なかなか届かない




綱吉は、最近妙に15歳のランボに会っている気がしてしょうがない。基本的に彼が現在に来るのは、ランボが何かやらかして相手にどつかれた時だから、毎日来ていてもおかしくはないのだが、最近とみにそう感じるようになったのは、ランボが来るたびに綱吉に会いに来るようになったからと考えて間違いないだろう。
今だって、ベッドに寝そべって漫画を読んでいる綱吉の横でにっこりと微笑んでいる。
「こんにちは、ボンゴレ」
またか。そう思いながら、ぼんやりとした目で綱吉はランボの顔を見つめた。綺麗な顔をしている。今のランボからはとてもじゃないけど、想像が付かないほど。きっとその変態は10年のうちに見られるのだろう。
「天気もいいことですし、よろしければ喫茶店にでも行きませんか」
漫画の続きがすこし気になるくらいで、他に別段することもない綱吉は、その意見に同意した。

二人が向かったのは並盛商店街にあるレトロと言えば聞こえがいいような喫茶店だった。ランボがドアを引くと、錆びた鐘の音が店内に響いた。
「どうぞ」
すっと手を店内に差しだし、綱吉を先に招きいれた。夏の終わりにしては外は蒸し暑く、店内ではこれでもかというほどクーラーが効かせてあった。綱吉の火照った体も一瞬で熱が引いていくようだった。
店内には買い物帰りの主婦ややることのない老人がちらほらいて、いかにも商店街にあるといった風情だった。奥の席が空いている。ふたりは目配せして、その席に座ることにした。
ランボと綱吉の年齢はひとつしか違わないはずなのに、体格には随分と差がある。同じ歩調で歩いて、綱吉よりも早くついたランボは綱吉のためにすっと椅子を引いた。
「ありがと」
「いえいえ」
椅子に腰を下ろしたランボは深く息を吐き出した。
「なんだか、ここに来るだけで疲れました…」
「運動が足りないんじゃないの」
綱吉はクスクス笑いながら、ランボの方を見る。少し汗ばんだ肌に、気だるげな様子。色気があるってこういう人のことをいうんだろうな。綱吉は思った。些細な動作ひとつひとつに匂い立つ香りを纏っている。
メニューを開けば、そこにはありきたりのものが並んでいるだけだった。
「どうする? ランボはブラックコーヒーとか似合いそうだけど」
「……ブラックは苦手なんです……オレンジジュースで」
そこでまた綱吉は笑った。ランボの頬は少し赤らんでいる。
「俺はレモンスカッシュにしようかな」
飲み物は注文してほどなくやってきた。オレンジジュースとレモンスカッシュが並んでいるのをみて、綱吉はつい呟いてしまった。
「これだったら、喫茶店じゃなくてもよかったね」
「俺、こういう店しか行かないから……すみません、」
うなだれたランボに、綱吉は慌てて弁解した。
「嫌みで行った訳じゃないから……! 謝らないで」
きっと一緒に行くのは年上の女性なんだろうな。彼はさぞかしもてるから、一緒に行く相手には困らないんだろうな。
綱吉は思ったまま、口に出した。
「ランボって、もてるよね」
それにランボは特に表情を変えるでもなく答えた。
「まぁ……」
「綺麗な顔してるし、色気もあるし。これで女の人が放っておく訳がない」
おまけにコーヒーの飲めないところも可愛い。
羨ましそうに見つめる綱吉に、ランボは言った。
「それもあると思うんですけど……。ボンゴレ、知ってます? 女性ってもっと些細なことで好意を持ってくれるんですよ」
「へぇ! たとえば?」
「たとえば、お店に入るときにドアを開けてあげたり、席に座るときには椅子を引いてあげたり。向こうでは普通のことなんですけど、そういったことが出来る男に女性は簡単に落ちてしまうんです。だからそれを逆手にとって、好きな人にアプローチしたり、します」
「ふーん」
目を好奇心でキラキラさせながら、綱吉はストローを啜った。その姿を見て、ランボは分からないように小さなため息をつく。
今、言ったことは先ほどから綱吉にすべてしていることだった。しかし、彼がそのことに気づいた様子はない。やはり女と男では違うようだ。恋愛の百戦錬磨は、もう一度、今度は大きくため息をついた。
(まぁ、)
ランボの態度がわからないといった様子でくりくりとした目を見開き、首を傾げる綱吉だけを目に入れられる贅沢に満たされる心を存分に味わって思った。
(今回は、ボンゴレを独り占めできただけいいとするか)