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(有)日本映像企画代表取締役
映像プロデューサー
竹本幸之祐氏(大津市在住)
―地方の時代といわれる今日、甲賀の将来を考えた場合、町づくりの基本は何でしょうか。
いま必要なのは再生活力ですね、先づ第一は、知恵の再生です。電灯はスイッチを入れれば
明るくなるが、コンピューターはスイッチを入れても、ソフトを持たなければただの箱にすぎない。ソフトとは何か、これが知恵なんです。そしてその知恵を人に伝えていく情報ということ。オフィスで工場で家庭で、どんどん人間の機能の肩代わりをしていくオートメーション化が進んでいます。オートメーション、これは知恵の、同時に情報の集積です。日本の農業とアメリカの農業の違いもここにあります。日本は規模が小さいから農業そのものの情報化を成し得ないが、産業の情報化、情報の産業化、いずれも知恵なんです。そしてモノの再生ということ。雪が五〇センチ積もれば白菜の値段が一挙に倍にいということです。もう一つ、人の再生があります。一つの産業だけに依存していると、それが斜陽になったとき、人がどんどん流出して再生できなくなる、やがて老人の町になり衰亡していく。次々と新しい知恵が生まれ、人やモノの再生を促す条件を備えた町、これからの町づくりにはこの視点が必要でしょう。―それには風土の持ち味、歴史を振りかえってみることも必要と思いますが。甲賀には埋もれた文化財が多くあります。しかし文化遺産を大切にするというのは、仏像に磨きをかけたり博物館を造って陳列することだけではないんです。温故知新―ふるきをたずねて新しきを知る、つまり昔の人々が一生懸命に残してきた文化遺産を通して、歴史的視点を持つということなんです。甲賀はかつて情報の最先端が入ってくる宿場機能を持っていました。それが明治の鉄道敷設以後、文明開化にとり残されて沿線地域との格差が開き、凋落していった。この歴史に学び、今後は来るべき技術社会にどう対応するべきかのポイントを定めていく、そして明治以来二代、三代にわたって苦しんだ轍を二度と踏まぬようにする、これが歴史を生かし先人の遺産を生かすということではないかと思います。
―甲賀の特性を生かすには、具体的にはどんな方策があるでしょうか。
次の時代が必要とする機能を持つということです。例えば工場誘致でもただ二次産業が入れば良いのでなく、次の時代が必要とする工場の誘致という、外部のチエを導入し、チャンネルを持つことによる経済活性化も一つの方法でしょう。九州がICアイランドとしてクローズアップされるようになったのは、単に大きな産業が入って来たというよりは、地元が先端産業への転換をいち早く行ったということです。立地条件云々はその上で出てきたことです。甲賀だって大阪空港へは一時間だし、野洲川のきれいな水、奥へ行けば空気の良い所は幾らでもある。要は地元に、新しいベンチャーの時代にチャレンジしていく気風があるかということなんです。甲賀は閉鎖的だといわれますが、金も土地も出さずに、誰かが来てタナボタ式に、地域も潤す産業を興してくれないかと待っているのではアツカマシイ、誰もやって来ない。時代の潮流を見ながら人を信頼して、いっしょに賭けようというのが投資であり、そういうチャネーラーがいないと、この問題は発展しないと思います。地場産業としては、甲賀には伝統的なものが幾つかあります。まず製薬。ケミカルな新薬の歪みが漢方薬見直しのうねりとなってきている今日、甲賀本来の生薬の歴史と家庭配置薬という独特の商法を、どう生かし、どんなサービスと組合わせて売っていくか。そして焼きものと茶。文化の時代というのは、新しい贅沢を提案する社会のことです。贅沢とは値段の高いことではなく、暮らしの中のゆとりのことなんです。甲賀ではどういう人達に、どんな贅沢を提案できるか。信楽の焼きものの美しさ、可愛いらしさ、他にはない意外性とは何か、それが現代の暮らしにどう貢献できるか、そういったことをもっとつきつめてみる必要があります。またニューセラミックに対する着眼も当然あってしかるべきでしょうね。十年一日ですね。土山の茶を売るなら、近江茶をサービスして、その美味しさを知ってもらう店や、茶屋を開放して一般の人々に茶の湯の贅沢を提供するというような発想があってもいいのではないだろうか。日本的なものに回帰するいまはチャンスです。
―時代に即した発想の転換をしていかねばならないことがよく分かりました。
八十年代は女性の時代、つまり感性の社会なんです。金にならんことはやらないという我利我利なケチな考えから脱却し、商人の都合を客に押しつけるのでなく、豊かな感性で客の、時代の欲求にもっと関心を傾ける。そしてハイヒューマンタッチ、つまり優しさ、客に対する気くばり、気ばしりがあってこそ、地場産業も活性化されていくということです。今はマスプロ神話が崩壊して多様化、多元化の時代多種少量の時代でもあります。私は“小さな巨人”とういうのですが、小回りの利く零細企業の方が強い。健康にしろ、ゆとりにしろ、楽しみにしろ、各々の専門において客の個別の要求に積極的に提案できる店が育つでしょうね。そこからマーケティングも生まれてくるんです。小さい方が有利だという発想の展開―これも情報から生まれる知恵です。情報とはインテリジェンスなんです。情報をどう受けとめ、自分の仕事や生活にどう生かしていくか、それによって情報の価値は大きく変わってきます。
―甲賀に新しい産業を興すノウハウをお聞かせください。
塾のような草の根的なものでもよい、そういうインテリジェンスを磨く場、知的活性化の場を甲賀にも望みたいですね。たとえば甲賀では昔から細々とハト麦茶を作っています。そして今は、静かなブームです。そういう情報をいち早くキャッチしてハード(製法)技術、ソフト(飲み方)技術、ヒューマンウェア(販売ルートとネットワーク)技術を確立すれば、産業として興すことができるのではないか。この視点に立って一つ一つの産業を見直していけば、活性化のための切り口が多くみつかるはずです。高度情報化社会、高密技術社会、感性の社会―こうしたソフト社会に対応して、情報・技術を確立し、豊かな感性で時代の動きを把握する力をつけるシステムをつくる。そして誰が何といったって近江茶だ、甲賀の薬だ、信楽焼だ、甲賀の酒だというようなものを造り、甲賀からどんどん外へ向けて情報のアウトプット(発信)をしていく。そうなれば甲賀の産業自体が付加価値の高いものになっていくでしょうね。―そうすると、行政や産業人のリーダーとしての役割がますます重要になってくるようですが・・・・・。 |
| 県もまた、市町村の指導層に対して、強烈なインパクトを与えるような情報を、どんどんぶつけていくべきです。行政はとかく日々の問題処理にふりまわされ、明日の方針までいかないという傾向がありますが、明日を見ようとする者があってこそ、地域は活性化し町は発展するんです。 |
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58年2月3日地域フォーラム水口 |
たとえば新しい産業集積や商業集積・文化集積を町づくりのどの部分で機能させるかの青写真さえできていれば、例えば大型店進出に慌てずとも、ここで結集してショッピングセンターをつくろうとか、大型店をキーにして商店がリードできる導入をやろうとか、いろんな戦略がたてられます。行政に明日を見る目と、住民の痛みがわかる感性が欲しい。いま、高度技術社会の中で人々は不安や不満を抱き、心の安らぎ、精神的充足を求めています。産業家には自分がいま食えればいいという幼想的中流発想でなく、人々がどう生きようとしているのか、その自己実現の要求にこの産業ならどう応えられるか、そういういわばグローバルで慈善の心からのアイデアがあって欲しい。そして町づくりの基本理念の中に、こういう社会に対してハイヒューマンタッチなポイントをどこにおくか、という発想がなければならない。甲賀の現代認識をシビアにやればやるほど、産業の活性化にしても町づくりにしても、切り口をいくらでも見つけることができます。そういう意味でいうなら甲賀には可能性がいっぱいある。何をやってもいまより良くなる、今より悪くなることはないでしょう。そう考えると希望が湧いてきますね。―新しい町づくりには、住民と行政がますます一本化し、力を合わせて取り組んでいかねばならないようですね。甲賀の町づくりは、連合都市構想的理念をもって郡全体を考えるべきでしょうね。小さな町がそれぞれにうちにも病院が欲しい、学校を建設せよというような、行政の縄張り意識や地域エゴをぶつけ合っていては結局、何もできない、どこにも何も得られないことになります。チンケな村意識から脱却して、この部分はこの町でという役割分担をし、各々の町の良さを持ち寄って、百花斉放、各々の花が開いて全体としての花壇の美しさをどうつくるか、という視点に立つべきです。かつての甲賀忍者や野洲川管理に先袒は村や支配のカキネの枠を越えていた。その伝統から学んで新しいルールを決め、ルールづくりには利益代表ではなく、片足を地域に踏まえながら、片足は地域から離れられる人がいいでしょうね。ここで山林対策、農業や地場産業の根本的見直しをやれば、この地域ならこの条件があるからこの隙間を埋めようという話になってきます。この際行政(県事務所)の役割はコーディネーターでしょうね。テーマをきめ、どんな切り口でテーマに迫るか作戦を立て、命令ではなくみんなに考えさせていく。そしてシュミレーションを設定して、命令ではなくみんなに考えさせていく。そしてシュミレーションを設定して、こういう場合にはこういうマイナス要素が起る可能性があるとか、あらゆる条件を出して検討に時間をかける必要があります。
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