+++注文の多い…店+++



時間を忘れるほど、話に夢中になりながら歩いていたセルジュとロスマリネは、いつしか道に迷ってしまった。
気がつくとそこは、人家も見えないうっそうとした森の中だった。

帰り道がわからずに困っていると、突然、目の前にこじゃれた料理店が現れた。

「こんな辺鄙なところに料理店なんかあったっけ?」
「ちょうどいい。ここで食事にしよう」ロスマリネはセルジュを誘った。


ドアを開けると、注意書きが貼ってあった。

・美人、男の子は特に歓迎いたします

「僕らは両方兼ね備えてるよね」総監はセルジュに向かって、にっこりと作り笑いをした。

・当店は注文の多い料理店です。どうかそこはご承知ください

「なかなか流行ってるんですね。こんな場所で…」
「パリの有名処だって大通りには少ない。おいしいからこそ、こんな所でも経営が成り立っているのだろう」

・上着と靴を脱いでください
・手荷物はロッカーの中に預けておいてください


「悪道で汚れてるからねぇ…仕方ないか」
二人は上着と靴を脱いだ。手荷物と一緒にロッカーに詰めると、備え付けの鍵をかけた。

つぎに食堂に通じると思われる室内扉を開けた。だが、そこはなぜかシャワールームだった。

・服を脱いでシャワーを浴びてください

「何でこんなところに?」
「気持ちよく食事するためのサービス???」
歩き回って汗もかいているし、とりあえずありがたかった。違和感を覚えながらも、二人はシャワーを浴びた。
浴び終えると、出口近くの棚に綺麗な香水の瓶が置かれているのが目に入った。

・香水をお使いください

「気が利くなぁ」
香水の栓を抜くと、あたりには可愛らしい花の香りが漂った。
シャワールームから脱衣所に戻ると、着てきた服はなくなっていた。代わりにピラピラした布切れのようなものが置かれている。

・こちらの服に着替えてください(お客様のお洋服はクリーニング中です)

「総監。これってネグリジェですけど…」セルジュが困った顔をした。
「サイズは合いそうだけど…コレしかないのかなぁ」
他に身につけるモノはない。背に腹は変えられず、二人はネグリジェを着た。かなり露出のある艶っぽいデザインだった。

・注文が多くて失礼しました。こちらの部屋へお入りください

扉を開けると大きなベッドが見えた。

「おかしいですよ総監…」セルジュが呟いた。
「一休みしろってことじゃないか?。食べ物は運んできてくれるよ」
ロスマリネはさっさとベッドに倒れこんで、呑気に笑っている。

・食前酒をどうぞ

ロスマリネはサイドテーブルに置いてある酒をグラスふたつに注ぐと、セルジュにひとつ持たせた。
「簡単に飲んじゃダメですー!!!」セルジュが警戒して止めると、総監は面白がって飲んで見せた。
そして、セルジュの忠告は的中し、グラスが総監の手から滑り落ちた。
「総監!。大丈夫ですか?」セルジュは崩れかかるロスマリネの体を支えた。
だが、ロスマリネはセルジュの腕の中ですでに気持ち良さそうにすやすや眠っていた。あっという間だ。

突然の出来事にセルジュが呆然としていると、ノックの音がして、一人の男が入ってきた。

男は覆面で顔を隠している…セルジュは男をにらみつけた。
「これは何の真似です。料理店のふりをして、人をかどかわしてるんですか?」
「料理店のふりなんかしてないさ、ただし食べるのは私で、食べられるのは君達だけどねぇ」
「食べる、僕達を…?」セルジュは混乱した。
「今日はとびっきりのご馳走が二つもあって、嬉しいよ」笑いを含んだ声で男は答えた。
男はいきなりセルジュを押し倒し、下からネグリジェを捲り上げた。
「なっ、何をっ!!!」真っ赤になってセルジュが抵抗する。

「総監。助けてくださーい!!!」

とりあえず、すぐそばで熟睡しているロスマリネに、大声で喚いてみたが、反応はなかった。
おそらく、あの酒には強い睡眠薬が仕込んであったのだろう。男はセルジュの肉体を撫で回している。
「やめて、止めてください…」男は容赦なくセルジュの肉体を弄ぶ。

「さーて、まずは一発。逝かせてもらおうかな…」ズボンを下ろしながら、男が言った。

その瞬間である。

『ガッシャアァーンンン…』  派手にガラスが割れる音がした。

音がした方向を見ると、部屋の窓が窓枠ごと大きく壊れていて、マスクで顔を隠した長髪の青年がいきなり入ってきた。
闖入者は真っ直ぐにセルジュ達の方へつかつかと近づくと、眠ったままの総監を抱きかかえた。

「何をする。オマエは誰だ?」覆面男が喚いた。

闖入者はセルジュと覆面男を無視して、入ってきた窓からロスマリネともども出て行った。
割れ窓の向こう側から、青年はセルジュに大声で怒鳴った。
「オマエもさっさとこい!」
セルジュは狼狽している覆面男の隙を突いて窓の外へと飛び出した。

窓の外側には闖入者の青年がいた。彼はセルジュに袋を一つ持たせた。
「ついて来い」
セルジュはネグリジェのままで、青年の跡について小走りに駆け出した。



人気のない道をしばらく歩くと、ちらほらと人家の見える場所に出た。
青年はセルジュに持たせていた袋を開けた。そこには見慣れた総監と自分の服や靴が入っていた。
「自分のものを取ってそこらで着替えて来るといい」
セルジュは青年の言うがままに、少し離れた場所で自分の服を着た。

そうして、着替え終えたセルジュがもとに場所に戻ると、眠ったままの総監もすでに着替えを終えていた。
「あなたが総監に服を着せたんですか?」
「他に誰がいる?」ロスマリネの髪を手ぐしで整えながら青年は言った。
「いいえ、あの、ご苦労様でした」
「どういたしまして…じきに目を覚ますだろうが、さっきの件は、彼には夢だった事にしておいたほうがいいね」
「そうですね、そうします」
セルジュは青年の要領のよさに感嘆した。
「この道を真っ直ぐに行けば、じきに学院が見えるから、あとは簡単に帰れる」
青年は立ち上がって、学院のあるほうを指さした。
「あ、ありがとうございます」

そのまま青年は学院とは逆の方角に向かってすたすたと足早に歩き出した。
「あの、お名前を、あとで、僕がお礼に伺いますから」セルジュは焦って青年を引き止めた。
しかし、彼は自分の事には何も答えなかった。

セルジュは立ち去る青年に何度もお辞儀をした。マスクのせいで結局、顔すらもわからなかった。

青年の姿が見えなくなると同時に、ロスマリネが目を覚ました。
「食事はまだ来ないのか?」寝ぼけ半分で総監はセルジュに尋ねた。
「夢ですよ…ここら辺には料理店なんてありませんし」セルジュがばっくれて答えた。
「夢、かぁ…」
「学院は向こうです。夕食までには戻りましょう」もう夕方だ。セルジュは総監を急かした。

「久しぶりに外食がしたかったなぁ…」不満そうにロスマリネが呟いた。




(一応、ここで終わりですが、覆面男と闖入者の裏設定↓あります。見なくてもいいですけどね…)
















※管理人的に考えていた中の人が誰か知りたければ↓を反転。

覆面男:実はピエール・ボナール
闖入者:実はジュール・ド・フェリィ

※話の経過については↓を反転。

・ジュールは、夢中で話をしているセルジュとロスマリネの後をこっそりとつけていた。

・二人が料理店に入るのを見て、中の様子を確かめる。

・実はその店の中ではボナールがトラップを仕掛けていた。
料理屋を装って、ご飯を食べにきた何人もの少年達を罠にはめて弄んでいるのだった。


・ジュールは中の様子がおかしい事に気がつくと、こっそりとベッドルームの外から様子を伺う。

・覆面男が暴挙にでると、ロスマリネ達の服を取り返してから、自分だとはわからないようにマスクをして助けに入った。

・セルジュはジュールを覚えてなかったが、さすがにロスマリネまでは誤魔化せないので、
ロスマリネが起きる前にジュールは姿を消した。

・問題が大きくなるのを恐れたボナールは、そのまま店を捨てて逃げ出した。

こういう感じですかね…。