「Foreclosure」
扉につけた鈴が物憂げに鳴いた。女将は帳簿を検める手を止めて顔を上げた。砂埃を背に母娘連れが立っている。そろいの栗毛が陽光をはじいて、女将の目をしばたかせた。幼い娘が母親の手を引くようにして店に入ってくる。女将はカウンターに移動して、客が質草を広げるのを待った。だが母親は、もっともらしく背負った荷包みをおろそうとはせず、俯いて肩を震わせるばかりである。
表には質屋の看板を掲げてはいるが、扱うのは物だけではない。近隣の農民が年頃の娘を携えてくることも多かった。その口らしい、と悟って女将は娘に目を遣る。
ダーツを多くとった衣服は装飾こそないものの身の丈に合わせてある。大きな双眸は吸い込まれるような青だ。すぼめたような小さな唇は上品さを醸し出しているし、癖のない栗毛も栄養を与えれば錦糸の艶を放つだろう。容姿は申し分ない。が、娼館に売るにはいかんせん実が青い。
さて、と思案顔を向けると、母親はまだぐずぐず泣いていた。
「言っておくけど、茶番を演じても値は上がらないよ」
「茶番なんて! この子はまだこんなに小さいんですよ、それが……っ」
「じゃあ辞めておくかい」
啜り泣きが悲鳴じみる。娘がそっと首を振った。
「いいのよ、母さん」
「だって、お前」
「どうせ、あと三年もしたら働くようになるのよ。少し早いだけ。ねえ女将さん、そうでしょう」
海の色で見据えられて、女将は肩をすくめた。
「そのとおりだ。娘さんの方がよっぽどしっかりしてるじゃないか。さ、泣くのはおよし。悪いようにはしないから」
金貨を一枚差し出す。次の収穫までは食いつなげられるはずだ。
母親は一瞬眉をひそめた。大金には違いないが子供の値段にふさわしくはないと思うのだろう、すぐには手を出さなかった。瞬きを繰り返し、落ち着かない眼差しを娘に向ける。娘の方は、少し潤んだ瞳でまっすぐに女将を見つめている。やれやれ、本当にしっかりしている、女将は口の端をゆがませて、銀の粒を二つ足した。しわいやの女将にとっては精一杯の譲歩だ。娘が、つ、と身を引いて女将のそばに寄った。それを合図に、母親は金をもぎ取るようにつかみ、後退りながら店を出て行った。
花弁のような唇がかすかに動く。
娘の零した雫を、女将は、見なかったことにした。
(終)
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