学生時代、寮に住んでいました。理系の私達は、文系の人たちのように、出席につ
いてはうるさく言われな代わりに、毎週のようにレポート(いわゆる宿題)提出
やテストがありました。
そのうち、同じ寮に住む友人たちと一緒に勉強するようになりました。他の人たちも
何人かのグループで一緒にやっているようでした。
新入生のはじめのうちは、同じ答案ばかり見飽きた教授に
「せめて、句読点ぐらいは変えなさい。」とか
レポートに「以下○○さんと同文」と、表彰状の授与の時の常套句のような言葉が
書かれたりしている人たちもいました。。。
寮は、学校の中に学内にある林を背にするように建っていました。廊下の窓には 網戸はなく、また、冷房もなかった(信じられないでしょうが、本当の話)ので、 夏は開け放った廊下の窓から虫が入り放題でした。しかも、部屋の窓には網戸が あったのですが、戦後しばらくして建てられた時のままの網戸で、木の枠に金属 の網、しかも錆びてて目が詰まり、ところどころに穴があいていました。ある日、 マメな同室の後輩かっちゃん(仮名)が、錆を落として詰まった目をキレイにし ようと網戸を洗って洗濯場に干しておきました。夜、網戸を取りに行くと誰か( 網戸のない部屋があったらしい。。。)に盗まれた後でした。その日以来、夏は開 け放った窓から林に住む巨大な蛾やカナブン、コクワガタなどが飛び交う電灯の下 で(そこが部屋の中で一番明るいため)、時折、電灯にぶつかった蛾がノートの上 に落ちてきて、一緒に勉強していた友人たちと悲鳴を上げながらレポートをせっせ と仕上げました。
寮の部屋は、3、4人で一部屋だったので、同室の先輩や後輩が寝ていたりする
と、自分の部屋では勉強会ができません。他の友人たちも同様の状況だったりした
時には、寮のパーラーと言われる部屋に集まりました。パーラーは、寮の1F
ロビーの側にある小さな部屋で、低い長い机と、やはり低い布張りの古い椅子が
いくつか置いてありました。いつものパターンでは、友人のキクちゃん(仮名)、
チャマ、私でレポートを3等分して、社交的なキクちゃんが先輩からもらったり、友達から
借りたりして集めたたくさんの資料と、各自持ちよった参考書などで自分のノルマを
こなしていました。こなしかたは、それぞれ個性的で、きくちゃんは豊富な人脈
(きくちゃんは、かわいらしい容姿と親しみやすさから学外にも友達が多かった)
を活かし、行動力とタフさでこなし、チャマは黙々と、時には鼻歌を歌い、
そして、力尽きると不思議な格好でいつの間にか寝ているのでした。チャマはこたつで
手をグーにして赤ちゃんのようにあどけない顔をして寝ていたり、パーラーの低い
椅子の上で虎の足の大きなスリッパを履き、座ったまま前に倒れ、中近東の礼拝の
ような格好で寝ていたりして、きくちゃんと私の
「ああ、もう3時なのにおわらないっ!」
というハチハチした気分を和らげてくれました。
ある時、深夜にいつものようにレポートをやっていました。その夜も、しゃべり
たいだけしゃべると、シャーペンの音と時折誰かの鼻歌が小さく聞こえるだけの静か
な状態となりました。しばらくして、パーラーとロビーの仕切りであるすりガラスの
向こうで誰かがロビーにある公衆電話にやって来たようでした。
「もしもし(甲高い声)…
あ、寝てた?… ゴメン…ゴメンネ すぐ切るから…」
パーラーの中は、シーンと静まり返り、シャーペンを持つ手はとまり、耳は ダンボよりも大きく膨れ上がっていきました。
”すぐ切るはず”の電話は、数十分後に終わり、彼女は部屋に戻ったようでした。
寮に知らない人はいないキクちゃんに、
「だれ?」
と聞くと、すぐにその高い可愛らしい声から電話の主がわかりました。
彼女は、色白小柄で可愛らしい声で有名なYさんでした。
その後、Yさんについて、
・人目を引くような甲高い可愛らしい声だけれども家族からの
電話に対しては低い声であること
・合コンで「チーちゃん(自分のこと)、おトリさんが食べたぁ〜い」と言って
つまみの盛り合わせの焼き鳥を取ったこと
などの情報で盛り上がり、結局レポートは朝までかかりました。
ある年の夏、裏の林の木が腐り、羽アリが大発生しました。部屋は羽アリがとび まわり、アリの大嫌いなチャマ(仮名)は、はじめのうち、悲鳴を上げていまし たが、しばらくして吹っ切れたようにティッシュをつかんで羽アリを一匹一匹退 治し始めました。レポートを仕上げ、夜が明ける頃にはおろしたばかりのティッ シュが一箱、空になっていました。何かが憑依しているようだったチャマも 疲れて寝てしまい、私も寝よう。あ、その前にお手洗い。。。と、部屋のドアを 開けた瞬間、徹夜明けの脳みそは思考が止まり、体は固まりました。
私の部屋の出口を中心にして2Mくらい、廊下の幅いっぱいに黒い羽アリがうじゃ うじゃとうごめいていました。もともと私の部屋の中は、他の部屋よりはたくさん 飛んでいるような気がしていたのですが、それもそのはず、どうやら、私の部屋の 真後ろの木がアリにやられていたようでした。
退治しなければ。。。
部屋にあったゴキブリ用の殺虫スプレーを取り、噴射しました。
さすがに、ゴキブリ用。全然効きません。
アリ用の殺虫剤は部屋にはありませんでしたが、廊下にあるのが目に入りました。
スリッパの後ろにつくのが嫌なので、なるべくアリを踏まないように殺虫剤まで
たどりつき、噴射しました。やっぱりアリにはアリ用。効き目ばっちり。闘い終え、
部屋に戻って眠りにつきました。…
目を覚まし、廊下に出ると何もなく、キレイ… ではありませんが、いつもの風景に
なっていました。あれは、悪い夢を見ていたのでしょうか。。。(でも、ティッシュは
空になっている)。チャマにその話をすると、
「あ、そういえば、朝、掃除のおばさんの悲鳴が聞こえた」
やっぱり夢ではありませんでした。掃除のおばさんも、廊下一面に床が見えないくらい
黒いアリがびっしりでは、かなり驚いたことでしょう。
と、まあ、そんな勉強の環境を学外の友人の尾原君(仮名)に言うと
「そんなんなら、うち来る?」
尾原君とは学校も学部も学科も違いましたが、授業の内容では同じようなものも
あったので、チャマと一緒に尾原君のうちへ、彼のそばで買った大福
(6個入り*2)を買って行きました。尾原君のうちにはエアコンが完備されて
いて、寮には扇風機すらなかったチャマと私は
「エアコンだーエアコンだー」
と、実家を出て寮に入って以来、久しぶりに見た文明の利器を見て喜びました。
尾原君の友人も来て4人で12個の大福を食べながら、快適な環境でレポートと
闘いました。
ああ、つかれた。と、いう時には、ユンケルよりタフマンが効くと、尾原君は熱く語 りました。
----以下 尾原君の熱い語らい------
彼がレポートを仕上げるために、仲間で集まり、1週間くらい彼の家で合 宿をした時のこと。。。
彼らは、その期間中、近所の薬局のタフマンを全て買い占めてしまいました。お金を払う時、 薬局の親父さんに、思い切り変な目で見られたそうです。そりゃ、数人で精力剤を薬局にある 分全て、毎日のように買っていったら。。。合宿が終わり、みんなが散々汚して帰った後、散 らかった本やカップラーメン、箸などを彼は一人で片付けました。何日も続いた徹夜でぼーっ とした頭で洗い物をしながら、ふと気づくとシャーペン、ボールペンを洗剤を含ませたスポン ジで洗っていました。そして、その合宿以来、その近所にある薬局には行けなくなってしまった そうです。