聖書とゲーム理論
理論経済学の一分野に「ゲーム理論」というのがあります。先月宮崎先生が取り上げておられた2001年アカデミー賞受賞映画『ビューティフル・マインド』の主人公ジョン・ナッシュはゲーム理論の基礎を確立した人物です。同志社はキリスト教の大学ですからゲーム理論を聖書の有名な物語に応用した話を紹介しましょう。
神がアブラハムにその独り子イサクを献げよと命じました。そしてアブラハムが今まさにイサクを屠ろうとしたそのとき神の使いが現れ「その子に手をかけてはならない。あなたが神を畏れる者であることがわかった。あなたの子孫を天の星のように増やそう。あなたが私に従ったからである」と言いました。この物語をゲーム理論的に解釈してみましょう。プレイヤー(ゲームの参加者)は神とアブラハム。神の行動の選択肢は,A:命令を取り消す(イサクを助ける),B:取り消さない(イサクを助けない),の2つ。アブラハムの行動の選択肢は,X:イサクを献げる,Y:イサクを献げない,の2つであるとします。各々が行動を選んだ結果として起きる可能性のある状態はAX, AY,
BX, BYの4つです(AXはアブラハムがイサクを献げ神が助ける状態,以下同様)。AXとAYの場合イサクは助かりBXのときは死にますが,BYのときにイサクの運命がどうなるかは不明であると考えましょう(例えばアブラハムがイサクを連れて逃げる)。神とアブラハムにとって各状態の望ましさ(「利得」と呼ぶ)を数値で表現すると,
神:AX 4,BX 3,AY 1,BY 2 アブラハム:AX
4,BX 1,AY 3,BY 2
であるとします。これは以下のような表で表されます。数字は左が神の,右がアブラハムの利得です。
|
神\アブラハム |
イサクを献げる |
イサクを献げない |
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イサクを助ける |
4,
4 |
1,
3 |
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イサクを助けない |
3,
1 |
2,
2 |
神はアブラハムの信仰が確かならイサクを生かしその子孫を残すことを望みますがそうでなければ望みません。何よりアブラハムが信仰を貫くことを望んでいます。一方アブラハムはイサクが生かされるなら神に対し従順でありたいと願いますが,イサクが殺されるなら信仰を捨て神から罰せられることも厭わないと思っています。これは1つの仮定であり他の仮定もあり得ます(例えば「イサクが死んでもアブラハムの信仰は揺るがない」,数字がどうなるか考えてみましょう)。この状況で神とアブラハムが相手の行動を推測しながら自分の利得をなるべく大きくするように同時に行動を選ぶとすると,次の2つの状態が実現する可能性があります。
@
神はアブラハムがイサクを献げると信じて「助ける」を選ぶ。アブラハムは神がイサクを助けてくれると信じて「献げる」を選ぶ。ともに利得は4。どちらかが一方的に行動を変えるとそのプレイヤーの利得は3に減る。
A
神はアブラハムがイサクを献げないと思って「助けない」を選ぶ。アブラハムは神がイサクを助けてくれないと思って「献げない」を選ぶ。ともに利得は2。どちらかが一方的に行動を変えるとそのプレイヤーの利得は1に減る。
@の方がお互いにとってよりよい状態ですが,いずれも辻褄の合う状態になっておりどちらが実現するかはわかりません。しかしゲームの設定を少し変えて同時に行動を選ぶのではなくアブラハムが先に選びその結果を見てから神が選ぶと考えると,アブラハムがイサクを献げ神が助けるという聖書に書かれた結果が実現します。なぜならばアブラハムは自分がイサクを献げれば神が助けてくれる(助ける方が助けない場合よりも神にとって利得が大きい)ことがわかるからです。これも経済学です。