アッシュ編

首の短いキリンのアシュと仲間たち


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シボー編

アッシュの仲間シボー

これは、たくさんの動物たちが暮らすアフリカでの話。

これは、アフリカのサバンナに住んでいるキリンのシボーの話。


 オレの名前はシボー、このサバンナで仲間と一緒に暮らしている。
キリンの仲間の中でも、オレは若くて男らしくてケンカも強い、自分でいうのもだけどけっこうモテるほうだ。

オレには親がいない。父さんはオレが生まれる前に、ライオンに襲われたらしい。
母さんは、もともと体が弱くてオレを産んでしばらくして死んだ・・・。

 そしてオレのとなりで、木の葉をおいしそうにムシャムシャ食べている首の短いキリン、こいつの名前はアッシュ。
アッシュはキリンのくせに首が短い。なぜだかわからないが生まれつきだ。

「ねー、シボー、その高いところにある葉っぱ、とってくれない?」
アッシュが上目遣いでシボーに言った。

「おいっアッシュ!!何回言えばわかるんだ!歳の上の仲間にお願いをするときは、敬語で話せっていつも言ってるだろ!!そんなんじゃ お前、いつかだれも助けてくれなくなるぞ!」

「ごめん・・・なさーい。えっと・・・その葉っぱとってもらえませんか?」

「ったく、しょーがねーなぁ、ほらよ。」
シボーは、葉を枝ごと折ってアッシュの足元に落とした。

「ありがとう!!」   アッシュのうれしそうな顔・・・。


 オレはアッシュより2つ年上だ。
別に兄弟なわけじゃない。ただの仲間だ。
こいつは首は短いし、とろいし、いつもヘラヘラしてるし、ホントにどうしようもないヤツだ。

 そんなアッシュをなんでオレが世話してるかって?
それは、アッシュが生まれる前の話・・・・・・・・・。


母さんが死んでオレがひとりになったとき、オレにやさしくしてくれたのは、アッシュの両親だった。
2人には、まだ子供がいなかった。だからオレを自分の息子のように可愛がってくれたんだ。

「シボー、私たちを本当の父さんと母さんだと思って甘えていいんだよ」
「ありがとう、義父さん、義母さん・・・」

 けど、オレは心の中で思ってた。「このふたりは本当の親じゃない、血がつながってないんだから。
親なんていらない、仲間なんて必要ない、だれの助けもいらない。
今はまだ小さいから、ひとりでいたら危険だ。体が大きくなったら、すぐに群れから離れよう。
オレはひとりでだって生きていけるんだ。」って。

なぜだかだれも信用できなかったんだ。

そんなオレにふたりはとてもやさしかった。生きるためのいろいろなことを教えてくれた。
本気で誉めてくれた、叱ってくれた。朝も夜もたくさん話をしてくれた。
義母さんは花が好きだということ、義父さんはプロポーズの時たくさんの花を摘んできたけど、
途中で枯らしてしまったこと、その花をみて義母さんはうれしくて大泣きしたこと・・・たくさん教えてくれた。

最初は警戒していたオレも、いつからか心をひらきはじめていた。

そんなとき、アッシュがこの世に生まれてきたんだ。

「シボー、あなたも今日から、お兄さんよ。」

そう言った義母さんは、産まれたばかりのアッシュをオレにみせた。

「うれしいよ義母さん・・・」

オレは喜ぶフリをした。産まれたばかりのオレの弟・・・アッシュは、首が短かった。
その首を見て、まわりの仲間たちはヒソヒソと内緒話をしていた。
そんなことお構いナシにふたりは本当にうれしそうにアッシュを抱きしめていた。

オレは・・・、オレにはそんなこと どうだってよかった。このふたりの本当の子供の首が短かろうがオレにはもう関係ない。
まわりがなんて言おうと、このふたりに本当の子供が産まれてきたことにかわりはないんだ。

・・・・・オレの役目はおわった・・・・・・


アッシュはオレを本当の兄のように慕い、いつも後ろからついてきた。
ときどきまわりの仲間たちは首の短いアッシュをからかい、意地悪をした。オレはそれを止めなかった。

最初から信じてなんかいなかったんだ、ただほんのちょっとだけ アッシュの両親に心を許してしまっていただけ・・・
義父さんと義母さんはいまでもアッシュと同じようにオレを可愛がってくれる、
でも 本当は違うんだろう?自分たちの子供がいればそれでいいんだろう?
オレはもう必要ない、オレだってもう仲間や偽の家族なんて必要ない。ひとりのほうが気楽でいい。
アッシュもまとわりついてきてジャマだ、ひとりになりたい・・・仲間なんていらない・・・親なんていらない・・・だれかの助けなんて必要ない。



  ある日、アッシュがオレに聞いてきた。

「ねー シボー、シボーはキレイなお花が咲いている場所 知ってる?」

「花?なんだよ急に。お前 花なんてなんに使うんだよ」

「あのね・・・母さん、お花が好きなんだって。知ってた?でもこの辺にはキレイなお花が咲いてないでしょ?だからボクが探して摘んできてあげようと思って!きっと母さんすごく喜ぶよ! あ!この話はみんなには内緒だよ、びっくりさせたいからさ☆ボクとシボーだけの秘密だからね!」

「あぁ・・・」
義母さんが花が好きだってことぐらい オレはとっくに知ってたさ、おまえが生まれるずっと前から・・・

「・・・そうかキレイな花が咲いてる場所か、そうだな たしかあの丘を越えてもうひとつ先の丘を越えたところに水飲み場があって、そこにはキレイな花がたくさん咲いてたぜ。みんながあまり行かない場所だから知ってるヤツも少ないけどな。」

「ホントに!? ありがとうシボー!ボク今からそこに行って来るよ!日が暮れる前には戻ってくるから みんなには内緒にしておいてね!」

 アッシュは瞳を輝かせ、嬉しそうに丘のほうへと走っていった

「あぁ・・・気をつけてなアッシュ、おまえが摘んでくる花 きっと義母さんも喜ぶだろうな・・・」

バカなヤツ・・・すぐになんでも信じるんだ。オレがそんなところに行ったことあるわけないだろう?おまえはいつもオレについてきてたクセに、考えればわかるじゃないか。どうせすぐに泣きながら帰ってくるだろう、あいつはひとりじゃ何もできないんだから。



 日暮れ時になっても、アッシュは帰ってこなかった。
「ねぇシボー あなたアッシュがどこにいるか知らない?」
「・・・さぁ、オレも昼過ぎぐらいから すがたをみてないよ、義母さん・・・」

「そう・・・あの子ったらいったいどこに行ったのかしら、もうすぐ日が暮れるっていうのに、ちょっと父さんと近くを探してくるから あなたは群れから離れないでね、シボー」

「わかったよ、義母さんたちも気をつけてね・・・」

どうせアッシュもふたりもすぐに戻ってくるだろう。アッシュは花がみつからず泣きながら、ふたりは最初は怒っていても自分の子が無事に帰ってきたことにホッとして 最後はしあわせな家族のできあがりだ。


「おいシボー、おまえの父ちゃんたち なんか慌ててむこうの丘のほうへ走っていったぞ。アッシュがあっちに走っていったのをみたヤツがいてさ。」

オレと同い年の仲間が話しかけてきた。

「へー・・・なんでそんなに慌てていったんだろうな、よっぽど自分の子が可愛いんだな。」

「まったく、お前ってヤツはホントに いつもそうやって捻くれた言い方するよなー、まぁオレはお前がホントはいいヤツなのは知ってるけどさ。 そうそう、どうやら、あっちの丘の先は最近夜になるとハイエナたちがうろついて危険らしいんだ。だから心配して行ったみたいだぞ。大人のキリンなら平気だろうけど、アッシュのヤツ小さいからなぁ・・・もしかしたらもしかしちゃうかもしれないしなぁ・・・なんちゃって」

「え・・・」

心臓が止まるかと思った。
そんな危険な場所だったのか?オレが意地悪で適当に教えた場所は・・・
あいつ トロいから本気で危ないかもしれない・・・


「お、おいっ!シボー!待てよ! 冗談だって、お前の父ちゃんたちが探しに行ってるからきっとアッシュも無事だよ。」

オレは丘の先をめざして走った。
イヤな胸騒ぎがした・・・。


アッシュがハイエナに囲まれ おびえて泣いている姿、義父さんと義母さんが本気で心配して息を切らして探しまわってる姿が何度もオレの頭をよぎった。

あいつとは別に兄弟なんかじゃない、あのふたりだって本当の親じゃない、けど・・・


ひとつめの丘を登りきったところでかすかに声が聞こえた。

「うぅ・・・・・・」 今にも消えてなくなりそうなとてもつらそうな声・・・

「おい!アッシュか?どこだ、どこにいるんだ?大丈夫か?」

日も暮れはじめ 薄暗い世界で声だけを頼りにオレは丘をくだった。
小さな雑木林をかきわけて前にすすんでいると、
「・・・うぅ・・・シボー、シボーなのか?」
その聞きなれた声に一瞬耳を疑った。声のしたほうへ近寄っていく・・・

そこに、義父さんと義母さんが倒れていた。傷だらけのふたりをみてまた 心臓が止まりそうになった。

「ど、どうして・・・義父さんたちがこんなことに・・・どうして・・・」

「あぁ・・・シボー心配して探しにきてくれたのね やさしい子・・・ごめんね 母さんたらおっちょこちょいだから・・・アッシュを探すのに夢中で、つまづいてあの岩の上から転げ落ちて足を折ってしまったの・・・そしたらハイエナたちに囲まれてしまってね 父さんが私を守ってくれたのよ・・」
 苦しそうな息づかいで義母さんが言った。

「う・・・母さんは昔からドジだからなぁ・・・ははっ・・・父さんもなんとかハイエナを追っ払ったものの このザマだよ・・・でも最期にお前に会えてよかった・・・なぁ母さん・・・ 」

「そ、そんな・・・最期なんていわないでよ! ・・・ご、ごめんなさい オレが全部悪いんだ、アッシュがこんなところにひとりで来ようとしたのもオレが意地悪してデタラメなこと教えたから・・・そのせいで義父さんも義母さんもこんな目に・・・あぁ、だれか・・・早く助けを呼ばなきゃ」
オレは自分でもびっくりするくらい気が動揺していた。

「だ、だれかっ!助けてっ!みんな早く・・・早く助けにきてくれよっ!!」
 今思えば助けなんて来るわけもない、大声で叫んでも聞こえる訳がなかった。仲間がいるのはこの丘のもっともっと先なのだから・・・
それでもオレは 泣きながら何度も大声で助けを求めた。

「シボー・・・お前やっと 助けを求めることができたな・・・よかった・・・父さんたち心配してたんだ お前はいつもひとりでなんでも抱え込んでしまうだろう?・・・つらい時や困ったときは仲間に頼ってもいいんだよ・・・」
「うぅ・・・そうよシボー それに母さんたちがこうなったのは、あなたのせいなんかじゃないわ・・・気にしちゃダメ」


「うっうっ・・・、オレのせいだよ。オレのせいで また 父さんと母さんが死んじゃう・・・
 本当の父さんは オレがお腹の中にいて動けない母さんをかばってライオンに襲われて死んだんだ、母さんだってオレを産んだりしなきゃ体を壊さずに生きていられたのに・・・うっうっ。またオレのせいで・・・オレがいるとみんな不幸になるんだ・・・オレなんか生まれてこなければよかったのに、みんなオレのせいで・・・ごめんなさい・・・ほんとうに・・・」


「シボー・・・」
「泣かないでシボー、あなたそんなふうにずっと自分を追いつめて 苦しんで暮らしていたのね・・・だからだれにも頼らず 助けをもとめずに・・・可哀そうなシボー・・・だれもあなたのせいで死んだりなんかしてないわ・・・あなたが謝ることなんてなにもないのよ・・・」

「シボー・・・父さんたちはお前と出逢えて幸せだったよ、お前の本当の両親にも感謝してる・・・父さんも母さんもアッシュも みんなお前のことが大好きなんだよ。」


「うっうっ、義父さん・・・義母さん・・・」

「・・・なぁシボー、ひとつだけ約束してくれないか・・・アッシュのこと・・・これからさき あの子に何かあったら できる範囲でいい・・・助けてやってほしいんだ・・・わたしたちがいなくなったらアッシュはきっとお前のことを頼りにするだろう・・・あの子がもう少し大人になるまで どうか傍にいてやってくれ・・・」

「義父さん・・・わかった、アッシュは必ずオレが守るから 約束するよ」


  すこしして、カサカサ・・・と草をかきわけてこっちに近づいてくる物音がした。

「おーい、だれかいるのー?」


この声・・・
「アッシュ!おいっアッシュなのか?! オレだよ、シボーだ!アッシュはやくこっちへ来い!」

「え?シボーなのー? じゃあ さっき助けてって叫んでたのも?声が聞こえたから心配してきてみたんだけど・・・え、父さん 母さん?どうして…そんな・・ねぇ何があったのシボー!!」

アッシュはいつも以上に甲高い声でオレに問いただした。アッシュは混乱していた、無理もない・・・オレは・・何も答えられず下を向いていた。

「落ち着いてアッシュ・・・ 母さんたちあなたを探しにきたのよ でも途中でハイエナに襲われてしまったの・・・それでシボーが・・・ 」


「あっ!母さん違うんだ!シボーは悪くないんだ! ボクがシボーに内緒にしてって言ったから・・・だからなんだっ、悪いのはボクだよ ごめんなさいっ・・・」

「アッシュ おまえ・・・」
両親が今にも命尽きようとしている現場で 今起きている現実に混乱しているはずなのに、アッシュはオレが両親に怒られると思ったのだろう 咄嗟にオレをかばった・・・親が傷ついた原因がオレのついたウソのせいだと知らずに おまえはオレに騙されていたとも知らずに・・・。

オレは本当のことを言おうと、恐る恐るアッシュの顔を覗いた

「アッシュ?おまえそれ・・・何くわえてるんだ・・・?」

「え? あぁ!これ、母さんにと思って! シボー、ボクみつけたよっ!シボーの言ってた通りあの丘の先で!ほらっ、キレイなお花摘んできたよ!母さん、これ・・・」

 アッシュは・・・アッシュはキレイな赤い花を一本くわえていた。義母さんは閉じかけた眼でその花をじっとみつめた。

「まぁ・・・キレイなお花ね、アッシュ・・・あなたこれをとりに行ってたの? ありがとう・・・母さんすごくうれしい・・・大事にするね・・・」

「そうだよ母さん、シボーが場所を教えてくれたんだっ! 本当にたくさんお花が咲いていてねっ、すごくキレイな場所だったんだ!ボク、今度は母さんと父さんとシボーとみんでな一緒に来たいなって・・・そう思ったんだよ・・・ 」

「そう・・・よかったわね アッシュ・・・とてもステキな場所をシボーが教えてくれたのね・・・」

オレは ずっと泣いていた。アッシュの前で泣いたことなんか今まで一度もなかった。アッシュはオレと両親を交互にみたあと、しばらく体を震わせて我慢していたが、堪え切れずに わんわんと大きな声で泣いた。

最期に義父さんがオレたちに言った。

「・・・大丈夫・・・おまえたちは強い子だ・・・心の強い子だよ・・・だから父さんたちは何にも心配してないんだ・・・おまえたちは父さんと母さんの自慢の息子たちだよ かわいくて仕方がない・・・帰りもちゃんと母さんとふたりで見守っているから・・・安心して・・・仲間のもとに・・・もどりなさい・・・」 


義父さんと義母さんは眠るように 死んだ。

オレとアッシュはしばらくのあいだ 眠ったふたりをみて泣いた。 ふたりとも会話もなく 声もださずに泣いた。
 辺りは すっかり暗く 聞こえるのは風に揺れる木の葉の音・・・小鳥たちが夜空へと羽ばたき、時折 獣の遠吠えが聞こえた


しばらくして、オレとアッシュは仲間のもとにもどった。仲間たちはオレたちのことを心配して辺りをさがしてくれていた。オレとアッシュは何も言わなかったけれど、仲間たちは 一晩中眠らずに一緒にいてくれた。 何も聞かず 何も言わず 一緒に涙を流してくれたんだ・・・。



 ・・・あれから何年経っただろう、オレは今でもアッシュと仲間たちと暮らしている。
アッシュは相変わらずドンくさいし、オレの後ばっかりついてくる。 あいつとは別に兄弟なんかじゃない けど・・・

「おーいっ!アッシュ、もう日が暮れるぞ!まったくホントにトロイヤツだなー、夜になって敵が近づいてきてもおまえひとりじゃわかんねーだろ!ホントオレがいないと何にもできないグズなんだからっ!」

・・・けど あの日、オレは義父さんたちと約束したんだ。これからはオレがアッシュのことを守っていくってさ・・・。

オレの名前はシボー、このサバンナで仲間と一緒に暮らしている。今も...そしてこれからもずっと...。