愛憎




愛することと憎むことはとてもよく似ていると思う。どちらも相手を強くおもうあまりに抱く感情だから。感情を抱かれているうちはいい。その人は悪しからず自分に関心を示してくれている。
俺は、無関心が一番こわい。無関心こそが愛することの反対だと思う。
骸が俺のことを考えなくなった途端、俺は骸にとってのその他大勢になってしまう。今からそのときのことを考えるだけで、不安でしょうがなくて、自分の足下にぽっかりと穴が空いた心地がする。
「綱吉くん、愛しています」
だから、その言葉すら俺の心を震わすだけで、喜びには至らなかった。
だけど、今。
綺麗に仕立て上げられたスーツをぼろ雑巾のようにして、俺の目の前に打ちのめされた骸の姿に、俺は確かに喜びを感じている。骸の、過去に愛を囁いた口の上にある目が憎しみを宿して、俺を睨み上げているからだ。
「……どうして、」
くぐもった声で骸が尋ねた。しばらく動かなかったから、気絶したのだと思っていたのだけど、そうじゃなかったようだ。
「どうしてって、なにが?」
「僕は……! あなたを愛していた。あなたも僕を愛していると言ってくれた」
本当に嬉しかったのに。
つと、骸の目から涙が溢れた。これは悲しみからだろうか。俺は冷静に考えた。愛、憎しみ、憎しみ。どれも強い感情だ。ぞくぞくと震えるような嬉しさが沸き上がった。俺は骸の強い感情を3つも持っている。
ひざをついて、骸の口の端に付いている血を親指でぬぐい取った。そのまま指を口に含んでしゃぶる。口内に鉄の味が広がった。
「骸の事は愛してるよ、本当に強く、強く。ただ、失いたくないくらい本当に好きなんだ。……ごめんね?」
今、俺はたまらなくうれしい。もしかして狂っているのだろうか。
何に。
瞬時に自問自答して、すぐに出た答えに口元を歪ませた。