「皆さんこんばんわー。毎度お馴染み、週刊バトルマニアの野凪猫々子でーす。
本日最後の人はこちらーっ……ええっ!?」
「藤代希でーーっす。てへ♪」
「…………あれ?」
「ほらほら、お姉さん。インタビューインタビュー」
「なにやら府に落ちない点ばかりですがまあいいでしょうっ。
退廃的な雰囲気をまとったお姉さん、名前をどうぞっ!」
「三雲武司です」
「…………ええ? えええ!?」
「藤代希でーーっす」
「………………今日の人の中でも一番厄介な人…………なのかしら」
「職業は多分高校生で、年齢は多分18歳でっす」
「…………頭痛くなってきたかも……」
「野凪猫々子ですよー」
「わ、私かよっ!?」
「スリーサイズは、上から―――――」
「――――死に腐れ学生!」
「うぼぇっ!?」
「あ、あ、私殴っちゃったよ。大丈夫私っ!?」
「痛いに決まってるじゃない私っ! せっかくの化粧が崩れたじゃないっ!」
「ごめんね私! ほら、早く化粧を直して…………」
「…………あり?どっちがどっちだったっけ?」
「私の台詞だっ!!」
「ぎゃあああ!?」
「大丈夫私っ!?」
以下、エンドレス。
あらすじ。
慶子が乙葉に嫉妬して、乙葉に武司が話しかけた。
以上。
「あいてっ!?」
突風が吹き、足を滑らせて顔面から落ちた武司が見たのは、更に呆けた乙葉の表情だった。
その淡い唇を僅かに開き、こちらをぽけーっと眺めていた。
武司は痛みに呻きながらも、一人時が止まった乙葉に近づいて、その体を抱き上げた。
軽かった。
「な、何をするんだ!?」
同時に、乙葉の時は動き出す。当然といえば当然だろう、見知らぬ男性が、何の躊躇いも無く、自分を抱きあげたのだから。
乙葉にとってはひどく珍しく、甲高い声でそういうが、帰ってきた声はどこまでも落ち着いていた。
「や、ここは治安が悪いから。おねーさんみたいな美人が蹲ってたらイジメられるよ?」
「イジメ…………」
「ああ、オレがそこらの不良だと思ってるのかな。んー…………ほいっと」
なにやらほうけた様子の乙葉だったが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりにすぐさま行動に移す。
技能庫から医療関係のスキルを探し、
「ほいっと」
乙葉の胸を触れるか触れないか微妙な位置で、手を翳す。
右肘から手首、手のひらから、指先に、白く輝く光が回る。それは螺旋を描くように乙葉を包み、覆っていく。
螺旋に動く光は徐々に速度を上げ、乙葉の全身を踊る。
それはさながら無邪気に遊びまわる妖精のように。
「んーーー、これでよしっと」
それは見知らぬ他人が、小さな子供に使っていた技能。武司の知らないことだが、その技能はある流派の神術士が扱うヒーリングという技能だった。
「気休め程度だけど、オレから逃げられるぐらいは回復したと思うっす。……えっと、別に変なことするつもりないっすよ?」
「…………」
兵器級の能力者。
乙葉は今の力で、それを察することができた。
それも、自分より上の波動。
神話の住人に限りなく近い、能力者だと。
「あー、でも。移動っつっても、ここらへん一帯が治安悪いからなー。めんどいからここでいいか」
自分を見つめる乙葉に気付くことなく、武司は一人呟き、乙葉を静かに地面に下ろす。
「キミは…………馬鹿か?」
「馬鹿………………ぅぅ。ここでも馬鹿って言われたよぅ……うじうじ」
普段、級友から言われまくってる武司としては、イジケル他無かった。
地面に蹲り、地面に歪な絵を描く。
馬鹿で絵が下手なオレって……。うぅ。
「いや、すまない……って、そうじゃない! 私が何者かもわからないのに、気安くそんな事をするのは良くないと言っているんだ!」
あまりのイジケっぷりに、乙葉は思わず謝り―――――叫んだ。
「ええい、そもそもキミは何者なんだ! クライムか? 正義の味方か? ただの通りすがりとか言う気じゃないだろうな!」
先程樋川に言った言葉を棚に上げ、乙葉は武司に詰め寄っていく。
その動きは先ほど致命傷負ったばかりの人間の動きではないと自覚していなかった。
「何者って」
武司としてはそう訊かれれば、こう答える。
佐倉翔也が名付けてくれた、その名前を。
「三雲武司っす。現在18歳、独身っす」
「……………………はぁ」
なんだか自分一人で勝手に混乱しているのが馬鹿みたいに思えて、乙葉は深々と溜息を吐いた。
「八雲乙葉。21歳で独身だ。ありがとう武司、キミのおかげでだいぶ楽になった」
「おお独身。って、おねーさん独身!? えーありえねー。絶対婚約者とかいそうだけどなー」
最早話がずれているのを自覚しているのかと問いたくなる会話。もとい言葉。
いや、当然のように自覚していないのだが。
「異性と付き合った経験すらないのにそんなモノいるわけないだろう。女子校だったせいか同性にはやたらモテたが……いや、私にそっちの気は無いと何度も言ったのだが、次から次へと……クリスマスやバレンタインのイベントなんてうんざりを通り越してトラウマに――――って何を言わせるんだ!」
八雲乙葉。
色々な属性が着き始めている21の深夜だった。
と、そんな乙葉と対照的にバカ武司はというと。
「メモメモ」
どこから出したか知らないが、メモ帳にメモっていた。しかもボールペンじゃなく、油性マーカーで。
「って、何を書いているんだ君はっ!!?」
程良く身体が動くようになり、八雲の異能を発動させた乙葉がそれを引ったくる。
――――いや、そんな事に使わんでも。
「日記」
日記かよ。と武司の友人がいたら突っ込んでいただろう。
だが生憎とここには、武司の友人はおらず、いるのは乙葉だけであった。
「……………………」
乙葉は無言で新しく書かれたページを引きちぎり、メモ帳(武司曰く日記)を投げ返す。
「ひっでー……。まあいいや、覚えてるし後で書き直せば……ページ再生させるのもありだし」
そのメモ帳を懐に仕舞い、武司は乙葉の様子を見る。自分の治療が効いたのだろうか、さっきより調子が良さそうであるのが容易に見て取れた。動くこともままならなかった手は、やたら頑丈なメモ帳のページを引きちぎれるぐらいに、とっさにひったくれるぐらいの速度が出せるように、足は回復していたし。
もう少しもすれば、兵器級の彼女の体調もとりあえず平常になっていくことだろう。
武司はそう思った。
「再生? 神術士にはそんなことまで出来るのか?」
「いや、神術士じゃないからわからないんですけど…………神術ってそんなことまでできるんすか!?」
「いや聞いているのは私なのだが……って、神術士じゃない? さっきのはヒーリングじゃなかったのか?」
「へー…………あれって”いたいのいたいのとんでいけー”って名前じゃなかったんだー。ヒーリング…………あ。じゃあ、あの人”霊能力者”だったんだ」
「………………ダブルアラインメントでも、ない?」
「んへ? ダブルンは一応持ってるけど……別に神術士じゃないし」
武司の返答に乙葉は頭を悩ますばかり。
乙葉の様子に武司は説明しようかと悩み、色々と面倒なので簡単に説明する事にした。
「かの、FF4知ってます?」
「知ってるが?」
「ものまね師わかります?」
「全員そうだが」
全員かよ、と武司は突っ込まない。
それはどちらかというと友人である友良の台詞であるから。
「それっす」
「は?」
乙葉が煙草を咥えていたならば、その煙草は地面に落ちただろう呟きであった。
「……まあ、とりあえずそれで納得してほしいっす」
「…………わかった」
その言葉に陰を感じ、乙葉はそれ以上の追求を止めた。
それ以上の詮索を止めてほしいという意志。それを感じる事ができたから。
それに。
「アンタら、俺らにオコヅカイくれない? 見たとこ、結構金持ってそうジャン?」
先ほどから自分たちを囲んでいる青年たちがいたから。
こちらをねっとりと嬲るように眺めながら、その下衆な感情を隠そうともしない、能力を使うまでもなくわかる視線を向ける青年に、乙葉は何か言おうとして。
「とうっ!」
武司が見事なまでのドロップキックをその青年に向けて放っていた。
なんというか、某お笑い芸人の姿がオーバーラップした。
低いうめき声を上げながら吹っ飛んでいく青年を余所に、武司は着地に失敗して痛がっていた。
「失敗失敗……」
「―――――じゃないっ!!」
思わず、がつんと殴ってしまう乙葉だったが、間違っていないと自分を納得させ、不思議そうに半泣きでこちらを見上げる武司。(武司の身長からいって見上げられると違和感しか覚えなかったのは内緒)
痛そうに頭を抑えているのがこれまた似合わないなぁ、と場違いな事を思いつつも、乙葉は率直に注意する――――――のではなく感想を告げる。
「………………君はバカか?」
「ぐはぁっ!?」
会心というよりも改心の一撃になってくれないかな、とお姉さん的感情を発揮しつつも、乙葉は武司にもう一度拳骨する。武司を見ているとどうも、子供を叱っているようなそんな感覚に陥っている気がした。
「いきなり人にドロップキックをするな!」
「ぃ、いやあ、でも、どう見ても悪者でしょう?」
対象的に武司の姿は、叱られてる子供だったが、乙葉はそれに気付いていない。
「見るからに柄の悪そうな輩で、口に出す言葉が害を成そう者たちの言動であっても、問答無用で攻撃を仕掛けるものではないだろう! そんなこともわからないのかっ! だから―――――」
「……だから?」
「こうなるんだよっ!!!」
必然的に置いてけぼりになった、周囲の男たちのうちの一人が手ごろな角材を持って、背後から武司に振り下ろしていた。
「…………これぐらいなら囲まれててもぜんぜん余裕だからいいかなーと……」
当然のようにそれを受け流す武司は、変わらず自分に言い訳する。
まあ乙葉も心配も何もしていないのだが。
所詮、彼らは良くて武器級なのだから。
「まあ、確かに余裕かもしれないが」
言いながら乙葉は自分を人質に取ろうとしたおろかな青年のある場所を、できるだけ手加減して蹴る。
「ぅわぁ…………悲っ惨……」
思わず内股になった武司がこちらを咎めるような目つきで見ていたが、乙葉は当然のように無視。怯んだ不良たちの懐にもぐりこみ、掌底を放つ。
身体はまだ軋むが、それでも彼らに遅れを取るほどではない。乙葉は流れるような動きで彼らに一撃ずつお見舞いする。――――武司を見てみれば、既に終わっていた。
「…………何をやってるんだ君は」
そして突っ込む。
え、と恍けた声を出す武司に乙葉は、怯える最後の青年を無視しつつ、つかつかと武司の下へ近づき、拳骨。
「いてっ!?」
「何をやってるんだ…………」
思わず目頭を押さえてしまう乙葉であった。と、いうのも、武司は“倒した”青年たちを一人ずつ重ねて―――――積んでいたからだ。
ご丁寧に、縦横交差にバランスよく。
「何をって……人間の山を作って、一番上に座ろうかなー、と」
てへ、と笑う姿は気持ち悪かったが、乙葉は何とか持ち直し。
「アホか!」
拳骨。
今さっき自己紹介したばかりの間柄の人にこうまで手を上げていいのかよ、と思わず突っ込んでしまいたくなるほどの見事な三発目の拳骨だった。
ともあれ。
「いてー」
「こっちはもっと痛かったがな……」
「いいじゃん。兵器級なんだし。ある程度治してあげたし」
「…………何も言うまい」
仲良くなった二人がそこにいた。
武司は積み上げた男たちに座り、乙葉は呆れながら近くの壁に寄りかかって。
「小僧に頼まれて慌てて来てみれば……ぬしらは何をやってるんじゃ」
そして、不思議な表情をして立っているホロに気付いた。
「ああ、すまないホロ。彼のおかげで身体はなんとかなったんだが……その後がグダグダでな。少し疲れた」
「グダグダって……別にオレ何もしてないのにぃ……」
「……???」
首を傾げているホロの気持ちはわかるが。
それ以上に疲れていた。
グダグダだった。
「武司」
「んあ?」
「迎えが来たようだし、私は帰るとするよ」
「ああ、そこのアイヌ系の人……。はじめましてー、三雲武司18歳独身です」
ホロはしげしげと武司を見つめ、乙葉に向き直って。
「……なんじゃ、こやつは。ぬしの知り合いかや?」
今度は怪訝な目を武司に向けた。
まあ仕方なかろう。
「知り合いというか、知り合ったというか……まあ、怪我の応急処置をしてくれた恩人だな」
あとはその辺りで倒れている逆心者にとっての恩人だろう。
なにせ乙葉が重傷のまま一人でいたら、彼等は全く手加減をしてもらえなかったところだったのだから。
「ふむ……まぁよい。わっちの名前はホロ。ぬしよ、わっちの友を助けてくれて感謝する」
「ホロ?……上の名前?下の名前は?」
「わっちはホロじゃ。今はそれ以上でもそれ以下でもない……まあ、ぬしにはどうでもいい理由じゃ」
「…………そっか」
その言葉を聞いた武司は、哀愁と懐郷の念が織り交ざった顔をして――――すぐに笑顔になる。僅かな動揺を見透かされないように。
初対面の人たちに、こんな顔は見せたくないから。
「一応、応急処置はしたけど。それでも重症(誤字にあらず)だから気をつけてね」
重症→クリスマスやバレンタインのイベントなんてうんざりを通り越してトラウマ。
「ちょっと待て武司、どうでもいいが字が違うぞ?」
何故か地の文に突っ込む乙葉がいた。『赤い糸』で築いたキャラがどんどん崩れていく瞬間であった。
「いや、傷の方じゃなくてトラウマの方が重症かなーって」
ぶち、と。
何かが切れた音がした。
武司にとっては耳に慣れたその音。
逃げ出そうと準備した武司を余所に、乙葉は思い切り拳を振りかぶり、
「忘れろと……言っただろうがーーーっ!」
叫ぶ。
が。
「ホロっちゃーんっ。乙葉ねーさんってば、異性と付き合った経験すらないのにそんなモノいるわけないだろう。女子校だったせいか同性にはやたらモテたが……いや、私にそっちの気は無いと何度も言ったのだが、次から次へと……クリスマスやバレンタインのイベントなんてうんざりを通り越してトラウマになってるから気をつけてねー!」
笑顔で逃げながら大きく手を振る武司であった。
どうでもいいが息継ぎ無しかよ。
「……で、ぬしよ。あやつは結局何者なんじゃ?」
武司が去ったのを見送ると、ホロは乙葉に訊ねる。武司の発する力の強さを感じ取っているのか、その顔はいつになく真剣である。
乙葉はそんなホロの様子に苦笑し、
「さて、な……私にもよく分からなかった。人であって人でないような、だがまあ……『人』なのだろうな」
本当に、わからなかった。
“共感”できなかったのでもない、レジストされたのでもない。
はっきりと、武司の感情は感じ取れた。
が、わからない。理解できないのだ。
子供のような、大人のような、老人のような、男性のような、女性のような、妖怪のような、動物のような、異人のような、そのどれでもあるような、そのどれでもないような、そんな感覚を、あの時感じ取ったのだ。
上手く表現できない感覚。あのときにわかったものといえば、それと。
もう一つ。
“人間で、ありたい”。
確固たる、気持ちであった。
「……ぬしの言うことはよく分からぬ」
やれやれ、といった様子で首を傾げるホロに、今度は微笑を浮かべる乙葉。
そして。
「なに、変わり者だがいいヤツだったということ」
「あ、はい。忘れ物」
「うお!?」
再び登場三雲武司。思わず女性らしかぬ声を上げてしまう乙葉であった。
「乙葉ねーさん、女性なんだからうお! はないでしょ。……はいこれプレゼント。じゃーねーー!」
一方的に喋り、乙葉の手に何かを握らせ、手を振り、武司は走り去っていった。その奇妙な物体には先ほどのメモ用紙が一枚、くっついていた。
それには「特殊な銃弾がほしかったら電話してねー」。と、綺麗な字で書かれていた。
ふぅ、と一息吐き。
懐にそれを仕舞い込み。
夜空を仰ぎ、疲れた様子で言う。
「……何者なんだ?」
「変わり者じゃがいい奴、で納得したのではなかったのかや?」
「お、あかりちゃんじゃん?」
乙葉と別れ、帰路を歩いていると、すぐ横を見知った顔が走り去っていったので、声を掛けてみる。
すると、息切らし走り去った彼女は立ち止まり、こちらを振り返る。
相変わらずちんまいなー、と素直な感想を浮かべる武司であった。
「…………武司君。なにやってるの?」
朝倉あかり。
彼女は、武司の知る限りもっともスーツが似合わない女性であったが、まあ仕方なかろう。ちっこいし。
「ん? 倒れてたおねーさん介抱した後に不良に絡まれて、そいつら倒してその上に積み上げた後(かくかくしかじか)そのおねーさんと別れて、今帰り道」
思わず目頭を押さえるあかりであったが、まあ彼のことだから漫画で読んでやってみたくなったのだろうと、実に見事な答えを導き出した。
「あんまり、悪さしちゃダメだよ、こわーいお姉さんが雷様になって追いかけてくるから」
「あかりちゃんこそ。ただでさえちっちゃい身長が吸い取られちゃうぞ?」
「失敬な、まだ育つ見込みはあるよぉ……そう、まだ育つまだ育つ……」
ぶつぶつ言ってるあかりの頭を撫でてあげたい衝動を抑えつつ、武司はあかりを肩車する。
年上だと知っていればそんなことをしないのだが、如何せん武司はあかりのことを妹どころか近所のちっこい女の子の認識でしか見ていない。
故の行動だった。
「お兄さんが送ってってあげるよん。家はどっちかなー?」
「えっと、武司君? なんで肩車かなぁ? いや、送ってくれるのは嬉しいけど、終電過ぎちゃいそうだったし……」
ふと気付く。
この態勢は……?
「はっ……セクハラ!!」
肘鉄。
しかも旋毛辺り。
だが悲しきかな、あかりは武器級。
「ははは。暴れると落ちるぞー」
兵器級のバカには通用しなかった。
「もう、デリカシー無いなぁ・・・武司君の彼女は苦労するわね」
がすがすと武司の脳天に肘鉄を打ち続けながらも、あかりは大きくため息をつく。
武司に肩車されたままで。
「彼女なんていねーよー。あかりちゃんが大きくなったら、彼女になってくれよー」
そう、笑いながら言う武司であった。
が。
その言葉であかりは何かに気付いた。
とてもとてもとても重要で大事で大切なことに。(意味の重複
気付きたくなかったが。しかし気付いてしまったのは仕方が無いと自分を奮い立たせ、あかりは恐る恐る訊ねる。
「……ねぇ武司君。ちょっと聞きたいんだけどいいかなぁ?」
一般人なら、凡人なら、普通の人なら気付いただろう。
あかりから発せられるドス黒いオーラに。
だが。
この男は。
三雲武司という男を舐めてはいけない。
この男は、史上最強のバカの名を冠することも可能な男なのだからっ!(強調
いやたぶん、春原陽平という男にはある意味負けるのだけれども。
さておき。
「んー。なにかなー?」
今更ながらに気付いた。遅まきながらも気付いたが、武司の自分に対する言動は。
自分よりも年齢の低い人にでもなく。
自分と同世代の子に対してでもなく。
―――――近所の小さい女の子に対するものだと。
「ねぇ、私って何歳に見えるかな〜、社会人? 高校生? もしかして中学生かな?」
自分でも薄々は判っているらしい。
わかっているのなら傷口に辛子塗るような真似しなきゃいいのに、という樋川の突っ込みは来ない。
いないから。
「あはははは。中学生って、流石に背伸びしすぎだろー?」
「そう……そうなんだ……やっぱなぁ、そうだと思ってたんだぁ、あははははははは」
そして、武司のトドメが下る。
「あかりちゃん、まだ小学校5年生ぐらいだろう?」
都合の良い事にあかりの手には、家でやろうと持ち帰った分厚い書類のつまったファイルがあった。
そして、朝倉あかりは事務という概念を操る偽身能力者である。
事務概念の偽身能力者。
つまり、彼女の仕事―――事務仕事に関係する全てのモノを概念的に操作する能力と言う事だ。
パソコンであれば、旧式のものを最新式と見紛うばかりに性能を強化する事も出来るし、書類を運ぶ為なら自分自身を強化する事も可能だ。
彼女はその能力を遺憾なく発揮し、手にした書類はまるで鉄板のような堅く重く、それを手にする彼女の身体能力はこの瞬間だけ、銃器級の心器能力者を越えた!
「ファイル…………クラッシャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!??」
これが。
朝倉あかりの突っ込み開眼の時であった、まる
「すげーーっ、今の一撃、銃器級の心器能力者でも……痛ってー……結構なダメージになるんじゃないの?」
だが相手はバカだった。
それも、回復力の高すぎるバカ。
突っ込みも攻撃も難なく無視するバカだった。
「……はぁ、うぅ、お母さんの馬鹿・・・せめて人並みに産んで欲しかった(しくしくしく)」
間違った認識を正す気も失せ、涙を流しながらあかりは武司に肩車で家まで送ってもらう事にした。あまりにも悲しかったので。
明日辺り樋川の辰則君に慰めてもらおうと思いながらも、あかりは武司の肩の上でしくしく泣き続けるのであった。
「てゆーか、あかりちゃん。こんなところで何やってたのー?」
「オトモダチのおうちで遊んでたのー」
もうヤケクソだった。
それは、空色の死神が持っていた奇妙な糸。
赤でもなく青でもなく、黒でもなく白でもなく。
縁という名の細くて頑丈な長い糸。
この糸は彼らの物語を紡ぎ、彼らの絆を育むかもしれない、不思議な糸。
佐倉翔也から、樋川辰則、上砂慶子へ、八雲乙葉へ、三雲武司へ、ホロへ、朝倉あかりを結んでいく。
そんな、不思議な糸。
些細なものから繋がる、その糸は。
遠い未来、彼ら全てを―――――――――