| ちょっとだけ碑文解読(1)−Try to Read Short Inscriptions | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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1. トトメス3世王墓の壁画より (11/12/2004)
「メンヘペルラー(=トトメス3世)は彼の母イシス女神の乳を吸う。」 セネクエフは反復・習慣を表す未完了セジェムエフ形。ここでは擬人化された樹の女神はイシス女神と同一視されています。樹の女神は来世で再生したばかりの王に乳を与えて、養っています。一般にヌート女神やハトホル女神とも同一視されるこの樹の女神は、死者たちに食べ物と冷たい水を与えて養うという役割を持っています。 セネクは「乳を吸う、乳を吸わせる」、エフは接尾代名詞3人称単数「彼は、彼の」、ムートは「母」、アセトは「イシス女神」です。 |
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2. アメンヘテプ2世の石棺より (11/12/2004)
「ネフテュス女神によって話される言葉 : (私は)オシリス(となりし)王、アーヘペルーラー、声正しき者の頭の後ろを囲んだ。 彼のこれらの四肢は疲れない(だろう)。オシリス(となりし)王、アメンヘテプー・ネチェルへカーイウヌー、声正しき者。」 これは石棺の頭部の側壁に必ず彫られる碑文です。死者の頭部にはネフテュス女神がひざまづき、足元にはイシス女神がひざまづいて、セト神によって殺されたオシリス神を生き返らせる魔法をかけたことに由来します。アーヘペルラーはアメンヘテプ2世の即位名、アメンヘテプー・ネチェルへカーイウヌーは同王の誕生名です。ここではアメンヘテプ2世はオシリス神と同一視されています。ぺヒェルエヌイーはセジェムエヌエフ形で完了した行為を表します。一人称の主語イーは省略されています。左側の碑文のエヌゲヒーはネンガフ、すなわち否定辞ネン+叙想法と読まれます。否定辞ネン+叙想法は未来の行為の否定を表します。イプテンは古い指示詞です。 ジェドメドゥーは登場人物の話す言葉や呪文を導き、「話される言葉」を意味します。インは行為者を導く前置詞で、「〜によって」を意味します。ネベトフートは「ネフテュス女神」、ぺヒェルは「囲む」、ハーは前置詞「〜の後ろに」、テプは「頭」、ウシルは「オシリス神」、ネスートは「王」、マアーヘルーは「声正しき者」と訳して、オシリス神の法廷で正義の人とされたことを意味します。ネンは否定辞、ガーフは「疲れる、生気がなくなる」、アウトは「四肢」、イプテンは指示詞「これらの」です。 ちなみにシェン・リングは「永遠の時」を表し、女神が座っている黄金のサインは「不滅」を表します。このことは王が死後神々と同様に永遠不滅の存在になることを意味しています。 |
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3. ネフェレトイリ王妃の墓壁画より (17/12/2004)
「墓地におけるマートの支配者に衣服を捧げること」 これはネフェレトイリ王妃がプタハ神に麻布の衣服を捧げる場面に記された碑文です。王妃が手に持っている麻布の衣服はヒエログリフのサイン、S27で表されています。このサインは布の端の房を象ったものです。碑文ではメンヘト「衣服」の限定詞にS27とV6の組み合わせが使われています。V6は麻布を表します。麻布はミイラを包む屍衣として、また神像に着用させる衣服として使用されました。 レディトはレディー「与える」の不定詞で、ここでは「捧げる」という意味で使われています。エヌは与格「〜に」を表す前置詞です。ネブマート「マートの支配者」とはプタハ神のことです。マートとは宇宙の秩序のことです。エムは場所を表す前置詞です。タージェセルは直訳すると「神聖な土地」で、「墓地」を指しています。 |
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4. 神官アメンヘテプの葬祭用パピルス(P. Berlin 3005)より (30/12/2004)
「オシリス(となりし)神々の王、アメン・ラー神の神の父、カルナック神殿の祭壇の上級ウアブ神官(中略)に 彼(=オシリス神)が供物、食べ物、あらゆるよき清きものを与えますように。」 これは第21王朝の神官アメンヘテプの「冥界の書(イミドゥアト)」の最初のページに描かれた、オシリス神を礼拝するアメンヘテプの場面に記された碑文です。左側にオシリス神が座っており、右側にアメンヘテプが向かい合って立っています。碑文の最初の行はアメンヘテプの方を向いており、二行目以下はオシリス神の方を向いています。最初の行だけ文字の向きが変わっているのは、オシリスからアメンヘテプに与えるという行為の方向と一致させるためです。 ディエフは叙想法。へテプーは「供物」、ジェファーウは「食べ物」、ヘトは「もの」、ネベトは形容詞ネブ「あらゆる」の女性形、ネフェレトはネフェル「よい」の女性形、ウアベトはウアブ「清い」の女性形です。エヌは与格「〜に」。次のウシルはオシリス神を指すのではなく、故人であることを意味しています。イトネチェルは神官職の一つ「神の父」。アメン・ラー神はテーベの主神。ネスートは「王」、ネチェルーはネチェル「神」の複数形。ネスートネチェルー「神々の王」はアメン・ラー神のエピセット。他の神々はアメン・ラー神の宮廷の臣下たちと考えられていました。ウアブは神官職の一つ。ヘリーは前置詞ヘルから作られたニスベ形容詞「〜の上にいる」。ウアブヘリーは「上級ウアブ神官」。ハーウトは「祭壇」。エムは場所を表す前置詞。イペトスートは「カルナック神殿」を表す地名です。 |
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| ←1 2→ | 5. アメンエムハト4世の飾り板(BM EA59194)より (9/1/2005)
「アトゥム神、ヘリオポリスの支配者 よき神、マアーヘルーラー 軟膏を捧げること」 これはビブロスで発見された高さ3cm×幅3cmの黄金の透かし彫りの飾り板です。 1と2の銘文は横の行に向かい合って記されています。これは二人が向かい合っているからです。1にはアトゥム神の名前とエピセットが記されています。アトゥム神はヘリオポリス神学における原初の神で、万物の創造主です。アトゥム神からシュー神とテフヌート女神が生まれ、彼らからゲブ神とヌート女神が生まれ、彼らからオシリス神、セト神、イシス女神、ネフテュス女神が生まれ、さらにオシリス神とイシス女神との間にホルス神が生まれました。王はこのホルス神であるとされています。2には王のエピセットと名前が記されています。ネチェルは「神」、ネフェルは「よい」。ネチェルネフェルは王のエピセット「よき神」を意味します。マアーヘルーラーは第12王朝アメンエムハト4世の即位名です。3の銘文は縦の行です。ディトはレディー「与える」の不定詞。メジェトは没薬(もつやく)から作られた軟膏です。通常メジェトの限定詞はW1が使われ、王が手に持っている壷と同じ形をしています。没薬はモツヤクジュ(ミルラ)から採取された樹脂で、燃やすと芳香を放ちます。古代では宗教儀式に欠かせない香料の一つでした。 |
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6. センウセレト3世のまぐさ石(Louvre E13983)より (20/1/2005)
「白いパンを捧げること。 彼の周囲にすべての保護とすべての生命(がある)。太陽神ラーのように永遠に生命、安定、統治権を与えられし(者)。 彼が永遠にすべての生者達のカーの先頭にいますように。 シャトケーキを捧げること。」 これはメダムード(ルクソールから北へ10km、ナイル東岸に位置する)で発見された第12王朝センウセレト3世のまぐさ石です。王がテーベ州の主神モント神に捧げものをしている場面がシンメトリーに彫られています。そのため1と2の碑文は左向き、3と4の碑文は右向きになっています。 セケルは「捧げる」を意味し、4の碑文のディトが不定詞なので、セケルも不定詞です。従って「捧げること」と訳します。エトヘジュは神に捧げられる「白いパン」です。サーは「保護」。アンフは「生命」。ネブは形容詞「すべての」。ハーは前置詞「〜の周囲に」。エフは接尾代名詞の三人称男性単数形で、ここではセンウセレト3世を指しています。ディはレディ「与える」の完了受動分詞。ジェデトは「安定」。ウアスは「統治権」。ミーは前置詞「〜のように」。ラーは神なので、尊敬の倒置によって、前置詞ミーよりも先に彫られています。ジェトは副詞「永遠に」。ウェンはウェネン「存在する」の叙想法。叙想法は願望を表すので、「存在しますように」と訳します。ヘントは前置詞「〜の先頭に」。カーウはカー「活力」の複数形。アンフーはアンフ「生者」の複数形。ディトはレディ「与える」の不定詞なので、「捧げること」と訳します。シャトはパンケーキの一種です。 |
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| 7. アメンエムハト3世のピラミディオン(JE35122)より (31/1/2005) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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「話される言葉 : 彼が天空を渡るとき彼が地平線の支配者を見るために、 上・下エジプト王、両国の支配者、ニーマートラーの視界を開け! 彼が太陽神ラーの息子、アメンエムハトを神、永遠の支配者、沈まないものとして現れさせますように。」 これはダハシュールで発見された第12王朝アメンエムハト3世のピラミッドのてっぺんの石、ピラミディオンに彫られている碑文です。碑文は右から左の方向に読みます。この碑文の上には翼を広げ、二匹のコブラに守られた日輪とマアーネフェルーラー「太陽神ラーの美を見る。」という縦書きの碑文が彫られています。この碑文の主語はアメンエムハト3世です。 ジェドメドゥー「話される言葉」は呪文を導く言葉です。ウェン「開く」は命令形です。ヘルは「顔、視界」。ネスートビーティーは「上・下エジプト王」。ネブターウィーは「両国(=エジプト)の支配者」。ニーマートラーはアメンエムハト3世の即位名です。マーエフはマアー「見る」の目的節の叙想法で、「彼が見るために」を意味します。ここで言う彼とはアメンエムハト3世のことです。ネブアヘト「地平線の支配者」とは太陽神ラーのことです。地平線とは太陽の昇る場所を指しています。ジャーエフヘレトは時の副詞節で、「彼が天空を渡る時」を意味します。ここで言う彼とはネブアヘトすなわち太陽神ラーのことです。ジャーはジャーイ「(船で)渡る」の未完了セジェムエフ形です。ヘレトは「天空」。ディーエフのディーは使役のレディーの叙想法で「彼が〜させますように。」を意味します。ここで言う彼とは太陽神ラーのことです。ハーはハーイ「現れる」の叙想法。サーラーは王の称号の一つで「太陽神ラーの息子」です。アメンエムハトはアメンエムハト3世の誕生名です。前置詞エムは「〜として」。ネチェルは「神」。ネブジェトは「永遠の支配者」。イテムーセク「沈まないもの」とは地平線より下に沈まずにいつも北の空に見えている周極星のことです。この碑文は死者が朝日を浴びて再生復活できると信じられていたことを示しています。 |
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| 1 2 3 4 | 8. アブ・シンベル大神殿ラムセス2世の玉座碑文より (18/2/2005)
「ハーピ神によって話される言葉 : (私は)あなたのために上・下エジプトと諸外国をあなたのサンダルの下に置いた。」 これは足元に王妃ネフェレトイリーの像が立っているラムセス2世の巨大座像の玉座側面に彫られている碑文です。頭上にロータスの冠を載せたハーピ神がラムセス2世の即位名を囲んだカルトゥーシュを載せたF36のサインに上エジプトを象徴するロータスと下エジプトを象徴するパピルスを結び付けて、ラムセス2世によって上・下エジプトが統一されていることを表現しています。このような場面をセマー・ターウィと呼びます。 ハーピ神とは氾濫季のナイル川を神格化した神で、乳房と腹が垂れた男神として表現されます。ハーピ神は肥沃と豊穣の神です。ちなみに、通常のナイル川はイテルー「川」と呼ばれ、神格化されていません。 ジェドメドゥー「話される言葉」はここではハーピ神の言葉を導いています。インは行為者を示す前置詞です。ディーエヌイーはレディー「置く」のセジェムエヌエフ形で、「置いた。」と完了の意味になります。エヌエックのエヌは与格を表す前置詞で、エックは二人称男性単数形の接尾代名詞「あなたの」。シェマーウは「上エジプト」、メフーは「下エジプト」、ハーセトは「外国」、ネブは「すべての」。ヒェルは「〜の下に」という意味の前置詞。チェベティーはチェベト「サンダル」の双数形。「あなたのサンダルの下に置いた。」とは「あなたの支配下に置いた。」という意味です。 カルトゥーシュの中のラムセス2世のカルトゥーシュはウセルマートラー・セテプエンラーと読みます。マートは玉座に座った女神として表され、ウセルは彼女が持つ笏杖として表されています。大工道具の手斧(ちょうな)のサインはセテプと読みます。この即位名の意味は「太陽神ラーのマートは強力である。ラー神が選んだ者」です。カルトゥーシュの上には二匹のコブラに守護された太陽円盤が彫られています。 |
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9. ネムティウィの墓碑(Berlin 1875)より (1/3/2005)
「あなたが西方に運ばれた時、 あなたのためにこれを作ったのは、あなたの息子チェムシーとイティーである。」 これはアフミーム(上エジプト第9州の都)出土と思われる第一中間期の墓碑(ステラ)です。石灰岩の上に彩色されています。ネムティウイはハトと呼ばれる王領地の監督官で、宮廷に出仕する際の腰布の上にヒョウの毛皮を着ています。 インは行為者を導く前置詞「〜によって」。サーは「息子」。エックは接尾代名詞二人称単数形で「あなたの」。二人の息子の名前は同じ行の中に並記されています。イルはイリー「作る」の完了能動分詞。エヌエックのエヌは与格のエヌで、「あなたのために」を意味します。ネンは指示詞「これ」で、この墓碑自体を指しています。この文は名詞主語強調構文なので、「〜したのは〜である。」と訳します。セクは時の副詞節を導く小辞。上が少し欠けているので、イセクと書かれていたかもしれません。チューは従属代名詞二人称単数形で、次の動詞の主語です。セジャティーはセジャー「運ぶ」の状態形で、他動詞なので「運ばれた」と受動態で訳します。エルは方向を示す前置詞「〜へ」。イメネトは「西方」。西方へ運ばれるというのはミイラ処理された遺体が墓に運ばれるということです。 |
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| 10. ハトシェプスト女王の赤い礼拝堂の石材の碑文(Luxor J.138)より (14/3/2005) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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| 「高貴な列柱室の前に
王御自身が父アメン・ラー神のために、 大いに琥珀金で覆われた、 二本の大きなオベリスクを建てた。 それらの高さは天空を突き抜け、 (それらは)日輪のように両国のために輝く。 原初の時以来誰も決して同じことをしたことはない。 彼女が永遠に「生命を与えられる者」を行うように。」 これはハトシェプスト女王がカルナック神殿の至聖所に建てた珪岩製の赤い礼拝堂に彫られた碑文です。第三ピュロンに再利用されているのが発見され、現在はカルナック神殿内の野外博物館に復元展示されています。 碑文は彼女が第4ピュロンと第5ピュロンとの間の列柱室にアメン・ラー神に二本のオベリスクを奉献したことを記念しています。二本のオベリスクのうち一方は現在も建っていますが、もう一方は折れて、近くに横たわっています。碑文は、宗教テクストによく見られるように、後退書法で記されているので、文字の向きとは逆の方向に読まれます。すなわち4、3、2、1ではなく、1、2、3、4の順番に読まれます。 サーハーはサーハー「建てる」の完了セジェムエフ形。スーはネスート「王」。ジェスエフは「彼自身」。エフはネスートを指しています。ハトシェプストは女性であるけれども、ここでは書記がジェスエス「彼女自身」に校正するのを忘れています。ネスートジェスエフは尊敬の倒置を受けています。この後の文では女性の代名詞が使われています。レリーフは男性のファラオとして表現されています。テヘヌーイはテヘン「オベリスク」の双数形。形容詞ウル「大きい」も双数形のウルウィーになっています。エヌは前置詞「〜のために」。イトエスのイトは「父」です。アメン・ラー神がハトシェプスト女王の父であると言われています。エムヘントは複合前置詞「〜の前に」。ワージトは「列柱室」。シェプセトは形容詞シェペス「高貴な」の女性形。バクーはバク「細工する、加工する」の状態形で、主語はもちろん二本のオベリスクです。エムは材料を表す前置詞「〜で」。ジャムは「琥珀金」。琥珀金で覆われたのは先端部分だけです。アアウウレトは副詞「大いに」。カーウは「高さ」。カーウセンのセンは三人称複数形の接尾代名詞で、二本のオベリスクを指しています。デムーはデム「突き抜く」の状態形。ヘレトは「天空」。セヘジュは「輝く」で、主語は二本のオベリスクなので、センが省略されていると思われます。エヌは前置詞「〜のために」。ターウィーは「両国」すなわち上・下エジプトです。ミーは前置詞「〜のように」。アテンは、アテン神ではなく、「日輪」です。次のエヌセプ+叙想法は「決して〜したことはない。」を意味します。イルトゥーがイリー「〜する、行う」の叙想法で、主語は非人称代名詞トゥーです。ミーテトは「同様なこと」。ジェルは前置詞「〜以来」。バートは「原初の時」。イルエスはイリーの叙想法で、「彼女は行う。」を意味します。ディーアンフは「生命を与えられる者」。ハトシェプストは女性なので、レディーの完了受動分詞ディーはディトと書かれるべきですが、男性形で書かれています。ジェトは副詞「永遠 に」です。 |
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| 11. テーベ52号墓ネヘトの墓壁画より (25/3/2005)
「よきものを見て、楽しむこと。 (沼沢地での)狩りの守護女神の友が セヘト女神の仕事(=水鳥の狩り)で余暇を過ごす(こと)。」 |
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| これは、古王国第5王朝ニアンフクヌムとクヌムヘテプの兄弟の墓以来、貴族の墓壁画に必ず見られる沼沢地での狩りの場面です。このような狩りの場面は本来儀式的なもので、墓主は王と同様秩序の回復者として描かれました。しかし、中王国以降、狩りは貴族のレクリエーションになり、生命の躍動感溢れる場面が墓壁に描かれるようになりました。ちなみに、ネヘトはアメンヘテプ3世時代のアメン神殿の時間観測官です。
セフメフイブは「楽しみ、楽しむ」。ここでは不定詞「楽しむこと」。マアーはマアー「見る」の不定詞。ブーネフェルは「よきもの」。イレトはイリー「〜する」の不定詞。セムは「暇つぶし」。エムは「〜で」を意味する前置詞。カートは「仕事」。セヘトは沼沢地を擬人化した女神。カートセヘトは「水鳥の狩り」。インは不定詞の主語を導く前置詞「〜によって」。セマーイは「友、仲間」。エヌは間接属格「〜の」。ネベトは「女主人」。ヘブは「狩り」。セマーイエヌネベトヘブはここでは墓主のネヘトを指します。 セヘト女神は古王国からローマ時代まで頻繁に沼沢地での狩りの場面に登場します。図像学上頭上にセヘトのサイン(M20)を載せています。水鳥や魚を捕る場面だけではなく、カバ狩りの場面にも登場します。特に第18王朝以後神殿の壁の下層に氾濫季のナイル川を神格化したハーピ神の行列の中で描かれます。そのため水鳥、魚、カバで表された敵の根絶と豊穣の両面を象徴しています。 |
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12. ハーエムワセトのウシャブティ(Louvre N461A)より (6/4/2005)
「王の息子、セム神官、ハーエムワセト(xa-m-wAst)、その名前を隠す者にネメス頭巾を与える者、シリウスをオリオンのそばに出現させる者」 これはセラペウムのアピス牛の棺に埋葬されていたウシャブティに彫られた碑文です。蛇紋石製、高さ20.8cm。2005年3月29日〜5月22日に名古屋市博物館で開催された「ルーヴル美術館所蔵古代エジプト展」に展示されました。 サーは「息子」。息子は通常ガチョウのサインで表されますが、第18王朝以降鳥の卵のサインでも表されます。ネスートは「王」。ここではM23のサインだけで表されています。ネスートは尊敬の倒置を受けて、サーよりも前に記されています。セムは「セム神官」。次にハーエムワセトの名前が記されています。ディーはレディー「与える」の完了能動分詞で「与える者」。ネメスは王が着用する縞模様の頭巾。エヌは与格を表す前置詞「〜に」。イメンはイメン「隠す」の完了能動分詞で「隠す者」。レンは「名前」。エフは三人称単数の接尾代名詞「彼の」。ここではイメンを指す再呼代名詞として使われています。セハーはセハー「出現させる」の完了能動分詞で「出現させる者」。セプデトはシリウス星。ナイル川の増水が始まるのに先立って日の出前に地平線から昇るので、古代エジプトでは重要な星でした。一般にイシス女神と同一視されます。エルゲスは複合前置詞で「〜のそばに」。サフはオリオン座。一般にオシリス神と同一視されます。シリウスとオリオン座は冬になると南の空に同じ方向に見えます。 ハーエムワセトはラムセス2世の第4王子でした。セム神官とは、本来王の葬儀を執り行う王の長子を示す称号でしたが、第3王朝以降、王の長子が果たすべき役目を代わりに果たす高官の官職称号となり、王の衣装を管理し、王に衣装を着させることに責任がありました。「その名前を隠す者」とは通常アメン神を指しますが、ここではそうではないかもしれません。「その名前を隠す者にネメス頭巾を与える者、シリウスをオリオンのそばに出現させる者」は、ハーエムワセトの重要な職務を表すエピセットと思われますが、具体的にどのような職務を表しているのかは不明です。ハーエムワセトはメンフィスのプタハ神官長であり、アピス牛の飼育とセラペウムでの埋葬に責任がありましたので、このウシャブティの発見場所を考えあわせると、アピス牛と関連がある職務かもしれません。つまり「その名前を隠す者」はアメン神ではなくアピス牛を指し、「ネメス頭巾を与える」とは、アピス牛が死んだ後新しいアピス牛を見つけだし、メンフィスのプタハ神殿で神として崇拝することかもしれません。「シリウスをオリオンのそばに出現させる者」は北天の星の信仰と関連があるのかもしれませんが、シリウスをアピス牛を産んだ雌牛、オリオンをアピス牛と考えることもできます。というのは、アピス牛を産んだ雌牛はイシス女神と、アピス牛はオシリス神とも同一視されたからです。つまり、「シリウスをオリオンのそばに出現させる」とは、アピス牛を産んだ雌牛をセラペウムの近くのイセウムに埋葬することかもしれません。しかし、これはあくまで私の推測です。 |
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| 13. トトメス1世のオベリスクより (19/4/2005)
中央の行
「神々の支配者(=アメン神)が彼(=トトメス1世)のために神聖なイシェドの樹にセド祭をおごそかに書き記した者 太陽神ラーの息子、ジェフーティーメスー・ハーミーラー」 これはカルナックのアメン神殿第4ピュロンの前に建てられたトトメス1世のオベリスクの南面の碑文です。本来二本一対で建っていましたが、もう一本は失われています。 セジェセルは「おごそかに書き記す」。ここではセジェムエヌエフ関係形になっているので、「〜した者」と訳します。エヌエフは与格のエヌ+接尾代名詞三人称男性単数形のエフで、「〜のために」と訳します。ネブは「支配者」。ネチェルーはネチェル「神」の複数形。ヘブセドは「セド祭」。ヘルは前置詞「〜の上に」。イシェドはヘリオポリスの聖なる樹で、セド祭の時に神々がその葉に王の名前を書き記します。シェペスは形容詞「神聖な」。サーラーは王号の一つで、「太陽神ラーの息子」を意味します。ジェフーティーメスー・ハーミーラーはトトメス1世の太陽神ラーの息子名です。 セド祭は王が国を統治するのに必要な体力と魔力を回復するための儀式で、一般に治世30年目に行われると言われています。しかし、トトメス1世の治世年数はマネトの「歴史」(ヨセフス版)によれば、12年9ヶ月なので、このオベリスクがトトメス1世のセド祭の時に建てられたとは言えません。むしろこの碑文は王の治世が永遠にアメン神に祝福されていることを表すエピセットであると考えられます。 イシェドの樹はコフィン・テクストの呪文335aで太陽神ラーの敵たちとの戦いの夜に大きなネコ(=太陽神ラー)によって裂かれると記されています。王権との密接な結びつきが始まったのは、トトメス1世の時代からです。イシェドの樹の葉に王の名前を書き記す神はたいていトート神ですが、筆記の女神セシャトやこの碑文の場合のようにアメン神など、他の神々であることもあります。来世思想ではイシェドの樹は永遠の地平線にあり、オシリス神のバー(魂)が住む場所とされています。 |
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| 14. トゥトアンフアメン王墓埋葬室碑文より (3/5/2005) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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「二人のマート女神がこの町(=冥界)の門を航行する夜の太陽船に乗っているこの神(=太陽神ラー)をひっぱり、 この神がそれらの上を牡羊として通過する(の章)」 これはトゥトアンフアメン王墓(王家の谷62号墓)の埋葬室西壁の空のサインの下に赤インクで記されている碑文です。「冥界の書(イミドゥアト)」の夜の第1時の一部分だけが描かれています。赤インクで記されているのは、この碑文が章のタイトルだからです。宗教テクストでは後退書法で記されるので、ここでは右から左に読むのではなく、左から右に読みます。しかも単純に逆方向に記されているのではなく、サインの配列がかなり入れ替えられています。 セチャー「引っ張る」は未完了関係形。マーティーはマートの双数形で「二人のマート女神」。ネチェルは「神」。ペンは指示詞「この」の男性単数形。エムは前置詞「〜の中に」。メスケテトは「夜の太陽船」。ちなみに朝の太陽船はマンジェトです。セケデトはセケディ「航行する」の完了能動分詞で、メスケテトを修飾しているので、女性形になっています。セケディエムで「〜を航行する」を意味します。アレリートは「門」。ネトは属格形容詞エヌ「〜の」の女性形。ニウトは「町」。テンは指示詞「この」の女性単数形。アペプはアピー「通過する」の未完了関係形。ヘルは前置詞「〜の上を」。センは三人称複数形の接尾代名詞で「それらの」。ただし何を指しているのかは不明です。エムは前置詞「〜として」。セルは「牡羊」。 日没とともに太陽神ラーは夜の船に乗り換えて冥界を旅します。夜の船は神々によって引き綱で引っ張られます。太陽神ラーの船が通過する時冥界の門が開き、ヒヒや冥界の神々の歓迎を受けます。太陽神ラーは冥界では牡羊の頭を持つ姿を取ります。これは死んでオシリスになっていることを表しています。太陽神は毎夜混沌を象徴する悪の大蛇アポピと戦い、勝利した後、ミイラと合体して、翌朝再生復活します。王墓にイミドゥアトが描かれるのは、トトメス3世以来のことですが、これは王が太陽神ラーのように再生復活することを願ってのことです。 |
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| 15. セティ1世王墓埋葬室碑文より (16/5/2005) | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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「イシス女神、神の母によって話される言葉 : (私は)あなたを生命、安定、統治権で満たした。(私は)太陽神ラーが現れる時あなたを守護した。」 これは王家の谷17号墓第19王朝二代目セティ1世王墓の埋葬室の壁の上部に記された碑文です。イシス女神の両腕は翼でもあります。これはオシリス神を生き返らせるためにネフテュス女神とともに翼で生命の風をオシリス神のミイラに送ったことに由来します。翼は同時に女神による守護を表します。 ジェドメドゥーは登場人物の話す言葉や呪文を導き、「話される言葉」を意味します。インは行為者を導く前置詞で、「〜によって」を意味します。アセトはイシス女神です。ムートは「母」。ネチェルは「神」。ここでは「神」とはイシス女神の息子ホルス神のことですが、同時にホルス神の化身である王を指しています。ヒェネム A エム Bは「BでAを満たす。」の意です。ヒェネムエヌイーは完了を表すセジェムエヌエフ形で、一人称の主語は省略されています。トゥーは二人称男性単数形の従属代名詞です。アンフは「生命」、ジェデトは「安定」、ウアスは「統治権」です。これらは王を祝福するために神々から与えられるものです。フーエヌイーはフーイ「守護する」の完了を表すセジェムエヌエフ形です。トゥーは二人称男性単数形の従属代名詞です。エムは前置詞「〜するとき」。ハアーはハーイ「現れる」の名詞的用法の関係形。ラーは太陽神ラーです。つまり日の出とともにイシス女神はネフテュス女神とともにオシリス神を生き返らせる魔法を使い、その結果王の身体は生命、安定、統治権で満たされたということです。来世に再生復活した王は太陽神ラーとともに宇宙を支配することになっています。 |
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