憧れていましたが、この年になって、その夢がかなうとは・・・。大人で首 から鍵のついた紐ぶら下げてるなんてちょっとカッコ良すぎる。

で、その怒りのあまり、母の爆弾発言が飛び出しました。

母は、私がおなかに宿ったとき、妊娠したと気づかず風邪だと思って、しばらくの間、 風邪薬を飲んでいたというのです。おかげで、私は普段から風邪薬を飲んでいるかの ごとく、ぼーっとしているのでしょうか。

今回発覚した
”私の核となる細胞は風邪薬によってモウロウとなっている” 事実に動揺しつつ、先週の日曜、私は、友人の結婚式へ行ってきました。

大学時代の懐かしい顔に会い、(ちょっと遅れてしまったので)皆より遅れて 記帳にいきました。
「ええっと… これ以上ミスをしないようにしなきゃ… 」
と、心の準備をしていると、受付のお姉さんに
「新婦のお知り会いですか?」
と聞かれ、
「はい。」
と答えながら、
「よかった、ここまでは合っている」
と、自信をつけて、名前を書こうとしました。すると、背中をツンツンする人がいるので ふりむくと、友人が、そこは他の結婚式の受付だと教えてくれました。

気をとり直して、記帳を済ませ、披露宴が始まりました。司会者が挨 拶を済ませたあと、
「お客様の中で、受付の机の上にクロークのプレートをお忘れになっ た方が、いらっしゃいます。」
わたしでした。

披露宴もお開きとなり、新婦さんとなった友人とおしゃべりをして、 さて帰ろうかいと、クロークへ行きました。すると、その時、お掃 除係のおねえちゃんが、クローク係のオバチャンのところへ
「これ、お忘れものです。」
と、やってきました。
私の風呂敷でした。

うちの母は、私の幼少のころから、
「あんた、そんなにぼーっとしてると、後で困るのは自分だよ」
と言ってきましたが、最近では、
「だから、小さいころから言ってきたのにねえ」
に変わりました。


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