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通り雨
なんだか風が湿っぽいな。ふとそう思った途端、するすると青空を巻き込んであっという間に空を暗くした雨雲は、ついで予測していなかった突然の雨を降らせた。 ぽつ、ぽつと、始めはきちんとしまっていない蛇口から水滴が滴るように落ちてきた雫は、ある一瞬を過ぎて、急にざあっと大降りになる。地面を打ち始めた突然の激しい雨に、グランドでキャッチボールをしていた豪たちは慌てて部室に駆け込んだ。 「ああもう! びっしょびしょじゃ」 袖の端を絞りながら、沢口が雨のばか、と呟いた。グローブだけは濡らさまいという思いからか、腹にしっかりと抱え込んだそれは乾いたままできっちり守られていたが、沢口自身はびしょ濡れになっている。その隣で東谷が同じようにしながら笑った。 「ええじゃねえか、結構気持ちよかったし。それに、何とかの滴るいい男、ってな」 「ま、沢口クンは滴っても何割増しにもなっとらんけど?」 横から吉貞が口を出す。そばかすの浮いた顔に彼独特のにやりとする笑みを浮かべて、 「お前と違って、おれってばほんと水の滴る――」 いい男、と皆まで言えずに吉貞は息を呑み込んだ。 どうしたんじゃろうと訝しんで、豪が目を見開いて硬直している吉貞の視線の先をたどって振り返れば、果たしてそこに豪の相棒にして我らが新田東野球部エース・原田巧その人が、カバンを肩に引っかけ、肩で息をしながら扉に手を掛けて立っていた。着替えるために部室へ来る途中だったのだろう、まだ制服のままだ。どうやら突然の雨に降られて駆け込んできたらしい。ああ何だお前らもいたのかと四人を見やって巧は呟き、カバンからタオルを取り出してがしがしと頭を拭き始めた。 「……」 雨で濡れた前髪から透明な雫がはらはらとこぼれ、そのせいで伏し目がちになっている瞳は、長い睫の奥に隠されて色が見えない。体に張り付いて気持ち悪い、とボタンを一つ二つ外したシャツはちょうど、鎖骨が見えるか見えないかの際どいラインではだけ。そのシャツの前を押さえている指は細長く、しなやかで何というかその、非常に艶めかしい。 「……何」 じいっと見つめてくる男連中四人に、巧が不機嫌そうに眉を寄せる。他人に自分の身体に触れられるのは悪寒が走るが、じろじろと嘗め回すように凝視されるのも不快だ。 イヤ、と一番最初に息を吹き返した吉貞が、妙に感心した調子で呟いた。 「お前、お色気ムンムンしすぎ」 「……は?」 吉貞の隣でぶんぶん首を縦に振る東谷と沢口、何やら妙な顔をして目を逸らしている豪、何故か心底感心した様子の吉貞を順番に見やって、巧はなんなんだこいつら、といっそう首を傾げる。 盛大にクエスチョンマークを飛ばしている巧を余所に、期せずして四人の意見は、『水の滴るいい男』の代名詞は原田巧で決まりだと、ぴったり一致していたとか。そんな六月の午後。 |