U、発達の理論

 

U-1 発達の理論

          発達の定義

発達=個体の発生から死に至るまでの人の様々の変化。特に身心の変化であり、なかでも精神の機能や構造の変化に焦点が耐えられる。下降的な変化に上手く順応して充実した人生を過ごすことを重要とする生涯発達という概念もある。

→発達は精神的な質的変化に監視がある一方、成長は身体・生理的な量的な変化を指す

          発達の一般的な段階区分

@          乳児期(生後2才頃まで)

母子の愛着関係が成立し、方向と言葉の獲得期である。生後1ヶ月までを新生児期という

A          幼児期(56才まで)

基本的な運動能力、生活習慣、言語、自我などが発達する。自我の発達による自我の欲求と親のしつけとの間の葛藤の表れである、第1次反抗期がみられる。23才を反抗期とも言う。一方で、他者の視点が理解できず、自分の視点からのみ物事を理解したり(自己中心性)、物事にも生命があると考える(アミニズム)、事物を人間の表情的に認知しようとする(相貌(そうぼう=容姿)的知覚)、なども未熟さがある。

B          児童期(12才頃まで)=学童期

身体的にも知的にも著しい発達がみられる。具体的なものを媒介にした思考が発達する。活動は家族から友人へと移っていき、社会性が発達し、仲間関係が広がる。

C          青年期(2030才頃まで)

2次生性徴期に伴い、心身ともに大きな変化を迎える。親への胃依存と独立の間を行き来しながら、心理的離乳期を果たそうとする。成人に至までの機関は個人差が大きい。

D          老年期

心理的、身体的機能の減退、退職や配偶者との別れなどの喪失を特徴とする一方、個人のもつ価値観や自我統合が確立する。

          人の発達の特殊性

【生理的早産】(ポルトマン)

人は生後1年ぐらいの間は自力で移動したり食物を食べたりできない未熟な存在である(子宮外胎児期)=人間の乳児は胎内で成熟する期間が短く、早く生まれすぎたということ。

→この期間における母親との愛情豊かな交流は重要

【ホスピタリズム】

病院や児童養護施設などにおける,集団での入所生活が入所者の生活行動に及ぼす影響のこと

(大辞林)

【マターナル・デプリベーション(母親剥奪)(ボウルビー)

母親との交流が妨げられた結果、子どもに知的発達の遅れ、情緒表現の未熟、社会性の不足、習癖などの問題がしばしば見られる。以前は乳児院などで見られたことからホスピタリズムと呼ばれたが、家庭でも見られる症状である。→児童虐待

【アダルト・チルドレン】

両親の愛情に乏しい幼年期を過ごしたために,家庭に対して不信感を持ったまま成長した大人をいう。また母親の保護下にあることでしか安心感を得られないような共依存関係に頼ったままで,大人になりきれない大人をいう(デイリー新語辞典)

          発達の要因

@          成熟か学習か

(1)       環境優位説

行動主義の立場で、人は環境や学習によってつくられるとする(ワトソン)

(2)       成熟(遺伝子に組み込まれたプログラムによって個体が完成状態に達すること)優位説

身体・運動的に十分な時期がくると(レディネス)、訓練を受けなくとも受けた者と同じように学習できる(ケゼル)

A          加算説

(1)       輻輳(ふくそう=こみあうこと)

発達は遺伝要因と環境要因が加算的に作用し、両者が輻輳(収斂・収束)して1つの発達に結実する(シュテルン)

(2)       対極説

発達の特徴により遺伝要因と環境要因の割合が変わる(ルクセンブルガー)

B          相互作用説

(1)       環境閾値(いきち)(ジェンセン)

それぞれの特性が発達していくにあたって必要とする環境の質や量は異なり、各特性は固有の環境閾値(反応その他の現象を起こさせるために加えなければならない最小のエネルギーの値)を持っている。

→現在ではピアジェのようなダイナミックな発達の理解が主流。発達のメカニズムは単純ではない。

          発達の研究法

@          実験的方法

2つ以上の事象の間の因果関係を調べるのに適している。計画的に条件を統制し、この条件によって生じる行動の変化を、実験によって量的に測定して条件と行動の関係を調べる方法

A          事例研究法

同一個人について多方面にわたる綿密な資料を集め総合的に検討する方法

B          横断的方法

同一時点でさまざまな年齢の多くの子どもを観察、テストあるいは実験をして、発達過程などを明らかにする方法。大量のデータを集めることができ、発達の大きな傾向を把握するのに適している。

C          横断的方法

同じ子どもを何年も追跡して繰り返し観察、テストあるいは実験をする方法。発達的変化の理由を探る方法として適している。ターマンの天才児についての35年間にわたる研究は有名である。

D          コホート分析

コホート(cohort)とは、ある年に出生した人や入学した人というように、同じ時期に生活史上の重要な事象を経験した個人の集合である。コホート分析とは、複数個の異なったコホートを追跡して、時間経過に伴う事象を量的に記述してそれをコホート内やコホート間で比較する方法である。コホートでの出来事の影響など社会的影響を重視する点で横断的研究と異なる。

 

U-2 発達段階説

(1)       リビドーの発達段階理論(フロイト)

@          口唇期(出生から1年ほど)

ほ乳に関わる口唇(こうしん)部にリビドーが集中して、吸うことが活動の中心である

A          肛門期(生後1年〜3)

衣服の着脱、清潔、食事、排泄などの生活習慣のしつけが身につくころであるが、排泄のトイレット・トレーニングは子どもの心に大きな影響を及ぼす。排泄に関わる期間がこの時期は支配的である

B          男根期(3才〜5)

男児の場合ペニスが最大の快感をもたらす器官となる。後半にはエディプス期に入り、両親とのエロス的葛藤(異性の親への愛)を体験する(エディプス・コンプレックス)。そして、両親の道徳的、禁止的側面に対して同一化を行って超自我が確立される。

C          潜伏期

学童期に入って性的活動はいったん鎮静する

D          性器期

思春期にはいると再び性的活動が再開される、はじめ混乱を経験するがやがて成人の性愛の場合のように性器が支配的となる

(2)       知能の発達段階説(ピアジェ)

発達を環境への適応過程として捉え、認知の発達を中心に発達理論を提唱した。知的機能、特に論理的思考の発達に焦点を当てて発達段階区分を行った。各段階は独自の構造を持っており、その構造を子どもが自分のものにすると次の構造に進めるとされる。

【シェマ】

外部からの情報を処理する認知的枠組み。入力された情報がシェマに合わない場合に情報を書き換えることを『同化』と呼び、シェマ自体を修正することを『調節』と呼ぶ。結果、情報とシェマがうまく均衡を保つことを『均衡化』という。

@          感覚運動期(0才〜2)

感覚と運動との関係を発見する。赤ん坊はこの時期を通して、身近な環境にかかわり、吸う、つかむ、たたくなどの身体的な活動を身につける。また、ものを把握するために施策活動が盛んである。

A          前操作機(2才〜7)

表象が発生し、イメージやことばが発達してくる。概念や思考、推理が生じてくるが、知覚に左右され直感的である。前後の2才〜4才のころを象徴的思考段階、後半の4才〜7才を直感的思考段階に分ける。

B          具体的操作期(7才〜11)

具体的に理解できるものは論理的に思考することが可能になる。また、数や量は形を変えてもとったり付け加えたりしなければ不変だという基本的な対象概念(保存概念)が獲得される。

C          形式的操作機(11才〜15)

抽象的な事象に対しても論理的思考が可能になる。科学における仮説演澤思考がその例である。

(3)       心理社会的発達理論(エリクソン)

人は身体の発達により、新しい能力を獲得する。その際、各段階において自己の欲求と外からの制約との間の葛藤から心理社会的危機(重要な問題)が生じ、それを解決することが必要となる。そしてこれを克服すると次の段階に進んでいけると考えた。ライフサイクル論と呼ばれる。左側に記す課題を該当年齢までにこなすことが望ましい。その経験が不十分場合右に記す問題が生じる

@          0才〜1

『環境及び将来の出来事に対する信頼を持つこと』対『不信』

A          1才半〜3

『自己統制感、満足感を持つこと』対『恥、自己嫌悪の感情』

B          3才〜6

『自発的に行為する能力』対『罪悪感、不満感』

C          6才〜11

『どのように理解するなどの学習能力』対『そこで生じる劣等感』

D          青年期

『自己を統合させた自我の確立した人間とみること』対『自分がどんな人間かにちての混乱』

E          成人初期

『他者を愛する能力』対『愛情関係形成不能』

F          成人中期

『家族、社会、次世代への関心』対『自己のみへの関心(自己陶酔)

G          老年期

『完成感、満足感』対『不満感、死への絶望』

(4)       発達課題(ハーヴィガースト)

人が社会の一員として健全で幸福な成長を遂げるために期待される社会的役割に注目する。発達課題とは特定の発達段階で学習によって形成されるべき課題である。いいかえれば次に示すように、各発達段階には獲得すべき独自の行動様式や私的発達の目標があるというものである。発達課題が達成される要因は身体的成熟、社会の文化的圧力、個人の価値と願望の3つとされている。

【発達課題の1例】

@          乳幼児期

          歩くことを学ぶ

          話すことを学ぶ

          排泄をコントールすることを学ぶ

          概念を形成し社会的現実と物理的現実を表わすことばを学ぶ

A          児童期

          普通のゲームをするのに必要な技能を学ぶ

          同じ年頃の仲間とうまくつきあっていくことを学ぶ

          読み・書き・計算の技能を学ぶ

B          青年期

          自己の身体的構造を理解し、男性または女性としての役割を理解すること

          両親や他の大人からの情緒的独立

          経済的独立に関する自身の確立

(5)       道徳性の発達段階(コールバーグ)

人は社会で善とされること、悪とされることを理解し、それに基づいて行動できるようになってく。ピアジェの『道徳性は他律的から自律的へという段階を経る』という考えからヒントを受けた、3水準6段階からなる発達段階。

@          前慣習的水準

T、罪の回避と権威への服従。罪を加えられないようにし、力に対して疑わず服従する

U、道具的で相対主義的な志向。忠誠や正義よりも素朴な人間平等主義や互恵性が優先される

A          慣習邸水準

V、対人的な調和あるいは『よい子』志向。多数派はよいと受けとる傾向があり、そちらの行動に自分を同調させ、個人から承認される行動をとる。

W、『方途と秩序』志向。自分の義務を果たし、権威を敬い、社会秩序卯を維持しようとする

B          後慣習的、自発的水準

X、社会契約法的な志向。正しさは個人的な『価値』や『意見』の問題でありそれが相対的であることが意識される。

Y、普遍的かつ原理的な志向。正しさは両親による決定と自分で選択した倫理的原理に合致しているかどうかで決められる

 

V-3 発達の諸相

          身体発達

@          身体発達の方向性

身体的発達は一貫した方向性が認められる。それは一般的に『東部から尾部へ』(頭部―尾部勾配)と『中心から周辺部へ』(中心―周辺勾配)という方向である

A          臓器別発達曲線(スキャモン)

T、一般型

身体各種計測値、呼吸器、腎臓、大動脈、脾臓、全身の筋肉、骨格、血液量などは2度の加速的発達を伴い年齢と共に漸次その量を増す

U、神経型

頭部、脳、脊髄、未梢神経などは生後4年間で成人レベルの80%に達し6才〜8才でほぼ完成する

V、リンパ型

胸腺、リンパ腺などは生後急速に発育し10才〜12才頃には成人の2倍くらいまで発育したあと、思春期以降速やかに低下して18才ころまでに成人のレベルに落ち着く

W、生殖型

睾丸、卵巣、子宮、前立腺などは生後10年間くらいは極めて低いレベルにとどまり、思春期に入って急速に発育し14才〜18才で成人のレベルに達する。

B          乳児期の身体発達

T、把握反射

指や手のひらを押すと指を握りしめる

U、モロー反射

頭を上げて仰向けに寝かせ、急に頭の支えをはずすと、両腕を広げ、頭をそらし、腕を体の前で交差させる

V、バビンスキー反射

足の裏の外側をひっかくと足の親指が足背側に反り、場兄寄っては他の足指が扇状に広がる

W、口唇探索反射

口の付近に触刺激を与えるとその方向へ頭と口を向ける

          社会的発達

【社会性】

社会適応能力のこと。ある集団(国家、組織、学校、家庭など)が共有している行動様式、知識、思考、態度、価値観など、その集団に属する個人として身につけるべき技能や態度。これを獲得していくこと社会化という。

@          幼児期

          生活習慣を形成すること

          自己統制力をみにつけること

          自己の性を認識し適応行動を取ること

          道徳性が芽生えること

          協同的な集団遊びなどを通して仲間意識を持つこと

A          児童期

          家族との親密な関係から離脱し、同性同年代の仲間意識を体験して社会的自己像の基盤を形成することが中心

          同性同年代の子ども同士の自然発生的な、しかも強い結束をもつ数人の仲間集団(ギャング)を作って行動するためギャングエイジと呼ばれる

          集団内の地位や役割を認識

          対人関係の技能の習得

          集団所属の喜びを体得

B          青年期

          自分自身を見つめなす『自我の発見』(シュプランガー)を通して、家庭から精神的に完全に独立を果たし自己を確立する

          心理的離乳(ホリングワース)、脱衛生化(オーズベル)

          自己の性を受容し、その性に相応しい社会的役割(性役割)を獲得(『第2の誕生』(ルソー)

→社会性の獲得はm、決して平坦な道程ではない=第1次反抗期(2才ぐらい)、第2次反抗期(思春期)=自我の発達に伴う自己主張と親などの社会的抑圧の葛藤から生まれる現象。

 

W、発達の重要単語

【アタッチメント】

生後間もない乳児が特定の人に対して抱く感情的な結びつきのこと。ボウルビーによれば、生後8ヶ月で母親と見知らぬ人の区別ができるようになると言い、結果知らない人の前で泣いたりする(人見知り)

●エインズワースのストレンジ・シチュエーション法

T、回避型

親との分離に対して泣いたり混乱したりすることがほとんどなく、親とは関わりなく行動することが多い。母親の接近に対して回避をしたりする。

U、安定型

初めての場所でも母親がいることで安心し、活発に探索を行なう。母親がいなくなるとぐずったり泣いたりして母親を盛んに求めるが、母親が戻れば嬉しそうに迎えて再び探索に戻る

V、抵抗型

分離に強い不安や抵抗を示し再会時は積極的に接触を求めたりするが、一方で機嫌が直らず抵抗を示すため、アンビバレント群ともよばれる。

W、無秩序型

T〜Vのいずれにも一貫する行動特性が見られない場合である。

【インプリティング】(刻印づけ、すり込み)

生後間もなく習得される動物の行動様式がその後習慣性として維持され、消えたり変化したりしないことを指す。

【初期経験】

ある特定の経験が、後の発達に決定的な影響を及ぼすもの

【臨界期】

ローレンツは、鳥類がふ化した直後に見た動く対象に追随反応(インプリティング)を示すことを実験によって明らかにした。この反応成立可能なある一定の時期のこと

【養育態度】

サイモンズによる養育態度の分類。

@          残忍型

親の態度が支配的でありながら拒否を示す場合。子どもの性格は、逃避的、不安、神経質となる

A          無視型

親の態度が服従的でありながら拒否を示す場合。子どもの性格は、撃的となる

B          甘やかし型

親の態度が服従的でありながら保護を示す場合。子どもの性格は、独立的、反抗的となる

C          かまいすぎ型

親の態度が支配的でありながら保護を示す場合。子どもの性格は、幼児的、依存的となる。

【マージナルマン】

レヴィンの提示した概念。異質な複数の集団に属している者、あるいは、いずれの集団にも明確に属さない立場にある者。特に子どもと成人の中間に位置する青年は、社会的な身分が不確定であるばかりでなく、情緒不安定、過度の緊張があるという性質を持ている。

【発達加速現象】

身体発達が時代と共に加速され、生理的成熟が早期化している現象。近年は沈静化している。

【ピータン・シンドローム】

カイリーによって提唱された。いつまでも大人社会への参入を拒否している男性が示す心の症候群をいう。基本的には、現実に対して自信が無く孤独で、どのグループにも属さない男性像をいい、さらには女性とのかかわりの未熟さ、父親へのこどわりなどのコンプレックスを合わせ持つと言われる

【シンデレラ・コンプレックス】

ダウリングによって提唱された。『いつか王子様が現れ、その人に自分の人生を任せて守られたい』『自立を回避し他者によって救われたい』という依存状態を表わす。

【青い鳥症候群】

自分にもっと適した職業があるのではないかと思い込み、離転職を繰り返す状態を表わす

【発達の近接領域】

ヴィゴツキーの提示した概念。発達の水準には、子どもが与えられた概念や技能を自主的に解決しうる領域と、さらにその領域に接近して、自主解決は不可能でも、適当な助言や教示が与えられると解決しうる領域がある。その後者を言う。この領域に訴えかける教育が重要である。