ローザ




スクアーロはプライベート用の衛星電話をリビングの机の上に置いて、じっと見つめた。電話はメールの受信もしなければ、電話すら受け付けずに静かに横たわっている。
電話なんてただの通信手段の道具としか思った事がなかったスクアーロが、電話をまるで意志のあるもののように感じるのは初めての事だった。
お前はなぜ動かない?
調子が悪いんじゃあるまいな。
もしかして俺が気がついてないだけかぁ?
真っ暗な部屋の中で無機物である電話に心の中で話しかける。やはり、電話はぴくりとも振動しない。
(‥‥俺も、やきがまわったもんだぁ)
そんな自分がなんだかおかしくなった。気を取り直すべく首を軽く振ってスクアーロは席を立って、自室のカウンターに向かい、氷を一つ浮かべたクリスタルグラスになみなみウィスキーをついで一気に飲み干した。
酔いはまったくといって良いほど回らない。
一息ついても思い出すのは、先ほどから同じツナの事ばかり。今までいろんな女を抱いてきた。それでもスクアーロは誰一人執着したことはなかったし、まして次の日まで引きずるなんて事。
自分も、弱くなったものだと思う。同時にそれほど大事なものができたのだと誇らしくもなるけれど。‥‥ツナからの連絡は来ない。
今までどんなに遅くてもその日のうちには帰ってきたのに、もうすぐ日付が変わる。嫌われてしまったのだろうか、そんな不安が消えない。
好き合って、キスをして。それまでの道のりは驚くほど長くてゆっくりだった。その日には体の関係を持っていたスクアーロには驚く事だったけど、だけどどうしようもなく幸せで時間なんて気にならなかった。
そして昨日。怪我をして帰ったスクアーロをなにも言わず抱きしめたツナがすごく愛おしくて。衝動のままに押し倒していた。

それから、連絡が来ない。

「‥‥早かったのかもなぁ」
スクアーロは倒れ込むように床に腰を下ろして、もう一度ため息をついた。
自分からかけることはしないし、できない。自分では男としてプライドとかそう言った類とものと思いたい。けれど本質はただの臆病だろう。
かけても出てくれなかったら、怖い。
出てくれてもなにかを聞かされたら、怖い。
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛!最強の剣士が、かっこわりぃなぁ‥‥」
本気の恋ってやつはどうしようもなくて、弱くなるからするもんじゃない、と思った。

携帯が軽く振動する。それを耳ざとくすぐに捕らえたスクアーロは間一髪もあけず手に取った。普段は余裕を見せるために少し時間を空けて通話ボタンを押すのだが、今のスクアーロにはそんな余裕がなかった。いつもに増して緊張しているのが心臓の音ではっきりと分かる。
「‥‥なんだぁ」
「‥‥‥も、もしもし‥」
「‥‥おう」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
どちらも何を話して良いのかわからなくて、長い沈黙が流れた。時折、電話のノイズが聞こえるだけ。
スクアーロはまた一つため息をついた。なんだか今日はため息をついてばっかりだ。なんてかっこわるい。それでも嫌いじゃない。
不器用同士の恋愛だ、なにもかっこつける事なんてない。そう思った。
(なんだか、付き合い始めにも同じような事を考えた気が‥‥)
結局あれから少しも進歩してないってことなのか。
「‥‥う゛おいツナ、なんですぐに電話してこねえ!」
するとしどろもどろに答える声が。きっと電話の向こうのツナの顔はさぞ真っ赤なんだろうと容易に想像できた。
「だ、だって‥‥なんだか、なんだか恥ずかしかったんだよ!」
最後の方はもはや逆切れだ。それでもスクアーロは自分の顔がにやにやするのが分かった。
本気の恋は弱点だけれど、どうしようもなく幸せだ。