V、教育課程と学習指導要領
V-1 教育課程の意義
教育課程・・・教育目標の達成のために意図的に教育内容を組織・配列したもの
知識や技能→知識や技能+生徒児童の人間成長に資するすべての教育活動
※ 日本では学習指導要領(幼稚園では幼稚園教育要領)が教育課程編成の基準となっている
V-2 教育課程の類型
(1) 歴史的変遷
@ 教科カリキュラム・・・多数の教科からなる教育課程
教材と学習者の学習到達度(結果)は重視されるが、子どもの発達・関心は考慮されない
A 経験カリキュラム(1920年代〜戦後)・・・子どもの生活や経験を教育課程の編成の基盤とする
学習内容を系統化することが困難だが、子どもの興味・関心を重視する様々な取り組みがなされた
☆(昭和22年学習指導要領(試案))※試案とされているのは、決定が学校自治に委ねられていたため
● 単元学習
単元・・・学習内容(スコープ)を学習の順序(シークエンス)により区切ったもの
教材単元・・・学習内容である教材の一まとまりを指すもの
経験(生活)単元・・・子どもたちが生活の中から興味、関心に応じて問題を発見し、その問題を追求、解決していくもの
※単元学習では、経験(生活)単元重視→問題単元(子どもたちの直面している現実に即したもの)
●
コア・カリキュラム
子どもの日常生活を中心(コア課程)に、教科内容をコアから関連させたもの(周辺課程)として構想する
●
地域教育計画
教育における民衆組織の成立及び運営を第1の目標とし、住民が自らの力で教育を仕組みつづけていく作業としての地域教育計画論であり,計画主体を地域住民とみなす教育思想
→学力低下批判を受け、教科カリキュラムの形態にもどる
B 学問中心カリキュラム(1960年代)→学習指導要領第3次改訂(s.42-5)
60年代のスプートニックショック等を背景にして、科学の発展に即応した教育が要求されるようになる
ブルーナー『どの教科でも、知的性格をそのまま保って、発達のどの段階の子どもにも効果的に教えることができる』
学問論理にしたがって系統的に編成され、授業を通じての教育内容の習得により、子どもが次の発達段階に誘い込まれるような科学概念と学問的知識にとって構成される。
→教育は子どもの発達に追随するものではなく、発達を促進するべきもの
C 人間中心カリキュラム(1970年代)・・・子どもの要求と興味の強調、内発的意欲の動機付けが重視される→学習指導要領第4次改訂(s.52,3)
学問中心カリキュラムが学問的才能に恵まれている子どもを偏重したことへの反省
(2) 様々な教育課程
☆教育課程の類型
@ 教科カリキュラム
知識・技能の学問体系により構成される。知識伝達に優れるが、知識偏重、子どもの興味からの乖離などが言われる
A 相関カリキュラム
相互に関連する複数の教科を関連づけ構成される。関連する教科学習の相乗効果
B 融合カリキュラム
既存の教科の枠を取り除き、類似の内容を戸5里だし、1つの教科として再統合
C クロスカリキュラム
複数の教科の教員が連携し、互いに他の教科の内容との関連を図りカリキュラム編成する。広い視野から総合的に課題を理解し判断することができる。
D コア・カリキュラム
中心となる基礎教科を決め、それに関連する科目を周辺に配置する。学問体系や教科構造を前提とせず、子どもに共通して基礎となる内容を中心に学習する。
E 経験カリキュラム
子どもが興味をもてる内容を選択し、これを学ぶために必要な経験を体系化する。生活環境を重視するため自主性が培われるが、学習内容の体系化・系統化が困難。
V-3 教育課程の編成の原理
国民共通の基礎的教養の探求と創造を目指して、『人格』と『能力』の統一的発達(個性的人間の育成)を促す教育課程編成の4つの基本的方針
@ こどもを人間らしい人間として育てる
A 人間の労働や社会的生産活動、歴史および社会関係、民族的・伝統的文化を重視する
B 人間的連帯や教官を培う、豊かな感性を発達させる集団的・芸術的価値を備えた教育内容
C 人間的・社会的諸関係に位置づけられた基礎学力と身体能力の発達保証
V-4 教育課程の編成と基準
学校教育の目的や教育課程に関する法規
【目的】
☆教育基本法
第1条
教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
【各学校段階の目的】
☆学校教育法
第17条
小学校は、心身の発達に応じて、初等普通教育を施すことを目的とする。
第35条
中学校は、小学校における教育基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育を施すことを目的とする。
第41条
高等学校は、中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施すことを目的とする。
第51条の2
中等教育学校は、小学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、中等普通教育並びに高等普通教育及び専門教育を一貫して施すことを目的とする。
【各学校段階の教育の目標】
☆学校教育法
第18条
小学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に勤めなければならない。
1.学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と共同、自主及び自律の精神を養うこと。
2.郷土及び国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。
3.日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
4.日常生活に必要な国語を、正しく理解し、使用する能力を養うこと。
5.日常生活に必要な数量的な関係を、正しく理解し、処理する能力を養うこと。
6.日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。
7.健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図ること。
8.生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
第18条の2
小学校においては、前条各号に掲げる目標の達成に資するよう、教育指導を行うに当たり、児童の体験的な学習活動、特にボランティア活動など社会奉仕体験活動、自然体験活動その他の体験活動の充実に努めるものとする。この場合において、社会教育関係団体その他の関係団体及び関係機関との連携に十分配慮しなければならない。
第36条
中学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
1.小学校における教育の目標をなお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。
2.社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
3.学校内外における社会的活動を促進し、その感情を正しく導き、公正な判断力を養うこと。
第42条
高等学校における教育については、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
1.中学校における教育の成果をさらに発展拡充させて、国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと。
2.社会において果たさなければならない使命の自覚に基き、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な技能に習熟させること。
3.社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること。
第51条の3
中等教育学校における教育については、前条の目的を実現するために、次に掲げる目標の達成に努めなければならない。
1.国家及び社会の有為な形成者として必要な資質を養うこと。
2.社会において果たさなければならない使命の自覚に基づき、個性に応じて将来の進路を決定させ、一般的な教養を高め、専門的な技能に習熟させること。
3.社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努めること。
【権限】
☆学校教育法
第20条
小学校の教科に関する事項は、第17条及び第18条の規程に従い、文部科学大臣が、これを定める。
第38条
中学校の教科に関する事項は、第35条及び第36条の規定に従い、文部科学大臣が、これを定める。
第43条
高等学校の学科及び教科に関する事項は、前2条の規定に従い、文部科学大臣が、これを定める。
第51条の7
中等教育学校の前期課程の教科に関する事項並びに後期課程の学科及び教科に関する事項は、第51条の2、第51条の3及び前条の規定に従い、文部科学大臣が、これを定める。
【教育課程の編成】
☆学校教育施行過程
第24条
小学校の教育課程は、国語、社会、算数、理科、生活、音楽、図画工作、家庭及び体育の各教科(以下本節中「各教科」という。)、道徳並びに特別活動によって編成するものとする。
第53条
@ 中学校の教育課程は、必修教科、選択教科、道徳及び特別活動によって編成するものとする。
A 必修教科は、国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育及び技術・家庭(以下この項において「国語等」という。)の各教科とし、選択教科は、国語等及び外国語の各教科並びに第54条の2に規定する中学校学習指導要領で定めるその他特に必要な教科とする。
B 前項の選択教科は、地域及び学校の実態並びに生徒の特性その他の事情を考慮して設けるものとする。
第57条
高等学校の教育課程は、別表第3(略)に定める各教科に属する科目及び特別活動によって編成するものとする。
☆ 国が教育課程編成の基準(学習指導要領)を定める理由
@ 学校教育は公の性質を持ち、内容に関し一定の基準を持つもの
A 地域、学校、教師間の格差をなくす
B 教育基本法、学校教育法の遵守
C 教育の中立性
D 教育水準の発展向上
※ 基準とは、標準的な意味での基準である(H.10,11年改訂学習指導要領では最低基準)
※ H.10,11年改訂学習指導要領総則
『各学校においては、法令及びこの章以下に示すところに従い・・・適切な教育課程を編成するものとする』
→各学校の個性化・活性化、時間割編成、中学校の選択履修幅の拡大、教科等の授業時数、1単位時間の運用等における弾力性の強調
V-5 教育課程編成の特例
@ 複式学級
●複式学級・・・児童数の不足から、幾つかの学年の児童生徒を1学級に編成すること
☆ 小学校設置基準
第5条
小学校の学級は、同学年の児童で編制するものとする。ただし、特別の事情があるときは、数学年の児童を一学級に編制することができる。
☆ 中学校設置基準
第5条
中学校の学級は、同学年の生徒で編制するものとする。ただし、特別の事情があるときは、数学年の生徒を一学級に編制することができる。
☆ 学習指導要領
学校において2以上の学年の児童で編成する学級について特に必要がある場合には、各教科及び道徳の目標に支障がない範囲内で、教科及び道徳の目標及び内容について学年別の順序によらないことができる
A 特殊学級・通級
☆ 学校教育法施行規定
第73条の9
小学校又は中学校における特殊学級に係る教育課程については、特に必要がある場合は、第24条第1項、第24条の2及び第25条の規定並びに第53条第1項及び第2項、第54条及び第54条の2の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
●通級指導教室・・・学校生活のいろいろな場面で、適応が難しい子供に対して、それぞれの子供の能力や適性に応じた指導を行い、生き生きとした楽しい学校生活
が贈れるように援助することを目的とした教室
☆学校教育法施行規則
第73条の21
小学校又は中学校において、次の各号の一に該当する児童又は生徒(特殊学級の児童及び生徒を除く。)のうち当該心身の故障に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部大臣が別に定めるところにより、第24条第1項、第24条の2及び第25条の規定並びに第53条第1項及び第2項、第54条及び第54条の2の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
1、言語障害者
2、情緒障害者
3、弱視者
4、難聴者
5、その他心身に故障のある者で、本項の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの
第73条の22
前条第1項の規定により特別の教育課程による場合においては、校長は、児童又は生徒が、当該小学校又は中学校の設置者の定めるところにより他の小学校、中学校又は盲学校、聾学校若しくは養護学校の小学部若しくは中学部において受けた授業を、当該小学校又は中学校において受けた当該特別の教育課程に係る授業とみなすことができる。
B 重複障害者
●重複障害者・・・当該学校に就学することとなった心身の障害以外に他の心身の障害を併せ有する児童又は生徒
第73条の12
1、盲学校、聾学校又は養護学校の小学部、中学部又は高等部において、当該学校に就学することとなった心身の故障以外に他の心身の故障を併せ有する児童若しくは生徒を教育する場合又は教員を派遣して教育を行う場合において、特に必要があるときは、第73条の7から第73条の10までの規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
2、前項の規定により特別の教育課程による場合において、文部大臣の検定を経た教科用図書又は文部大臣において著作権を有する教科用図書を使用することが適当でないときは、当該学校の設置者の定めるところにより、他の適切な教科用図書を使用することができる。
3、第1項の規定により特別の教育課程による場合においては、当該学校の設置者は、当該特別の教育課程を、市町村立の盲学校、聾学校及び養護学校にあっては都道府県の教育委員会に、私立の盲学校、聾学校及び養護学校にあっては都道府県知事に、あらかじめ届け出なければならない。
C 私立学校における宗教教育
☆ 教育基本法
第9条の2
国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。
しかしこれは当然、公の機関ではない私学には適用されない。そこで、
☆ 学校教育法施行規則
第24条の2
私立の小学校の教育課程を編成する場合は、前項の規定にかかわらず、宗教を加えることができる。この場合においては、宗教をもって前項の道徳に代えることができる。
D 研究開発学校
●研究開発学校・・・教育課程の基準の改善のための基礎的な資料を得るため、教育課程の編成領域や授業時数を変更したり、学習指導要領に定める各教科の目標や内容によらない教育活動を実施することができる制度(指定期間3年)
☆ 学校教育法施行規則
第26条の2
小学校の教育課程に関し、その改善に資する研究を行なうため特に必要があり、かつ、児童の教育上適切な配慮がなされていると文部大臣が認める場合においては、文部大臣が別に定めるところにより、第24条第1項、第24条の2又は第25条の規定によらないことができる。
V-6 学習指導要領とその性格
教育基本法・・・教育の一般的な目標
学校教育法・・・学校教育の在り方について、学校種毎にその目的、目標が記される
学校教育施行規則・・・教科構成、授業時間数を規定
学習指導要領・・・具体的な内容、方法
昭和22年 はじめて学習指導要領が『試案』という形で示される→教師の参考書的な意味合い
『1つの動かせない道をきめて、それを示そうとする目的で作られたものではない。新しく児童の要求と社会の要求とに応じて生まれた教育課程をどんなふうに生かしていくかを、教師自身が自分で研究していく手引きとして書かれたものである』
昭和33年 第2次改訂(小・中学校)→文部大臣による公示(官報公示)という形に
昭和47年 『学習指導要領の一部改正並びに運用』との事務次官通達→弾力化運用へ
昭和52年 第4次改訂→学校に創意工夫ある教育課程の編成を促す
『学校においては、法令及びこの章以下に示すところにしたがい、児童人間として調和のとれた育成を目指し、地域や学校の実態及び児童の心身の発達段階と徳性を考量して、適切な教育課程を編成するものとする』
平成元年 第5次改訂→『各学校においては』が明示される
平成10年 第6次改訂→総合的な学習時間により、各学校における一層の創造性が求められる
(高校11年)
☆ 学習指導要領の法的拘束性
『行政機関は施設設備などの外的条件を整備することのみとし、教育内容・方法には介入すべきではない』という論争
昭和53年5月21日 最高裁判所
『国の教育行政機関が教育の内容や方法について遵守すべき基準を設定する場合には、教師の創意工夫を尊重し、かつ、教育の地方自治の原則をも考慮しつつ、教育の機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために、必要かつ合理的と認められる大綱的なものを設定することができると解される。学習指導要領は全体としてみた場合その要件をみたすものとして、その効力を是認できる』
V-7 学習指導要領の変遷
(1)最初の学習指導要領(昭和22年)
・ 戦前の教授要目、教授細目に代わるもの。
・ 修身(教育勅語をよりどころとして、国民道徳の実践指導を目的としたもの)、日本歴史・地理廃止→社会化の登場
・ 中学において、職業科(農業、商業、水産、興業、家庭)の選択履修
・ 男子も学ぶ家庭科の新設
・ 児童生徒の自発的な活動を促し、個性を伸ばすための自由研究の新設
(2)第1次改訂(昭和26年)
・ 自由研究廃止→教科外の活動(小学校)、特別教育活動(中学校)
・ 東洋史と世界史の統合→世界史
・ 高校保健体育の設置
(3)第2次改訂(昭和33年小中、昭和35年高校)
・ 試案→官報公示
・ 道徳の設置
・ 中学に技術家・庭科を設置
・ 中学図画工作→美術
・ 高校倫理社会設置
(4)第3次改訂(昭和43年小学校、昭和44年中学校、昭和45年高等学校)『教育の現代化』
・ 特別教育活動と学校行事が統合され特別活動に
・ 高校のクラブ活動必修化
・ 高校女子家庭科必修化
(5)第4次改訂(昭和52年小中、昭和53年高校)『ゆとりと充実』
・ 高校で現代社会設置
(6)第5次改訂(平成元年)
・ 小学校1,2年に生活科設置
・ 『開かれた学校』の推進
・ 高校社会科を分割→地歴科と公民科に
・ 家庭科男女共修に
(7)第6次改訂(平成10年小中、平成11年高校)
・ 総合的な学習の時間
・ 中高における外国語の必修化
・ 中学家庭科に『情報とコンピューター』、高校にて情報必修化
V-10 答申
(1)第15期中央教育審議会第1次答申(平成8年7月19日)
平成7年『21世紀を展望した国の教育の在り方について』を受け、平成8年7月19日に答申。
@ 今後における教育の在り方
A 学校・家庭・地域社会の役割と連携の在り方
B 国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方
【キーワード】
・ 学校教育は、生きる力を育む、ゆとりを持たせる必要性がある
・ 家庭教育は、子どもの教育の最終的な責任と、全ての教育の出発点である
・ 第4の領域(家庭を基にした広域な地域領域)における教育の充実
(2)教育課程審議会答申(平成10年7月29日)
『自らの個性を伸長・開花させながら発達を遂げていく過程を扶ける営み・・・は学校のみが担うものではなく、学校、家庭、地域社会が連携』していくことを目指す『よりバランスのとれた教育』の必要性
(3)教育課程審議会答申(平成12年12月4日)
・ 絶対評価の重視
・ 個人内評価の工夫