+++平安浄瑠璃物語+++
ヒロイン(♂)は源氏の血を引く美しい一二歳の王子様なのだが、
この漫画には、戦いの場面も、政治の場面も、重要な場面はでてこない。
登場人物の会話の端々で、政局、戦況がわかるだけだ。
しかし、それはあまり重要ではない。重要なのはヒロインの王子様「槐丸」が壊れていく様子である。
ヒロインに引かれて行動をともにする男「左中太」は美形ではない。金も身分もない。
ご主人様の気位の高さと容姿の美しさに惹かれ、ずるずると一緒にいる。
王子様は偉そうに命令をするが、高名な武将である父親には認知されていない。金も力もない。
ただ父の後を追って、戦で手柄を立てて、父に認められる事だけを夢見ている。
男は王子のために日々の糧を手に入れるが、王子様はそのことを何とも思っていない。
ある時、王子様は女の格好で街を歩き、男達を挑発し、輪姦される。
傷ついた王子は男とともに山中や人気のない場所をさまよいながら京(王子の父がいる)を目指す。
その道中で男も結局、王子の魅力に抗えず、無理やり犯してしまう。
仲違いするが、男がいなくては生きていく術をもたない王子様は、やがては自分から男に体を与え、
男も王子様のために盗みなどを繰り返しながら食料を調達する。
余談だが、明治維新以後に西洋の価値観が入ってくるまでは、日本では男色は罪でなかったらしい。
(むしろ女の姦通が重罪)
二人の間には依存関係が成立し、京を目指すが、父の軍は敗走し父親は行方知れずとなる。
希望を失った王子様は行きずりの男達を誘惑し、男の目の前で自分の肉体を弄ばせる。
京が近くなった月の夜、桜の花の満開の下で二人はいつものように肌を重ねるが、途中、
「自分を殺せ」と王子様は呟き、男が王子の首を絞める。
首を絞めながら挿入すると最高に気持ちがいいそうだが、まさにそういう構図。
願はくは花のしたにて春死なん そのきさらぎの望月の頃(『山家集』上 春 77)
西行法師の句など連想するとさらに文学的。
男は京に入ってその王子の首を敵方に差し出し、逆に死罪となる。(わかっててやったから自殺)
「槐丸」は風木のジルベールのように性を強要され、望みを絶たれて死を受け入れるが、
風木のような熱い読後感は持たなかった。単純すぎて引きずるものがない感じだ。
絵的には、桜の木の下での最後のえっち場面と、第一話の扉絵が綺麗。
王子様の顔には癖があるかな…大きく瞳孔が見開かれていて、人形のような感じを受けます。
この作品は男とヤリまくりで、やおいものといわれたりしているが、そうでもないと思う。
狙って描くならビジュアルを強調して左中太が美形だっただろう。
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