ざあざあふる今日の雨
今日の雨は一体何のために降るのでしょう
放課後の教室。
教室の丸時計の短針は既に四の数字を追い越している。
教室では男子生徒がひとり、窓の外に目をやりながら、何かを待っている。どことなく浮かれた顔に見える。
窓の外からは先程振り出したばかりの雨が地面を打つ音がやけに大きく聞こえる。
雨の勢いは強い。まるで彼のように。
がらら、と教室のドアが大きな音をたてて、セーラー服を来たショートヘアの女子生徒が姿を見せる。
男子生徒は待ってました、といわんばかりにドアの方を向く。
が、どうやら彼女は彼が待っていたことと違ったようで、彼はまた窓の外に目をむけた。
しかし女子生徒は彼に用があったようで、彼に何かを告げる。
とたんに彼の顔に失念がうかんだ。
そんな彼をよそに、女子生徒は「それじゃこれで」という風に,、それ以上何も言わずさっさと去っていく。
残された男子生徒は、一体何を思うのか。
彼はただ呆然とそこに立ち尽くし、頬には一筋涙がこぼれた。
雨は依然と降り続けていたが、勢いは大分弱まった。
まるで彼のように。
女子水泳部の部室。
今日は練習日でもないのに一人の女子生徒が何をする訳でもなく、座って本を読んでいた。
たった今授業が終わり、彼女が先程教室で見た時計は三時半をまわったばかりだった。
彼女は今日、本当は泳ぐ予定だったのだが、生憎の空模様で、もう半時間もすれば雨が降り出すだろう。
まだそれほど暖かい季節ではない。雨が降ればやや寒くなる。
だが、今から帰れば間違いなく雨にあうだろうと思い、
彼女は今日の雨が夕立であることを祈って、部室で暇をつぶしていた。
そこへロングヘアの女子生徒が勢いよくはいってきた。
「裕子、お願い。私のかわりに断ってきて欲しいの」
「それって中村くんのこと?断っちゃうの?」
「うん、彼まぁまぁ格好良いけどさ、やっぱり子供っぽいじゃない。ね、いいの?だめなの?」
裕子と呼ばれた生徒がうなづくと、ロングヘアの生徒は安堵し、水着をとりだした。
裕子が今日はやめたほうがいいと止めても、彼女はもう既に着替えかけていた。
風邪をひいても知らないからね、と裕子はいいのこし、部室を去った。
ひとり残った女子生徒はさっさと着替えを済ませ、長い髪をキャップにまとめ、プールへ入っていった。
やはりまだこの季節のプールは冷たいようだった。
裕子の思ったとおり、半時間もしないうちに雨が降り始めた。
強い雨だった。だが彼女は泳ぎ続けた。何かを振り払おうとするように。
ふいに水から顔を出して、彼女は呟いた。
「望月くん、本当に好きだったのに…」
雨は彼女の目から流れる涙も一緒にして、彼女の顔を流れる。
廊下。
一人の男子生徒が歩いていた。両手にはノートが三十冊ほどつまれている。
彼はこれからこのノートを職員室へ持っていくところだ。
本来ならもうひとりの当番と半分ずつ持って行くはずなのだが、見当たらなかったので、
ひとりで持っていくことにしたのだった。一人で持つには多いように思われたが、
ノートは四時までに届けないとクラス全体が減点になるのでこれ以上探すと間に合わなくなりそうだった。
が、階段を下りようとした時、勢いよく上ってきた女子生徒にぶつかってしまいノートはばらばらと階下まで落ちた。
ぶつかった女子生徒にも手伝ってもらい、何とか時間をあまり食わずに集められた。
彼女は集め終わると、ごめん、と言いながら足早に階段を上っていった。
何か急いでいるのだろうか、彼は思ったが、自分も急がなくてはいけないことに気が付き、
時計に目をやると、四時まであまり時間はなかった。
急いで職員室に駆け込み、何とか間に合って男子生徒は安堵して廊下を歩いていた。
窓の外に目をやると、向かい側の校舎の教室にひとり、誰かいるのが見えた。
彼は、それが誰だかわかった。同じクラスで、自分と今日当番をやるはずの中村だった。
それを見ると少し怒りがわいてきた。
中村に対してではなかった。自分に対してだった。
何故自分は彼を好きになってしまったのだろう。
同性であるのはとうに知っている。叶わないのだろうということも知っている。
一時の気の迷いだと片付け、試しに女子生徒とも付き合ってみたが、
結果、自分の気持ちは変わらず、付き合った彼女を傷つけるだけになってしまった。
香奈は本当に一途な人だった。
己惚れかもしれないが、彼女は多分本当に自分の事が好きだっただろう。
でも自分は…。
最近中村に好きな人ができたと聞いた時、彼が誰かと付き合い始めればいいな、と思う反面、
何処かでそれに怒る自分に腹が立った。そして今も彼を見ただけで、嬉しくなる自分にも腹が立つ。
行き場のない想いは何処へ行くのだろうか、彼はそんなことを考えていた。
まるで答えのかわりかのように窓の外では雨が降り出した。
ぽとり、一粒。廊下にも雨が降った。
放課後の教室。
裕子が教室についたとき、窓の外では強い雨が降り始めていた。やはり思ったとおりだ。
がらら、と滑りの悪いドアを開けると中村がこっちを向いたが、やがてまた窓の外に目をやった。
恐らく望む人ではなくて、がっかりしたのだろう。
裕子は話をきりだした。
「中村くん、話があるんだけど、香奈がね、」
そこまで言うと、窓の外に向けていた顔を中村は勢いよく裕子の方に向けた。
緊張と不安と、でも少し期待しているような顔だった。
裕子はそんな中村を見て、香奈からの伝言を伝えにくくなった。
が、ここで嘘を付いても余計に中村を傷つけるだけだ。
「香奈が、ごめんなさい、だって。」
少し気まずい沈黙が流れた。
「…そっか。まぁ、だめもとだったしな。土屋、わざわざ伝えに来てくれて、ありがと。」
口振りは明るいが、顔には明らかに落胆の色があらわれていた。
中村はそういうとまた窓のそばによって、窓の外を眺めだした。
雨が少し弱くなっていた。
裕子はそれだけ告げてあとは何も言わず教室を出た。
なんだか居辛かった。中村は泣いているような気がした。
一階まで階段を降りると、先程階段でぶつかった生徒を廊下の先の方に見つけた。
声をかけようと思ったが、何故だか、裕子は近寄らなかった。
彼もまた泣いている気がする、直感のように裕子は思い、近寄れなかったのだ。
部室に荷物を取りに行くと、まだ香奈はプールで泳いでいるようだった。
雨の中タオルをかぶってプールまで香奈を呼び行った。
彼女は泳いでる訳ではなく、水に顔をだして浮かんでいた。
裕子からは顔は見えない。けれど、さっきと同じように、彼女も泣いている気がした。
裕子は香奈に声をかけるのをやめ、雨の中帰ることにした。
今日の雨は何故降ったのだろう。何となく裕子はわかった気がした。
傘を持っていなくてよかったかもしれない。
雨が涙を隠してくれるから。
ざあざあ降る今日の雨
まだまだまだまだ降りそうだ
悲しくて暖かな涙と一緒に
>>あとがきといういいわけ
これは2年前のもの。
長いうえに意味不明というかなしさ。