風待月



 しとしとと地面に浸み入るように降る雨は、すでに二晩降り続いているというのに未だ止む気配がなかった。淡空色の紫陽花に露の玉が光り、薄暗い靄の中に青葉が浮かび上がっている。
 あんまりすきじゃないな、と呟いたのは、空を見上げたカラスだった。

「泣いてるみたいだね」

 静かに降り続ける雨は、堪えきれない哀しさや寂しさが溢れた涙のようだ。空に漂う薄雲は、そんな心の陰りだろうか。

「こんな雨よりも、地面に打ち付けるように激しく降って、それから嘘みたいにカラッと晴れちゃう雨のほうが、すきだなあ」

 突然やって来て、せっかく咲いた花さえ撒き散らして突き抜けていく、そういう激しさのほうがいい。堪えきれなくなって零すような涙よりもずっと、気持ちがいい。
 嵐のような俄雨の去った後、切れた薄い雲間から覗く太陽は、眩しい陽光を降り注いで瑞々しい青葉に命を吹き込むだろう。雨上がりの景色の美しさには、精練された清らかさがある。

「風が恋しいよ」

 雨の日は翼が重くってさ。人間であれば、「肩が凝っちゃってさ」とでも言うように、濡れた漆黒の翼をすくめてカラスはこぼす。
 さわやかな風に乗って、羽を広げて風を感じたい。風に身を委ねる心地よさは、翼を持つものだけの特権だから。
 明日は空が、晴れるといい。
 空を振り仰いでそうひとりごちたカラスは、ふるりと身を震わせた。
 



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