「皆さんこんにちわー、今日は何かと物騒な話題で巷を賑わす水羽市まで来ています。
 インタビューアは私、野凪猫々子やなぎねねこがお送りいたします。
 さて、まず一人目を捜して見ましょう。お、流石水羽市、強い人が多いですねぇ〜。」

『ピピピピ・・・ボン!』

「お、マイ心器『スカウター』が火を噴いた〜。魄啓力、計測不能でーす。
 はーい、そこ行くお兄さん、ちょっとジャストアモーメントー!」

「え? はぁ、何か御用ですか?」




「私、月刊『バトルマニア』の野凪猫々子と言いますが、少しばかりお時間宜しいでしょうか?」

「え、えぇ、かまいませんけど」




「それでは、朴訥でビル街でなら何処にでもいそうな格好のお兄さん。
 お名前と年齢と職業よろしいですかー?」

「あ〜………何気に失礼ですね。樋川辰則、24歳。職業は警察官をしています」



「け、警察の人でしたか………あちゃーまずった。
 まぁ、いっか、月刊バトルマニアと言うからにはお聞きしたい事は二つほどでして、
 お兄さんの戦闘力と強い人の情報です。
 お兄さんは少なくとも銃器級以上のようですよね?
 当然、警察でも魄啓対策部隊みたいなものに所属されてるんですか?」

「えぇ、水羽南署で迷走魂魄対策部隊に所属しています」




「と言う事は、やはり何か武術はされてるんですか?」

「少し変わった柔術と逮捕術ですね、同じ部隊に師匠が居ますので彼女に習ってますよ」




「むむ、師匠と言う事はお兄さんよりお強いと?」

「まぁ、俺が知る限り最強の人ですね。問答無用って感じです」




「そうですか、ずばりお聞きしますが強くなる秘訣と強くなろうと思った目的は何かありませんか?」

「ん〜、秘訣は………自分より強い相手と戦って死に掛ける事と、自分より強い迷走魂魄と戦って死に掛ける事と、傍若無人な上司と戦って死に掛ける事ですね。目的はまぁ、無いより在る方が選択肢が増えるからなんとなくです」




「し、死に掛けるですかー。お兄さんも苦労されてますねぇ、お察しします」

「いや、判ってくれますか………ありがとうございます」




「それでは、インタビューはこの辺で、ご協力ありがとうございます。
 以上、野凪猫々子がお送りしましたー」





























 奇妙で小さな赤い糸・前編 「交差」 作:通りすがる野草





























 水羽市南区のとあるビル。
 その中のとあるオフィスを見渡してため息を一つ。

 至る所に飛び散った血痕、そして搬送されていく魄啓能力者たち、ざっと見るに最大でもB−の能力者達。
 彼等には有る筈のものが欠けている、例えば腕、例えば足、例えば眼球、例えば耳。
 フロアには足の踏み場が無いほどの血溜りが出来ているし、
 迷走魂魄相手で相応の修羅場に慣れている部隊の面々の中にも少々顔色の良くない奴が数人いる。

 この惨状をもたらしたのは恐らくは兵器級の能力者だろう。
 一応、逆心者という事にはなるが、正直、その謎の人物Xの気持ちは判らなくもない。
 定位置の肩に乗っているサラも同意見らしく、目の前の豚を焼き殺さんとばかりに抑えきれない力が熱となって漏れ出してきている。

 この中で一番の怪我を負っている人物はこの資料によれば『梧轟 那賀(ごとどろき なが)』、『体質』の概念能力者らしい。
 見た目は潰れたヒキガエルか不健康にぶくぶくと太った豚、表向きは民間警備会社だが、裏では非合法な少女売春組織―――しかも、攫ってきた少女を商品として顧客に提供する最悪の部類だ―――の首領というかボス。

 夜勤の途中、このビルで魄啓能力者同士のいざこざが起こっているとの匿名の情報を得て、3番隊以降に留守を任せ、上砂警部率いる一番隊と俺率いる二番隊で現場に向かった。
 いざ辿り着いてみると事は既に終わった後、大怪我で身動きを取れないように拘束された男達が唸っているだけだった。


「おい、樋川」


 現場の封鎖を指示し、鑑識の到着を待っている間に深刻な表情の上砂警部が何時もの格好(巫女服)でこちらへやってくる。


「どうしました警部? 何かありましたか?」
「妙なもんを見つけてな、お前の意見を聞いとこうと思ってよ」
「妙なもん………ですか?」


 首を傾げる俺に、警部は黙ってB4サイズの大きめの封筒を渡してきた。
 中に入っていたのは、豚とその仲間達の犯罪の証拠、それに攫った少女達を監禁しておく場所―――ご丁寧にそう説明文に書いてあった―――の地図、そしてその見取り図が一枚。


「これは、お手柄じゃないですか、でも、しかし、なぜこんな………判りやすくまとめてあるんですか・・・・・・・・・・・・・・?」
「さあな、罠かもしれんし、例の怪人Xの置き土産かもな………だとしたらさっさと救出に向かうべきなんだろうが」


『気に食わん』


 警部は苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる。
 このような豚がのうのうと存在していた事か、この少女達が今もなお捕まっていると言う事か、それらの情報を逆心者によってもたらされた不甲斐なさか、警部の機嫌は余り良くないらしい。

 以前、警察が担うべき案件が他の幹部の手で民間の何でも屋に委託されたことがあった。
 その時も警部は酷く怒り狂って隊長に直訴に言って危うく殿中でござると言わねばならないような状況に陥った。
 警察の無力さが許せない、自身の無力さに耐えられない、上砂警部とはそんな人だ。

 実際、それは俺にも言える。
 このような事件に出会うたびに己の無力さを付き付けられているようで、酷く遣る瀬無い。


『ふむ、ならば今すぐに向かうがいい、このような輩が一分一秒たりとも息をしている事が気に食わん、罪無き者が不当に拘束されておるのはもっと気に食わん』
「たしかにな、おし、樋川、超特急で行くぞ! 一番隊、地図の場所へ速攻で向かえ!」


 気を取り直したのか警部は不敵な表情を浮かべる。


「了解です! 二番隊はこのまま現場の確保、俺は警部と先行する………警部、車は?」
「走った方が速い」
「了解、んじゃ、行きますか」


 魄啓で身体を強化して地図の場所へ向けて走り出す。
 それと同時に警部も舞うように手に持った金属バットを緩やかに振り、続いて駆け出す。
 その次の瞬間には心器能力者である俺が眼で追うのがやっとなスピードで俺を追い抜いていった。

 軍神であり航海の神でもある武甕槌神タケミカヅチノカミの神術師。
 彼女の術式は行使者に刃の通らぬ鋼の肉体と心器能力者にも勝る身体能力を与える。
 これが神術士をして心器能力者とのどつきあいで打ち勝つ秘密。


「遅れるなよ、樋川!」
「警部こそ!」


 それこそ、音速を超えそうな勢いで駆ける二つの影。
 それにいくらか遅れ、パトカーの群れがビルを発った。
 この南区では実に一般的な光景の一つである。


























「有りがちだな、おい」


 呆れ声の警部と港にある倉庫街の一角で様子を伺う。
 地図の場所は南区のはずれ、海に面した倉庫街で治安の悪さは南区の中でもトップクラスだ。


「おい、樋川、偵察」
「いや、単語で話さんで下さいよ、まぁ、行きますけど」


 苦笑しながら無線機のスイッチを入れ、体をバネのように引き絞り、屈んだ状態から全力で跳躍。
 同時にサラを軽く巨大化し、そのサラの脚に捕まって眼下にある倉庫街を見下ろす。
 サラの能力で大気に温度差を作り暴風のような上昇気流を発生させ飛行の補助とするのも忘れてはいけない。


「サラ、ちょっとそのままで待っててくれよ?」
『ふん、お主くらい、どうという事はない』


 まぁ、何時も思うんだが空が飛べるってのは良いものだ。
 こう言う偵察時には特に便利な技だしな。

 眼下には目標の倉庫、"熱"現象の応用で、生物の発する体温をサーモグラフィのように感じとり、倉庫の中の様子を外から伺う。
 そのまま、壁越しに見える人影を数え、無線を使って警部に報告する。


「え〜、哨戒中らしいのが2人づつ計三組、入り口付近に詰めてるのが8人、ほぼ中央に5人。あとは非発動級のたぶん囚われている被害者らしいのが4人、同中央辺りに居ますね。ぱっと見、感じる魄啓の強度は兵器級無し、銃器級四、残りは武器級と道具級って所でしょうか?」


 無線を通し雑音交じりの警部の声で返答がある。


『んじゃ、作戦だ。俺が正面から特攻する、樋川、お前はそのまま上から人質ん所に堕ちろ』
「あの、それ作戦とは言わんと思いますが? せめて、部隊の到着待ちませんか?」
『黙れ、一秒たりともあの馬鹿共をのさばらせて置くのは我慢ならん!』


 どうやら、警部の中では突入は決定事項らしい。
 また始末書であかりちゃんには愚痴られそうだが、今回ばかりは同感だ。
 少しでも早く開放してやるべきだろう。

 両手に包帯のようにグレイプニルを巻きつける。
 指の先から肘までを心器で隙間無く覆う。
 準備完了、正面では警部の準備も整ったのだろう、威圧感を伴う強い魄啓力が感じられる。
 倉庫内でも警部の気配を感じてか、哨戒中の6人が正面に向かい中央付近が比較的手薄になる。


『突入!!』
「了解、サラ降下」
『承知!』


 警部の合図に合わせてサラは翼をたたみ、そのサイズを元の小さい状態へと変えて自由落下。
 そして丁度、見張りの1人の真上に落ちるよう風を起こし微調整を行う。


「燃え尽きろ!」


 ゴ、ドガァァン!


 倉庫の天井を人一人分円形に焼き尽くし素通りすると、そのまま轟音と共に見張りを押しつぶす。
 着地の衝撃で悲鳴も上げず潰された見張りA。
 まぁ、魄啓能力者ならそう簡単には死なないだろう、落ちた瞬間、思い切り魄啓を込めた拳をお見舞いしたが。


「な、なんだ?」


 ゴキィ!


 浮き足立っている見張りに対し、着地の反動を利用して接近、反応もさせずに顎に一撃。
 力を込めすぎたようで見事なまでに顎が砕ける感触が手に感じられる、確信犯だけど。

 2人が沈黙させられ、やっと反応を始めた男達が銃を向けて発砲するが、それは無視、銃器級以上の魄啓使いに銃弾は意味が無い。
 純粋に当たる当たらない以前に当たっても脅威ではないからだ。
 サラが銃を向けた2人に対して火炎のブレスを吐き、その熱で銃が暴発する。
 基本的に手加減が苦手なサラの攻撃だ、しかも今回に限っては手加減する気がそもそもない。
 強力な炎と至近距離での銃の暴発を浴びて二人は悲鳴を上げ沈黙、その爆発音と悲鳴をBGMに最後の1人と向かい合う。
 恐らく倉庫内にいる魄啓使いの中でも一番強力な気配を発している能力者。


「貴様、何もんだ?」


 あっと言う間に部下をのされ、焦っているのだろう、声に震えが混じっている。


「警察官だ、とりあえず未成年者略取の現行犯で逮捕と行くつもりだが………当然、異論は無いだろ?」


 ちらりと状況について来れていないあかりちゃんくらい―――中学生―――の少女4人を見て、男をにらみつける。
 相手も力量の差はわかるのだろう、冷や汗を浮かべて構えている。
 正面では、なんだか凄い勢いで轟音と悲鳴が響き渡っているが、いまさらか?


「ちっ!」


 男は舌打ち一つ、両手に生み出した炎を投擲、炎は唸りを上げてこちらへと向かって来る。
 しかし遅い、恐らくは銃器級の偽身能力者、この距離で心器使いをどうこう出来る速さではない。
 俺目掛けて走る二条の火線、その両方をグレイプニルを巻いた両手で"逸らす"。


『樋川、とりあえず敵には誤解させるつもりで能力を使っとけよ?』


 初めてグレイプニルによるエネルギーの制御を見せた時、警部に言われた言葉だ。


『相手を捕らえりゃ無力化できる心器に、しかもサラって言う別種の能力、そしてさっきのエネルギー制御、相手を誤解させておきゃ、そのどれか、もしくは全部が生きてくる。折角の引き出しの多さだ、うまい事、使いこなして見せな』


 両腕に巻いたグレイプニル、それに触れた火線のベクトルをそれぞれ僅かに変更。結果、両手を盾に逸れて行く火線の間を潜り抜ける。
 そして男に肉薄し、そのままの勢いで男を捕らえ合気の要領で地面にたたきつけた。


「ぐっ、かはぁ、ば、馬鹿な!」


 逸らした火炎が激しく燃え上がる音を背中に聞き、おそらく火炎を目くらましに逃げるつもりだった男が悲鳴を上げる。
 投げ飛ばした瞬間、間髪入れずに両手からグレイプニルを伸ばし男を一瞬で拘束、そのまま男を引きずって他の四人も順次拘束する。


「くっ、何故だ、何故力が出ねぇ」


 引き摺られながら男はもがくが、武器級まで魄啓力を抑えられ能力が発動できない上にいくらもがいても力を受け流すグレイプニルはビクともしない。

 捕らえた相手の魄啓力を制御しランクダウンさせる能力。
 グレイプニルによって制御され魄啓量が最低起動値を割った能力者は能力行使が不可能になる。
 ―――それゆえの封印能力。

 そして、ただでさえ物質、現象、概念能力を封印された状態で、数ランク上となる心器を破壊する力は得られず。
 しかも、触れたモノのエネルギーを制御するグレイプニルの能力により捉えられたが最後、逃れるのは至難となる。
 ―――それゆえの強固な拘束能力。

 まぁ、格下や同格の相手にしか封印の意味が無い以上、格上である上砂警部との模擬戦などでは効果半減なのが虚しい所だけどな。

 縛られ怯える少女等の縄を焼き切り―――当然、縄だけを慎重に燃やす―――、警部に合流する為に拘束した未だ足掻く五人―――意識が無いのが数名いるが―――を引き摺りながら正面入り口へと向かう。
 相変わらずど派手な戦闘音が聞こえてくるのはご愛嬌、という奴だろうか?


























「おらおらおら、手前等全員9割殺しだ、死に腐れ!!」


 正面の扉は巨人の剣によって引き裂かれたかのように切り飛ばされ、変態豚の部下達は未だに善戦していた。
 不思議に思って良く見てみると、倒れているのは全員背中から切り伏せられ、
 さっきから飛んでいる警部の攻撃は普段あの人が見せるのとは威力が全然違った。

 なるほど、あの必死さは逃げたら殺すの無言の脅迫が原因か?
 結論、めちゃくちゃアッパーテンションな上砂警部は猫が鼠をいたぶるように敵をいたぶっている。


「あちゃあ、本気で怒り狂ってるな、あれは………」


 そういや、趣味は逆心者虐めとか公言してはばからない人だったが、今回ばかりはそれ以上だ。
 俺は冷や汗を流し、今更ながらあの人を怒らせまいと決意した。
 そんな警部に恐れをなしたのか、助けた少女ら四人は俺に縋り付くように身を寄せ合っている。
 人によっちゃ役得のはずなんだが中学生じゃなぁ………後五年後とかにこうして欲しい所だけど。


『主よ、でれでれするでない』


 がじがじと噛み付いてくるサラ。


「いたっ、痛いって、それにでれでれしてないって………してないよな?」
『ふん!』


 やたら不機嫌なサラ、一体何故だろう謎だ。
 まぁ、このままと言うわけにも行かないので、警部に声を掛けることにする。


「警部、救出は終了ですよ、そちらもさっさと終わらせてください」
「ん? 樋川か? なんだ、もう終わりかよ、つまんねーな」


 攻撃の手を休めてこちらに振り向く警部、それを隙と見たか男達の中の一人―――西洋風の剣の心器を持つ男―――が、恐怖心を押し殺し、勇気を搾り出して―――まぁ、ぶっちゃけ蛮勇と言う奴だが―――警部に向けて剣を振るい、その剣からは真空の刃が繰り出され、その衝撃波ごと振り向きもしない警部の一撃に切り捨てられる。
 まぁ、なんと言うか、鬼だなこの人は………


「仕事ですからつまらんとかは無しで行きましょうよ」
「ちっ、判った判った、じゃとっとと終わらせるか」


 轟ッ!!


 警部が不思議な足運びでバットを地面にコツン当てた瞬間、屋内にもかかわらず激しい轟音と閃光と共に落雷19本が堕ちてくる。
 それらは正確に立っていた5人と、倒れていた9人と、拘束していた5人を捉え。
 器用な事に、それらの落雷は彼らが死ぬ一歩手前まで手加減された一撃だったりする。


「9割殺し完了っと、全く不完全燃焼にもほどがある」


 この三十路巫女とは大概付き合いも長いのだが、ほんっっっとうに容赦ないな。
 とりあえず気を取り直して、再度熱源探知で辺りの索敵を開始する。
 神経質な話かもしれないがやはり、念には念を入れておかないと落ち着かない。

 屋内には目の前に居る分以外は敵熱源は無く、そして屋外の方に目を向けた瞬間、倉庫上部の辺りから二個の人間サイズの熱源を発見する。


「警部、倉庫外上部に熱源2です!!」


 行動は素早く迅速に、声を発した瞬間にはサラとの共鳴同化は完了し、外へ向けて駆け出す。
 警部も無駄な言葉は一言も無く、金属バットを担いで同じ速度で飛び出した。
















 放浪猫クロさんに続きます。








おまけ

名前:野凪猫々子(本名:柳猫々子)
分類:国術師/心器能力者
位階:銃器級
能力:調べる心器『スカウター』
詳細:月刊バトルマニアの新米記者。彼女の心器は龍玉と言うアニメに出てきた戦闘力を測る道具をモデルに作られている。魄啓力や身体能力を数字として表示する能力。自身より位階が低い相手の能力詳細を知ることが出来、相手の身体データなども目に見える形で表示する。ただし、相手が自身より位階が高かった場合、それらのデータは測定不能と表示され、同時に煙を吐いて大きな音を立てる。その無駄に凝ったギミックは彼女の趣味とまことしやかに噂されている。