+++恋の答案+++(2ちゃんねるで投下したものを書き直しました)
監督生の選抜を一月後に控えたある日、ロスマリネが冗談めかしてこう言った。
「選抜までにテストで僕に勝ったら、そいつにキスしてやるよ。でも、誰も僕に勝てなかったら僕を監督生として押してくれない?」
クラス全員がざわめいた。高飛車な王子を打ち負かすチャンスだった。
キス目当てで努力する者もいないではなかったが、それを公言する者は誰もいない。
それからというもの、テストの度にクラスの学力が妙にグングンと伸び始めた。
「すごいぞ、お前等…どういう風の吹き回しかわからんが、この調子でがんばれよ」
教師達は口を揃えて生徒達を褒めた。
しかし、ロスマリネが首席を譲る事など、当然のようになかった。勉強に嫌気がさしだした連中が言い始めた。
「出来が違うよなぁ…」
「からかわれたんだよ」
「でも皆、成績上がったんじゃん…」
「ムカツク!」
裏では不良連中がジュールに声を掛けた。
「あんたが本気だせば、何とかなると思うんだが…」
「彼の口車に乗る気はない…敵にする気もない」
「言っとくが…クラスの半数があんたを監督生に押すだろう。根回し済みだ」
「僕は辞退する」
「もったいねえな…、だがね、あんたがイヤって言っても、こっちは押すつもりだ」
「勝手にしろ、だが当選してもお前達の駒にはならない…」
「それでもいい。俺達はあんたが好きだから押す…勝たせてやるよ」
彼らはジュールの暗い部分に共感していた。
不良連中がジュールに肩入れしているのがわかって、ロスマリネも少し焦り出した。
「君が対抗馬に立つなんて考えてなかった。なんで断らないんだよ」
「あいつらが勝手にやってることだ」
「イヤだっていえばいいじゃないか」
「あいつらの顔を潰すのは得策じゃない…面倒はごめんだ」
「金でなんとかならない?」
「あいつらは金なんかよりプライドをとるだろう」
「なるほど、嫌われてるんだ。僕って…」
「テストに勝ったらキスだなんて馬鹿なこというからだ…冷静にやれば反感も小さかったはずだ」
「深く考えてなかったなぁ…あの時はそう言えば盛り上がる気がしたっていうか…」
「コンプレックスを刺激しただけさ」
「ねぇ…なんとかならないの?」
王子様は困った顔でジュールを見つめていた。参謀はすこし考えて言った。
「次のテストで僕が君に勝ったら、君は僕にキスする?」
ジュールにキス…ロスマリネはきょとんとして相方を見つめた。
「テストで負けたらキスをすると言ったのは誰だ?」ジュールは言った。
「…ジュールにキスするの?」
意外そうな顔をしていたが、約束は約束と思ったのかロスマリネは少し強気に微笑んで見せた。
「僕に負けてくれたら…してあげてもいいかな」王子様が答えた。
クラスではいつの間にか、テストに勝った方が監督生だという雰囲気がつくられていた。
ロスマリネに勝てば面白い事になる。勝てないまでも勉強するのは悪い事ではないし、みんな勉強をした。
かくして……運命のテストが終わった…。
結果はどうせ両者パーフェクトだろうと皆が思った。しかし、その予想は、見事に裏切られた。
「フェリィ98/100、ロスマリネ98/100…」
数学のテスト…全員が解けて当然の問題1の1番。間違ったのは基礎的なサービス問題だった。
勝負は引き分け。ガッカリしながら皆が二人を睨んだ。
「インチキだ。こんな問題が解けないはずないよ」
「二人で示し合わせてたんじゃね?」疑惑の目が二人に注がれた。
たしかに二人ともわざと間違えたわけだが、正解したところで結果は同じ、引き分けだ。
しかし、なんとなく馬鹿にされたような結果にクラスメイトの不満が爆発した。
「おりこうさん達はちがうよね、やっぱり」冷めた眼である。
やばい…。不安げにロスマリネはジュールを見た。ジュールは静かに皆に答えた。
「監督生はきちんと選挙で決めよう…ロスマリネもいいね?」鶴の一声とでも言うのかなかなかの裁き方だ。
ロスマリネがジュールに素直に頷いてそれに同意した。
「それがいい。テストで一番をとれば監督生になれるなんて間違ってるよ」皆も言い出した。
それで皆が納得するとその場は納まった。
「結局、選挙か…だけど対抗馬はやっぱりジュールくらいだな…」
彼らは呟いた…今更ながら、ロスマリネとジュール、どちらが勝つのか本気で皆が興味を持っていた。
いつものように王子様と参謀は一緒に部屋に引き上げた。
「なんで、手を抜いた?」ロスマリネはジュールにテストの事を問いただした。
「キスして欲しかったからだよ…で、君はどうして?」ジュールも聞き返した。
「キスしたくなかったから」ロスマリネが答えた。
「はっきり言う…」ジュールは苦笑いをした。
「ねぇ…ジュールは監督生になりたいわけじゃないよね?」ロスマリネはジュールを見つめていた。いつになくまじめな顔だ。
「担がれただけで、最初からそんなことやる気はないよ」
「僕が監督生になったら、ジュールだって得すると思うんだけど…」
すみれ色の瞳の中にうつる自分自身の影を、ジュールは見つめた。
……結局、アリオーナの言葉に頷いた。
「わかった。手を貸すよ…王子様」
その言葉を聴くと、ロスマリネは嬉しそうにジュールのほっぺたにキスをした。
そして数日後に行われた選抜で、王子様は公私共にジュールの応援を受けて晴れて監督生になったのだった。
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