一昨日バス停で事故があった。
酔っ払った車の運転手がバス停に突っ込んだらしい
雨が降っていた
死者はいたとか、いなかったとか
ザァザアと雨は今日も降っている。空は何を思ってこんなにも泣くのかわからない。
今日は電車じゃなくて、バスに乗ろうと思った。
雨の日の電車はいつもより人が多いので嫌いなのだ。
バスも同じだろうが、滅多に乗らないので人の多さを紛らわせてくれる。
バス停の近くまで来たところで、一昨日そこで起こった事故を思い出した。
もう事故の跡はなくて、ただ壊れたベンチだけが残っている。
事故の跡は、誰かが拭き取ったのか、連日の雨で流れてしまったのか
もうじきベンチも処分され、そうして小さな事故は忘れられてゆくのだろう。
別にそういう事は気にしない方なので、特に気にも止めずバスを待つ。
久々に乗るので変な時間に来てしまったらしい。ちょうどバスは行ったところだった。
次のバスまで、あと15分ほどある。
何気なく振り返ると、壊れたベンチに自分と同い年ぐらいの男が座っていた。
「(気付かなかったな…)」
驚いた。
壊れたベンチに平然と座っている事にも驚いたが、傘も差していない。頭からびしょびしょに濡れている。
少し暖かいとはいっても、もう9月の暮れだ。秋の雨は寒くないわけないだろう。
「なあ、寒くないのか、」
気になって声をかけてみた。少し顔を上げて、何か呟いたらしいが、聞き取れない。
聞き直すと今度はちゃんと聞こえた。
「待っているんだ、約束なんだよ」
「何を、」
「約束なんだ」
「…」
一昨日の事故がらみだろう。多分誰か死んだんだ。こいつはその家族か友人か、恋人か。
自分も4年前、両親を亡くした。その時は明日になれば戻ってくる、と思うしかなかった。
けれど、死んだ人は戻ってくるはずもなく、どうしようもなく日々が過ぎた。
子供だった。誰の言葉も耳に入らなくて、逝ってしまった人しか見えなくて。
あらわせない気持ちがもどかしかった。
その後、叔父が俺を引き取ってくれた。
だけど、素直になれなくて、優しい気持ちを、差し出してくれた手を、振り払ってきた。
忘れたかった。両親の死も、情けない自分も。
でも、忘れるのは違うのかもしれない
中学を卒業してから、あの町から遠くの、今の高校に通っている。
叔父には全然連絡をしていない。
雨は、やまない
二人とも黙ったまま時間が過ぎ、バスが信号で止まっているのが見えた。
男は座ったまま動こうとしない。
「乗らないのか、」
何も言わない。乗らないつもりだろう。
雨に濡れるその姿は、昔の自分に似ていて、自分よりもひどいかもしれなくて、
言わずにいられなかった。自分が最近たどりついた答え。
「あのさ、がんばれ、とか無責任な事言えないけど、…忘れるなよ、その人の死。
受け止めて、認めてやれよ。それで、自分のまわり見てみろ。きっと誰か、いてくれてるから」
半分自分に言った。俺も、そろそろ受け止めよう。
バスが着いた。プシューとドアが開く。
乗る前に振りかえって、傘を差し出す。
「傘、やるよ。寒いだろ」
男は受け取らない。とりあえずベンチに立てておいた。
慌ててバスに乗りこむ。思った通りバスは人が多い。椅子はあいてるはずなく、窓際に立つ。
バスがゆっくり走り始めた。壊れたベンチが遠ざかる。
今日は久しぶりに叔父に電話してみようか。それから今週の休みに一度帰ろう。
窓の外に花を持った人影を見た。バス停に向かっている。
一昨日バス停で事故があった。
酔っ払った車の運転手がバス停に突っ込んだらしい。
死者はいたとか、いなかったとか、
もう事故の跡はなくて、ただ、壊れたベンチに傘と花が供えてある
虹が、空にかかる
>>あとがぎといういいわけ
3年前のものです。
今のとかなり違う。。。