ちょっとだけ碑文解読(3)Try to Read Short Inscriptions   

(1) (2)もあります。                      西 村 洋 子

1 30. ジェフーティーの壷(Leiden L.VIII.20)より (6/11/2005)

「北方諸国の長官ジェフーティー、声正しき者の霊のためにパン、ビール、牛(の肉)、水鳥(の肉)(からなる)呼び出し供物」

これはライデン国立古遺物博物館所蔵のアラバスター製の壷で、高さ28.6cmです。

ペレトヘルー「呼び出し供物」は供物を捧げた人が故人の霊に墓から出てきて供物を受け取るようにと呼びかけることからこのように呼ばれます。ティーは「パン」。ヘンケトは「ビール」。カーウはカー「雄牛」の複数形。アペドゥーはアペド「水鳥」の複数形。エヌは与格のエヌ「〜に」。カーは「生命力、活力」を表しますが、ここでは慣例的に「霊」と訳します。次のエヌは属格形容詞「〜の」。イミーエルは行政部門の長官。ハスートはハセト「外国、山岳の国」の複数形。メフテトはメフティー「北の」の女性形。ジェフーティーという人名は恐れ多くもトート神と同じ綴りで書かれています。通常このような書き方は王名にのみ許され、個人名では表音文字を組み合わせて書かれます。マアーヘルーは「声正しき者」。来世のオシリス神の法廷でマートに則った正しい人であると証明された者という意味です。

ジェフーティーは物語「ヨッパ攻略」に登場するトトメス3世時代の知将で、トロイの木馬のように城主への贈り物のバスケットの中に兵士をもぐりこませて、城壁内に運ばせ、都市の攻略に成功しました。この功績により彼は「北方諸国の長官」という総督職に任命されました。

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31. アメンヘテプ3世のライオン狩りの記念スカラベ(Wien ÄS 6730)より (23/11/2005)

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「ホルス、カーネヘト・ハーイエムマート、二女神、セメンヘプー・セゲレフターウィー、黄金のホルス、アアヘペシュ・フーイセチェティウ、上・下エジプト王、ネブマートラー、彼が愛する太陽神ラーの息子、アメンヘテプー・ヘカイウヌー、生命を与えられし者が生きますように。王の妻、ティイ、生きますように。

治世1年から治世10年までに陛下御自身が射たものとしてもたらしたライオンの数。野生のライオン102頭。」

アメンヘテプ3世のライオン狩りの記念スカラベは123個見つかっています。これはそのうちの一つで、ウィーン美術史美術館所蔵、片麻岩製、高さ8.5cm、幅5.8cmのものです。ライオン狩りは王の武力を示すものとして盛んに行われました。

アンフはアンフ「生きる」の願望を表す叙想法で「生きますように」。次にアメンヘテプ3世の5つの王名が続いています。第一にホルス名が来ます。カーは「雄牛」。ネヘトは「強い」。ハーイは「現れる」。エムは前置詞「〜の中に」。マートは宇宙の秩序を表します。従ってホルス名は「マートの中に現れる強き雄牛」という意味になります。第二に二女神名が来ます。二女神とはエジプトを守護する二人の女神、すなわち下エジプトのコブラの姿をしたワジェトと上エジプトのハゲワシの姿をしたネクベトのことです。セメンは「定める」。ヘプーはヘプ「法律」の複数形。セゲレフは「平和をもたらす」。ターウィーは「両国」すなわち上・下エジプトのことです。従って二女神名は「法律を定めて、両国に平和をもたらす者」という意味になります。第三に黄金のホルス名が来ます。アアは「偉大な」。ヘペシュは「武力」。フーイは「打つ」。セチェティウは「アジア人たち」。従って黄金のホルス名は「アジア人たちを討つ武力の偉大な者」という意味になります。第四に上・下エジプト王名が来ます。ネブは「所有者、支配者」。マートは前述の通り。ラーは太陽神ラー。従って上・下エジプト王名は「太陽神ラーはマートの所有者である。」という意味になります。最後にラーの息子名が来ます。メルエフはメリー「愛する」の関係形で、サーラーを修飾しており、「彼が愛する太陽神ラーの息子」という意味になります。アメンはテーベの主神アメン神。ヘテプーはヘテプ「満足する」の状態形。ヘカは「支配者」。イウヌーは「ヘリオポリス」。従ってラーの息子名は「アメン神は満足している。ヘリオポリスの支配者」という意味になります。ディはレディー「与える」の完了受動分詞。アンフは「生命」。ディアンフは「生命を与えられし者」という祝辞です。ヘメトは「妻」。ネスートは「王」。つまりヘメトネスートは王妃のことです。アメンヘテプ3世の正妃はティイという名前を持ちます。アンフティーはアンフ「生きる」の状態形で、ここでは願望を表しています。

レヘトは「数、表」。マーイウはマーイ「ライオン」の複数形。インエヌはイニー「もたらす」のセジェムエヌエフ形です。セジェムエヌエフ形は完了を表します。ヘムエフは「陛下」。エムは前置詞「〜として」。セテトエフはセティ「射る」の関係形。ジェスエフは「彼自身」。シャアーエムは時の始まりを表す前置詞「〜から」。ネフェリートエルは時の終わりを示す前置詞「〜まで」。レンペトは「治世年」。縦の線は数字の1を表し、馬蹄形は数字の10を表し、ぜんまいは数字の100を表します。最後の行の前半部分は欠けていますが、他の記念スカラベからヘサー「野生の」と書かれていたことが知られています。

32. メチェチの墓壁画断片(Louvre E25517-E25518-E25541)より (6/12/2005)
ちょっとだけ碑文解読(2)の27のメチェチと同一人物の墓壁画断片です。墓の位置はおそらくウニス王のピラミッドの近くにあり、年代は第6王朝ではないかと推測されています。

壁画には鮮やかな彩色が残っており、碑文の上の段には牛の頭、パンを載せた容器、果物や野菜、イチジクやブドウの房の入った皿、ロータスの鉢からなる供物が並べられています。おそらくこれらの供物を故人が食べることができるようにするための儀式に関する碑文です。

「王が与える供物。朗唱神官が彼のために葬祭用の食事の霊化の呪文を唱えること。」

ヘテプは「供物」。ディはレディー「与える」の関係形。ネスートは「王」。その後に王が与える供物の内容が述べられています。シェデトはシェディ「朗唱する」の不定詞。エヌエフは与格のエヌ+三人称単数の接尾代名詞で「彼のために」。サーフーは「霊化の呪文」。デベヘトヘテプは「葬祭用の食事」。インは不定詞の主語を導きます。ヒェリーヘベトは「朗唱神官」。

碑文の下の段には、清めの水を注ぐ息子のイヒー、二人の朗唱神官のうち前者は大きなパピルス紙を持ち、後者は右手の手のひらを上に向け、左手にパピルスの巻物を持っています。彼らはメチェチのために霊化の呪文を唱えています。彼らの後ろには香を焚いている人物が続きます。さらに二人の朗唱神官が続き、最後の人物は麻織物の反物を両手に持っています。朗唱神官達は肩からサッシュベルトをかけ、張り出し部分のある腰巻を着用しています。

33. サソリの魔除け石(JE36507)より (24/12/2005)

これはエドフのイシス・ヘドジェト女神のサソリを追い払う力への信仰を示す魔除け石です。イシス・ヘドジェト女神の信仰は第18王朝末から知られています。おそらくこの魔除け石は第18王朝のものです。イシス女神がサソリを従えることが出来、サソリに刺された傷を治すことができることは、第30王朝のメッテルニッヒ・ステラ(メトロポリタン博物館所蔵)に彫られた神話から知られています。エジプトの砂漠にはサソリが多く、泥レンガで造られた住居の中にもよく入り込んだので、子どもやお年寄りをサソリから守るためにこのような魔除け石が携帯されたり、家の中に置かれたりしたのでしょう。

「イシス・ヘドジェト女神、彼の美を造った神の母。

偉大なイシス女神、神の母からの王が与える供物。

彼女がジェフーティーと彼の妻、ヘドジェト女神の乳母、イレトの霊に、

生命・繁栄・健康と頭の良さ、称讃、愛、彼女がいるいかなる場所でも彼女に従って地上にいることを

与えますように。」

アセト・ヘドジェトはエドフのイシス女神の名前で、ホルス神の母。ムートは「母」。ネチェルは「神」。ヒエログリフの綴りではネチェルが尊敬の倒置のためにムートの前に書かれています。ケマートはケマー「造る」の完了能動分詞。ネフェレトはネフェル「美しい」から派生した抽象名詞「美」。ネフェレトエフのエフは三人称単数男性形の接尾代名詞「彼の」で、ここではホルス神を指していると思われます。ヘテプディネスートは「王が与える供物」。アセトはイシス女神。ウレトはウル「偉大な」の女性形。ムートネチェルはすでに説明した通り「神の母」。ディエスはレディ「与える」の願望を表す叙想法で、「彼女が与えますように。」という意味です。エスは三人称単数女性形の接尾代名詞「彼女が」で、イシス女神を指しています。アンフは「生命」。ウジャは「繁栄」。セネブは「健康」。セペドヘルは直訳すると「顔の鋭い」で、「頭の良さ」を意味します。ヘセトは「称讃」。メルートは「愛、人望」。ウェネンはウェネン「存在する」の不定詞で「存在すること」。テプは前置詞「〜の上に」。ターは「大地」。エムは前置詞「〜の中に」。シェムスートは「従者の一行」。従ってエムシェムスートエスは「彼女に従って」。ブーは「場所」。ネブは「あらゆる」。ウェネンエスはウェネン「存在する」の未完了関係形。イームは副詞「そこに」。エヌは与格を表す前置詞「〜に」。カーは「生命力、活力」を表しますが、慣例的に「霊」と訳されます。次のエヌは属格形容詞「〜の」。ジェフーティーは人名。ヘメトは「妻」。ヘメトエフのエフはジェフーティーを指しています。メナトは「乳母」。メナトヘドジェトはエドフ神殿でサソリに刺された人の治療を行う役目の人を示すかもしれません。イレトはジェフーティーの妻の名前。イシス・ヘドジェト女神の名前はエドフ以外ではまったく知られておらず、碑文はイレトの役割との関連の強さを示しています。

34. イスタンブールのオベリスクの碑文より (16/1/2006)

「ホルス、強き雄牛、太陽神ラーに愛される者、上・下エジプト王、メンヘペルラー、太陽神ラーが昇進させた者

アトゥム神が神の母ネイト女神の両腕の上で乳離れをさせられた王子として王にまで育て上げた者、諸国を征服した者」

このオベリスクは本来カルナックのアメン神殿にトトメス3世によって治世33年のシリア遠征の後二回目のセド祭を記念して建立されたもので、後にローマ皇帝テオドシウスによってコンスタンティノープル、すなわち現在のイスタンブールに移築されたものです。

ホルは王の5つの王名の内ホルス名を指します。カーは「雄牛」。ネヘトは「強い」。メリーはメリー「愛する」の完了受動分詞。ラーは太陽神ラー。ネスート・ビーティーは即位名を表し、「上・下エジプト王」と訳します。メンは「堅固な」。ヘペルは「姿」。サーアは「昇進させる」。サーアエヌラーはセジェムエヌエフ関係形で、「太陽神ラーが昇進させた者」を意味します。レネンは「育て上げる」。ここでは完了関係形です。アトゥムはヘリオポリスの創造神アトゥムのこと。エムは述部のエムで「〜として」。ウジェフは「乳離れさせられた王子」。ヘルは前置詞「〜の上で」。アウイはア「腕」の双数形、すなわち「両腕」。ネトはネイト女神。ムートは「母」。ネチェルは「神」。エルは未来を表す前置詞。ネスートは「王」。イチはイチー「征服する」の完了能動分詞。ターウはター「国」の複数形。ネブは「すべての」。

ネイト女神は先王朝時代からギリシア・ローマ時代まで信仰された最も重要な女神の一人でした。彼女は戦いの女神、サイスに信仰地を持つ下エジプトの守護女神、イシス女神、ネフテュス女神、セルケト女神とともに死者を守る女神であると同時に、宇宙創造以前の闇の世界ヌンと同一視され、まさに時の始まりにおける創造力でもありました。アトゥム神が神々の父であり、王の祖先であるのと同様に、ネイト女神もまた神々の母であり、太陽神ラーを生み出した者でした。従って「アトゥム神が神の母ネイト女神の両腕の上で乳離れをさせられた王子として王にまで育て上げた者」というエピセットは、トトメス3世の王権が宇宙創造時にまでさかのぼることを意味します。

35.  テーベ181号墓イプーキの墓壁画より (27/3/2006)
これは第18王朝アメンヘテプ3世時代の王室彫刻師イプーキの墓壁画です。死後再生復活したイプーキは礼装し、手には権力の象徴であるセヘム笏を持っています。セヘム笏の実際の出土品はアカシア、タマリスク、シカモアイチジクの木材から作られたものばかりですが、この壁画ではパピルスの茎の葉の先を束ねたもののように見えます。
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「あなたの永遠の家(=墓)の中で、

あなたの妹(=妻)ヘヌートネフェレトの手から

(盃を)受け取り、飲み、楽しい日を過ごしなさい。」

シェセプは「受け取る、手に取る」。スール(当時の発音はスーイ)は「飲む」。イリーヘルーは「日を過ごす」。ネフェルは「よい、楽しい」。シェセプ、スール、イリーはともに命令形。エムヒェヌーは複合前置詞「〜の中で」。ペルは「家」。エックは所有を表す接尾代名詞二人称単数形「あなたの」。エヌは属格形容詞「〜の」。ジェトは「永遠」。エムは前置詞「〜から」。ジェレトは「手」。セネトは「妹、妻」。ヘヌートネフェレトは人名すなわちイプーキの妻の名前です。

「死者の書」では故人は死後再生復活して神々が住む楽園「イアルの野」へ行くとされていますが、実際には故人の魂は楽園へ行くことはなく、墓の中に留まって永遠に生き続けました。そのため墓は「永遠の家」と呼ばれます。

36.  ルクソール神殿第一中庭の碑文より (5/4/2006)
これはルクソール神殿のラムセス2世によって増築された第一中庭の北壁の碑文です。ラムセス2世は治世3年氾濫季第4月にルクソール神殿の第一中庭、ピュロン、オベリスクを完成させ、同年のオペト祭で盛大に献堂式を行ったようです。碑文の下にはよく肥えた牛たちが神官達に導かれながらルクソール神殿の正門に向かっている様子がレリーフで描写されています。

ヒェルは前置詞「〜を持って」。イヌーは「贈り物」。センは三人称複数の接尾代名詞「彼らの」。エムは前置詞「〜として」。バークーは「毎年納税を義務付けられた租税」。ヌーは属格形容詞エヌの複数形「〜の」。ターは「平地の国」。セティウは「ヌビア人」。マアーウは「生産物」。ネブは形容詞「あらゆる」。エヌは属格形容詞。ハースートはハーセト「山岳の国、外国」の複数形。セチェティウは「アジア人」。ヘセベトは「計算されたもの」。ターメリは「エジプト本土」。エルは目的を表す前置詞「〜するために」。マアアはマアア「見る」の不定詞。ネフェルーは「美」。ネブは「主人、支配者」。ネスートビーティーは王の称号の一つで「上・下エジプト王」。ターウィーは「両国」すなわち「エジプト」。ウセルマートラー・セテプエンラーはラムセス2世の即位名。意味は「ラー神のマートは力強い。ラー神が選んだ者」です。サーラーは王の称号の一つで「太陽神ラーの息子」。ラムセス・メリアメンはラムセス2世の誕生名。意味は「ラー神は彼を産んだ者なり。アメン神に愛される者」です。

彼らの主人、上・下エジプト王、両国の支配者、ウセルマートラー・セテプエンラー、太陽神ラーの息子、ラムセス・メリアメンの美を見るために、

ヌビア人の国の毎年の租税、アジア人諸国のあらゆる生産物、エジプトの決算として、彼らの贈り物を持って・・・」

37. トトメス4世の銘がある腕輪(Berlin 21685)より (23/4/2006)
2 これはベルリン博物館所蔵の象牙製の腕輪で、射手が弓のつるのはね返りから腕を守るために着用したものです。テル・エル・アマルナの住居址から発見され、トトメス4世の銘があることから、この腕輪はトトメス4世からアフエンアテンまで三代の王に仕えた兵士のもので、武勲に対する褒美だったかもしれません。

象牙に彫られた場面では、リビア人と思われる異民族を打とうとするトトメス4世に戦いの神であるモント神が偃月刀(えんげつとう)を差し出しています。このことは異民族に対する勝利を保証しています。さらにまた、モント神はたくさんの刻み目があるレンペト(長い治世)、アンフ(生命)、へカー(王笏)を差し出しています。レンペトの下方には「十万」を意味するおたまじゃくしと「世界」を表すシェンリングが重ねられています。従って、モント神は同時にトトメス4世の治世が半永久的に続くことも保証しています。

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「メンヘペルーラー、ジェフーティーメスー・ハーハーウ。

よき神よ、あなたが諸外国の首長達を打つために、あなたのために偃月刀を受け取れ!」

メンヘペルーラーはトトメス4世の即位名です。メンは「堅固な」。へペルーはヘペル「姿」の複数形。ラーは太陽神ラー。従って「ラーの姿は堅固である。」を意味します。ジェフーティーメスーはトトメス4世の誕生名です。ジェフーティーはトート神。メスーはメシー「生む」の状態形。従って「トート神が生まれた。」を意味します。ハーハーウはエピセットです。ハーはハー「輝く」の関係形。ハーウはハー「王冠」の複数形。従って「王冠の輝く者」を意味します。シェセプはシェセプ「受け取る」の命令形。エヌエックは与格のエヌ+接尾代名詞二人称単数形で、「あなたのために」を意味します。ヘペシュは「偃月刀」。ネチェルは「神」。ネフェルは「よい」。ここでは呼び掛けで「よき神よ。」となります。フーはフーイ「打つ」の叙想法で、目的節で使われているので、「あなたが打つために」となります。テプーはテプ「首長」の複数形。ハースートはハーセト「山岳の国、外国」の複数形。ネベトはネブ「あらゆる」の女性形です。

エジプト王が異民族を打つモチーフは紀元前3,100年頃のナルメル王以来見られ、混沌を征服し、世界の秩序を守るという象徴的な意味合いがあります。

38. アメンヘテプ・フーイのピラミディオン(Cairo TR 7/11/24/1)より (1/5/2006)
これはラムセス2世時代のメンフィス市長アメンヘテプ・フーイのサッカーラにある神殿型ピラミッド墓の上に載っていたピラミディオンです。花崗閃緑岩製、高さ47.5cm、底辺53×52cmです。

四面の頂上部に有翼日輪に守護された神の図像があり、その下に左右向き合って礼拝の姿勢を取るアメンヘテプ・フーイと二つの祈りが彫られています。すなわち合計八つの祈りが彫られています。写真はピラミディオンの南面で、頂上部には両腕のある有翼日輪に守護されて進む、厨子の中に太陽神ラー・ホルアフティーを乗せた船が描かれています。ラー・ホルアフティー神は二人の神に伴われています。このような神を乗せた船の図は実は紀元前四千年頃から岩絵に見られます。

右側の祈りはアメンヘテプの名前で、左側の祈りはフーイの名前で捧げられています。

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「(右側)オシリス神(となりし)真の王の書記、彼に愛される者、メンフィスの偉大な王領地監督官、

アメンヘテプ、声正しき者によって

太陽神ラーが地平線から昇る時、彼を礼拝すること。彼は(次のように)言う。

『あなたに挨拶します、彼の(適当な)時に若返る者、朝の美しい日輪よ。』

オシリス神(となりし)真の王の書記、彼に愛される者、[アメンヘテプ、声正しき者]に

彼が早朝に光を見ることと冥界にいる者(=オシリス神)に敬礼することを与えますように。

(左側)オシリス神(となりし)真の王の書記、彼に愛される者、メンフィスの偉大な市長、

フーイ、声正しき者によって

ラー・ホルアフティー神、地平線の中のハヤブサの神像を礼拝すること。彼は(次のように)言う。

彼が冥界を開く時、彼がオシリス神(となりし)アメンヘテプの死体の上で休む時、

『あなたに挨拶します(繰り返し)、朝の子供、毎日天空を渡るベフデティ神よ。』

彼らの(適当な)時に星々が生きるように、彼が生きますように。

オシリス神(となりし)王領地監督官、フーイ、声正しき者。」

ドゥワーはドゥワー「礼拝する」の不定詞「礼拝すること」。ラーは太陽神ラー。ウベンエフのウベンは「昇る」、エフは三人称単数の接尾代名詞「彼は」。ウベンエフは副詞節で使われた未完了セジェムエフ形で、「昇る時」と訳されます。エムは前置詞「〜から」。アヘトは「地平線」。インは行為者を導く前置詞「〜によって」。ウシルは「オシリス神」。セシュは「書記」。ネスートは「王」。マアーは「真の」。メリーエフはメリー「愛する」の完了受動分詞に三人称単数の接尾代名詞エフが付いたもので、「彼に愛される者」。イミーエルは「長官」。ペルは「領地」。ウルは「偉大な」。イネブーは「メンフィス」を指します。アメンヘテプは人名です。マアーは「正しい」。ヘルーは「声」。ネフェルヘル構文すなわち形容詞+名詞は「顔の美しい(者)」と訳されるので、マアーヘルーは「声正しき者」と訳す。ジェドは「言う」。ジェドエフは未完了セジェムエフ形で、会話を導入します。イネジュヘルは「挨拶する」。二人称単数の接尾代名詞エックが付いて「あなたにあいさつします。」を意味します。レンプはレンピー「若返る」の完了能動分詞「若返る者」。スーは三人称単数の従属代名詞。エルは時を表す前置詞「〜に」。ヌーは「時」。この場合「適切な時、正しい時」を意味します。エフは三人称単数の接尾代名詞「彼の」。イテンは「日輪」。ネフェレトは「美しい」。エヌは属格形容詞「〜の」。ドゥワーウは「朝」。ディエフはレディ「与える」の願望を表す叙想法「彼が与えますように」。エフは太陽神ラーを指します。マアアーはマアアー「見る」の不定詞「見ること」。アフーは「光」。ヘルは時を表す前置詞「〜に」。テプは「始まり」。ドゥワーイトは「朝」。テプドゥワーイトは「早朝」を意味します。センターは「敬意を表して大地にキスをすること」。エヌは与格の前置詞「〜に」。イミーは「〜の中にいる者」。ドゥワトは「冥界」。イミードゥワトは「冥界の中にいる者」すなわちオシリス神を指します。エヌは与格の前置詞「〜に」。「アメンヘテプ、声正しき者」の部分は欠けていますが、このピラミディオンのどの面でも、フーイとアメンヘテプが対になっているので、アメンヘテプの方が欠けていることが容易に推測できます。

ラーホルアフティーも太陽神の名前です。アヒェムはアヘムとも書かれ、「ハヤブサの神像」を意味します。ヘリーイブは複合前置詞ヘルイブ「〜の真ん中の」。アヘトは「地平線」。ハーティアは「市長」。ウルは「偉大な」。エヌは属格形容詞「〜の」。イネブーヘジュ「白い壁」はメンフィスを指します。フーイは人名です。イネジュヘルエックの後のセプセンは繰り返しを示し、ここでは「繰り返し挨拶すること」を意味します。ヒェレドは「子供」。エヌは属格形容詞「〜の」。ドゥワーイトは「朝」。ベフデティは有翼日輪を指します。ジャーはジャー「渡る」の未完了能動分詞で、ベフデティを修飾しています。ペトは「天空」。ラーネブは副詞句「毎日」。ウバーエフのウバーは「開く」で、副詞節で使われた未完了セジェムエフ形です。従って「彼が開く時」と訳します。接尾代名詞エフはベフデティを指しています。次のヘテプエフも同様です。ヘテプは「休む」なので、ヘテプエフは「彼が休む時」と訳します。ヘルは前置詞「〜の上に」。ヒャトは「死体」。アンフエフはアンフ「生きる」の願望を表す叙想法「彼が生きますように」。エフはフーイを指します。ミーは前置詞「〜のように」。ミーは名詞節を導き、アンフは名詞的用法の関係形です。ハーバースは「星々」。エルは時を表す前置詞「〜に」。テルは「時」。センは三人称複数の接尾代名詞「彼らの」。ここではハーバースを指しています。

2 39. メディネト・ハブのラムセス3世葬祭神殿レリーフより (16/6/2006)

「ウセルマートラー・メリーアメン、ラーメススー・ヘカーイウヌー

神々の父

ハーピ神によって話される言葉

(私は)あなたに毎日あらゆる食べ物を与えた。」

ウセルマートラー・メリーアメンはラムセス3世の即位名で、「ラー神のマートは力強い。アメン神に愛される者」という意味です。ラーメススー・ヘカーイウヌーはラムセス3世の誕生名で、「ラー神は彼を生んだ者である。ヘリオポリスの支配者」という意味です。ウセルは「力強い」。マートは「秩序、正義」。ラー神はヘリオポリスの太陽神ラーです。メリーはメリー「愛する」の完了受動分詞で「愛される者」。アメンはテーベのアメン神です。メスはメシー「産む、生む」の完了能動分詞で「生んだ者」。スーは従属代名詞「彼を」。ジェドメドゥーは登場人物の話す言葉や呪文を導き、「話される言葉」を意味します。インは行為者を導く前置詞で、「〜によって」を意味します。ハーピ神は氾濫したナイル川の神です。イトは「父」。ネチェルーはネチェル「神」の複数形。ディエヌイーはレディー「与える」の完了のセジェムエヌエフ形で、主語イー「私は」は省略されています。従って「(私は)与えた。」と訳せます。エヌエックは与格「あなたに」。ジェファーウは「食べ物」。ネブは形容詞「あらゆる」。ラーネブは副詞「毎日」。

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これは第20王朝ラムセス3世葬祭神殿内のオシリス神の礼拝堂に彫られた死者の書第110章イアルーの野原の場面です。王の葬祭神殿に死者の書の場面が彫られた初めての例です。王は死者達の冥界における最終目的地イアルーの野原に辿り着き、そこで農夫のように畑を耕し、穀物を刈っています。そして氾濫したナイル川の神ハーピ神に自分が今まで辿ってきた道について語り、その報酬として食べ物と冥界における王としての永遠の場所を要求します。碑文を読めば、ハーピ神が王の要求に応じたことが分かります。

ハーピ神は頭上にパピルスのやぶを載せています。乳と腹は垂れ下がり、豊穣を表しています。手には大・小のアンフを持っています。もう一方の手には笏杖を持っています。ハーピ神の後ろには氾濫を象徴したアオサギが止まり木の上にいます。王は両手を挙げてハーピ神を礼拝しています。

4→ 40. アスワン西岸サーレンプート2世の墓壁画より (12/7/2006)

「クヌム神、エレファンティネ島のカタラクト地域の支配者の下で尊敬される者

領主ネブーカーウラーネヘトゥー

サティス女神、エレファンティネ島の女性支配者、ネクベト女神の下で尊敬される者

ネブーカーウラーネヘトゥー

日々毎日彼が称え、彼が愛する彼の実の息子、アンフー。」

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ネブーカーウラーネヘトゥーはサーレンプート2世としてよりよく知られています。彼は南方諸国への関所を守る国境警備隊の指揮官でした。宮廷名にアメンエムハト2世の即位名を含むことから、彼は第12王朝アメンエムハト2世の治世に経歴を始めたと思われます。彼はアスワン西岸のクベト・エル・ハワに墓を造りました。この壁画は墓の一番奥の壁がんに描かれています。壁がんの左右と天井にも装飾が施されています。天井の碑文の最後の部分にサーレンプートという彼の本来の名前が記されています。

エレファンティネ島ではクヌム神とその配偶神サティス女神が崇拝されていました。クヌム神は羊頭の男神で、アスワン地域の洞窟から生じるナイル川の氾濫をコントロールすると考えられました。サティス女神は南の国境を守る女神で、またナイル川の氾濫を知らせるシリウス星とも同一視されました。ネクベト女神の名前が登場しているのは、彼女がエジプト南部の守護神だったからでしょう。

イマーフーは「尊敬される者」。ヘルは前置詞「〜の下で」。ヒェネムーは「クヌム神」。ネブは「支配者」。ケベフーは「カタラクト地域」。ヘルは前置詞「〜の上に」。アブーは「エレファンティネ島」。ハーティアは「領主」。ネブーカーウラーネヘトゥーは「アメンエムハト2世は強い。」という意味です。セチェトは「サティス女神」。ネベトは「女性支配者」。ネフベトは「ネクベト女神」。サーは「息子」。サーエフのエフは接尾代名詞「彼の」で、ここではサーレンプート2世を指しています。この後に出てくるヒェトエフ、ヘスエフ、メルエフのエフも同様です。エヌは属格形容詞。ヒェトは「身体、肉体」。ヘスエフはヘシー「称える」の完了関係形。メルエフはメリー「愛する」の完了関係形。エムヒェレトヘルーネトラーネブは「日々毎日」という意味の慣用句です。

(1) (2)も見てね。

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