議長不在の緊急集会は、なんら進展を見せぬまま閉会していた。
「キール=ローレンツの安否不明、どうも確かなようだな」
 冬月の声に不安の色は無い。
「しかし笑えたな。具体的な指針も提示せず、なんとかしたまえ、と来たか。老人たちも焼きが回ったものだ」
「上はどうなっている?」
「委員会か? 目に見えて足なみが揃わなくなってきているよ。キールの存在は、独断専行を食い止めるための楔だったからな。他に台頭できる者に心当たりもない」
「知識と手段を独占した結果が、あの議長の椅子だ。キールを失ったゼーレに、もはやシナリオを作り直せる者はいない」
「碇、おまえを除いてな。彼らに残された手は、欠落だらけの計画を強引に推し進めるのみか…」
 失笑が返ってくる。
「ふっ……暴挙に出たところで、統率を失った集団など脆いものだ」
「支配することに慣れきった彼らでさえ、そのようなものか」
「所詮は弱い人間の一人にすぎん。金も権力も、自らを守るための殻でしかない。中身は奴らが蔑んできた者たちと何も変わらんさ」
「それは我々も同じだよ。まあ自覚がある分だけ、いくらかマシだと思いたいがね」
「ああ」
「それで、どうするつもりだ、おまえは」
 返ってきたゲンドウの言葉は謎めいていた。
「せいぜい傍観者をきどるとしよう。全ては『あれ』の心の中だ」
 
 
◇◆◇
 
 
「昔のえらいヒトは言っていたわ……『仲良く喧嘩しな』って」
「それ絶対ちがう! なにか知んないけど、たぶん違うっ!」
 猫と鼠の喧嘩でもあるまいに。
 てやっ、と物理的暴力によるツッコミを入れるアスカ。…だが見事にかわされた。避けようのないタイミングだろうに。
「むぅぅぅぅ!」
「いいかげん、あきらめたら?」
「イヤよ! 一発入れるまではッ」
 青と赤。静と動。対照的な少女二人が、肩を並べて歩く。
 
 戦闘待機の一件以来、どうにも決着がつかないまま今に至っている。
 あの時の『追いかけっこ』がどうなったかと言えば…。
「おとなしく止まんなさいよ! なぐるから!」
「いや」
 まんまと逃げおおせているレイの背中を、アスカが執拗に追いかけ回す。どたばた。
 はたから見れば、うら若い少女たちの追いかけっこはとても微笑ましいものだった。しかも本人たちがこれでもかと言うほど真剣なのがまた滑稽でもあって、ますます笑いを誘う。そんな平和な光景。
 だから、なのだろう。時おりすれ違うネルフ職員たちは、彼女たちを咎めるでもなく、そっと笑みをこぼしてその華奢な二つの背中を見送るのだった。
 やがて……もう自分たちでさえ今どこを走っているのか分からなくなってきた頃合いに、二人が何気なく飛び込んだ、その先は。
 更衣室。
「えっ?」
 驚きの声は誰のものだったか。
 立ち止まるも顔色は変わらない綾波レイ。
 獲物を捕らえる千載一遇のチャンスにとうとう気づかず、石像のごとく固まる惣流=アスカ=ラングレー。
 彼女らの視線の先。
 あられもない姿の碇シンジュと。
 今まさにコトに及ぼうとしていた体勢で、首だけ振り返る碇シンジ。
「…………………………」
 静寂が痛ましい。というか向けられる視線が痛々しい。
 耐えられず、顔をそらしたシンジ。それをきっかけに。
「なっ……何やってんのよぉーーーっ!?」
 ナニを。などとお約束を口ばしる猛者は、さすがにこの場には…。
「ナニをしているわ」
 いた。
「アンタは黙ってなさい!」
 ごすっ、と。
 間髪いれず振り下ろした鉄拳が、青い髪に埋まる。
「痛いわ…」
 内心は動揺していたのかもしれない。今回ばかりは回避不能。
 そんな寸劇に背中を向けて、今のうちにとシンジュはいそいそと身支度を整えていた。
 なんとも、たくましくなったものだ。
 子供の成長を喜ぶ父親の顔でウンウンとうなづいているシンジが、たぶん一番ダメだった。
 
 ………そんなこんなで。
 とても平和なネルフ本部が警戒レベルを下げるのは、時間の問題であったのだ。
 
「で? どこ向かってるのよ」
 そして現在。
「いいところよ」
 どうかしらねとアスカは鼻で笑った。
 
 
◇◆◇
 
 
「…………………………なんでさ」
 開いた口がふさがらず、ようやく出てきた言葉がそれだった。
 なんで、どうして、この有様?
 自分の部屋『だった』場所は、いまや、見るも無惨な事になっていた。
 戦闘待機が解除されてから「そういえばまだ荷物も置いてないや」と久しぶりの我が家にただいまと挨拶して……しようとして。碇シンジは『KEEP OUT(立入禁止)』の黄色いテープに行く手を阻まれたのだった。
 瓦礫と焦げ跡。飴のように溶けた建材。そのあたりの単語でだいたい説明できてしまう……眼前に広がるのはそんな光景。
 いったい何があったというのか?
 当然の疑問。それとともに心に去来する、ふつふつとした怒り。理不尽に対する、いらだち。
 シンジの穏和な顔ざしが、しだいに剣呑さを帯びていく。
 いったい、何者が、こんな真似を、してくれたのか!?
「ははは。すまないねぇ、こんなふうにしてしまって」
 犯人、自供。
 あっさり判明した容疑者は、シンジの肩をぽんぽん叩きながら朗らかな笑みを向けてくる。
「……説明、してもらえるよね」
「こわいねシンジくん。可愛い顔が台無しだよ?」
 とりあえずグーで殴る。
「いっ、痛いじゃないか! いつもの君らしからぬ行動だよっ」
「……アスカの影響、かな」
 かなり失礼な推測を立てる。が、たぶん正解に近い。
「ごめんカヲルくん。つい、手が出ちゃったみたいだ。ほんと、つい。わざとじゃないよ、うん」
 どうだかねぇとカヲルの目がすわる。
 それには気づかぬふりでシンジは話の先をうながした。
「それで? なんだってこんなコトになるのさ」
「そうだね……おふざけが過ぎた、といったところかな。少しばかり彼女とはしゃぎ過ぎてしまってね」
「……だれと?」
 カヲルは答えない。ただ、少しだけ表情を変えていた。いつもと変わらぬ笑みをたたえながら、どこか違って見える、そんな……言うなればとても『人間らしい』姿をさらけ出していた。
 それを不思議に思う間もなく……シンジは『それ』に気づく。どこまでも真っすぐな長い髪が、カヲルの後ろで揺れていた。
 目を丸くして、彼女の名を呼んだ。
「トヲル?」
 ぴくっ、と素直な反応を見せる、幼い外見の少女。
 トヲルはおずおずと…カヲルの背後から顔を覗かせた。小さな手が、すがるようにカヲルの服をぎゅっと握り締めている。
 ……見ているこちらが罪悪感を抱いてしまうような、かぼそい頼りなさ。
 シンジは努めて優しい口調で問いかけた。
「どうしたの、トヲル?」
 返ってきたのは震える声。
「……ごめん…なさい…」
 言いながらうつむいてしまう。そうしてまたカヲルの後ろに引っこんだ。
 感じた違和感。シンジはそのまま口にした。
「あれ? ふたりとも、いつのまに仲良くなったの?」
 旅行前までは、こうではなかったハズだ。むしろトヲルはカヲルを避けているようだった。
 それが、どうしてか。
「なんとなくね。君がいない間、一緒にいることが多かったのさ」
「へえ……え、じゃあ、はしゃいだのってトヲルと?」
「そうだね」
 
「………………」
 トヲルは反論もせず黙っていた。
 どこか後ろめたい気持ち。
 自分でも解析不能な『ヒトらしい感情』を持て余す。
 どうして…こんなにも…。
 
 少女の苦悩も知らず、少年らは話をはずませていた。
 
 
◇◆◇
 
 
「これって……」
 ターミナルドグマ。
 アスカの知らない階層までエレベーターは一息に降下した。
 地の底と錯覚するほど地下深く。まるで地獄に降り立つように。
 アスカはこの場所まで連れて来られていた。この機密区画に。レイの導きによって。
 目の前にあるモノ。
 見上げた『それ』は、全貌を視界に収めきれないほどに巨大で、穢れを知らないように真白い、ヒトの形をした何かだった。
 無貌の仮面で顔を隠した、白い巨人。
 巨人は囚われていた。巨大な十字架に、杭(くい)で両手を縫い止められて。あたかもイエス=キリストの最期の姿のように。
 その神性を前に、誰もが畏怖せずにはいられない。
 アスカは自分の体が震えている事に気づいた。
 体が勝手に、恐れ戦(おのの)いている。それは本能だ。とても自然なものだ。
 ………けれども。
「これって」
 また同じ言葉がこぼれる。
 本能なんてものじゃない、アスカの『理性もまた悲鳴をあげて』ぶるぶると震えていた。体が、心が。
 壊れてしまいそう……その事実に。
「これって………そう……これは…っ…!」
 リリス。我らが母なる存在。
 でも、どうして?
「なんでアタシ、これを知ってるの…?」
 愕然と立ち尽くしてしまう。知識でなく、実感をともなわない『情報』が、どこからかあふれ、頭の中を埋め尽くす。
 そんなアスカの様子を、どこか哀れむような目をしてレイは見つめていた。
 
 白い巨人は裸身だった。人間の女性の『全身』のカタチをしていた。
 ゆたかな胸の丘陵。くびれた腰。股間からは赤い液体が、脚をつたって止めどなく滴っている。経血のように。
 その液体には、とても見覚えがあった。
 エヴァのエントリープラグを満たすL.C.L.だった。そうとしか思えなかった。
 それで正解だと、どうしてか確信があった。
「……きもちわるい」
 その光景が、ではない。知らないはずの事を何故か知っている自分自身について、まるで他人のような余所余所しさを感じ取ってしまって、それが……とてもとても気持ち悪い。
 我慢できない嫌悪感に吐き気をもよおす。
「レイ、」
 それをどうにか、こらえて。
「アンタ……どういうつもりで、アタシをここに連れてきたの…?」
「……………………」
「答えなさいよっ!」
「……確かめたかったの」
 その顔に表情は無い。いつも以上に。
「世界のヒビの、どれくらい、壊れてしまったか」
「……なによ、それ…」
「あなたの知らない、知らなくていいことよ」
「だったら! どうしてっ…」
 気づかせるような真似をするのか。
「アタシは…なんなの…?」
「あなたは、あなたよ。ただ、それが、あなたの知っている、あなたじゃないだけ」
 
 頭がくらくらする。今にも倒れてしまいたい。
 それでも辛うじて立っていられたのは。
 レイの声が、言葉の内容とは裏腹に、冷たいとは感じられなかったからだ。
 気づかうような、ぬくもりが…。
 勘違いかもしれないけれど。
「いやなヤツよね……アンタって」
「そう」
 

桎梏は優しさに塗れて

第二十一話


 
 早朝の散歩。
 寝覚めは悪くなかった。しかし一人歩くシンジの足取りからは多分に不機嫌なものがうかがえた。
「だいたいさ……勝手なんだよな」
 苛立ちが向かう対象は……『自分』だ。
「ちょっと思いどおりにならなくなってきたからって、それを不満だなんて、何様なんだよ僕は」
 自分自身の身勝手さを自覚して、だからこその自嘲じみた不機嫌。
 先が見えない事への不安が、じわじわと気分を害している。
 ……断じて。先日の更衣室の一件、レイとアスカに乱入され、イイところで(すんごいコトに及ぼうとしていた所に)邪魔が入った出来事に対する愚痴ではない。ないんですよ? 誰にともなく言い訳するシンジだ。
 
 歌が、聞こえた。
 鼻歌のように歌詞も曖昧に、メロディを口ずさんでいる誰かがいた。
 魅力的で、同時に妖艶でもある、そんな微笑を浮かべて歌う。
 有名な曲だった。それより何よりも感慨を誘う曲だった。なつかしい、と。あの時の歌だった。
 足を止める。
「……歌はイイわねぇ」
 誰にともなく、そうつぶやく声。だが、その視線はこちらを真っすぐ捉えている。誤解しようもないほど、意識を向けられている。
 その人は、シンジと同じ年頃に見える『少女』の姿をしていた。
 遠目にもとても整った容姿をしていると分かる。不思議な存在感。その人の周りの空気だけが違っているような。
 否応なしに興味を惹かれてしまう。
 少女は語り続ける。
「リリンが生み出した文化の極みよね。そう思わないかしら、碇シンジくん」
 笑顔が向けられた。とても親しげに。
 まるで……旧知の者に向けるような気安さを、そこから感じ取る。
 どうして?
 戸惑いを隠せない。人違いの可能性も頭に浮かんだが、すぐに否定する。だって彼女は間違いなく僕の名を呼んでいた。
「どうして……僕の名を…」
 彼女は……何故か目を丸くする。意外、とでも言うような反応。
「あら? なんでシンジ『これ』を知っているの? 話したことあったかしら?」
「え……?」
「知らない者は無いわ。失礼だけれど貴方は、自分の事をもっとよく知った方がいい……ってね」
 芝居がかった口調で、最後は冗談交じりにペロッと舌を出して。彼女は楽しげに…『ありえない』言葉を口にした。
 ……知っている。僕はこの『会話』を知っている。
 既知感どころではない。これは思い出だ。僕の大切な思い出だ。それを初対面のはずの彼女が語っている。
 あの時の、あの世界での、カヲルくんとの出会いを、知っている…!?
「きみ、は……」
 何者なのか? 得体が知れない……恐怖を覚えながら目の前にいる『誰か』を見る。
 そんな僕の内心を察したのか、彼女もまた表情を変える……不思議そうに。
 まるで、僕の反応が予想外だとでもいうように。
「どうしたの? おかしなシンジ……せっかく久しぶりに会えたんだから、もっと嬉しそうな顔をしてほしいな」
 甘えるように言ってくる。
 これでは、まるで…。
「それとも……私のことなんか、どうでもよくなっちゃったの?」
 悲愴感を漂わせつつも、どこか甘ったるさは残している。
 まるで、恋人同士の会話の、ような。
 ………おかしい。こんなの、おかしい。
 シンジはとうとう口に出した。決定的な言葉を。
「きみは……だれ…?」
 
 
◇◆◇
 
 
「何だったんだろう、あれは…」
 一人になったシンジの口から、独り言が漏れた。
 去り際の彼女の台詞がよみがえる。
 
 彼女はとても驚いた顔をして、
「そう……そういう事なのね、リリス。こんなカタチで、願いを叶えたの」
 何かに納得して、
「あなたは……あなたじゃないのね」
 意味の知れない言葉を重ねて、
「残念ね……殺してやりたいほど残念よ」
 殺意を吐き捨てて、消えた。
 
「………ワケわかんないよ、ほんと」
 はあぁ。自覚できるほど重苦しいため息を吐き出す。
 未来(さき)が見えない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ネルフ総司令公務室。
 この部屋の主である男は、デスクワークに追われていた。
 黙々と机上で作業をこなす姿は、この男のイメージとはそぐわないものだったが、むしろ彼の職務はこういった地味な作業が多い。もちろん見た目に派手さが無いだけで、仕事の重要度は非常に高いものなのだが。
 そんなふうに仕事に没頭していた時だ。
 ガタッ…ガタガタッ!
 突如、至近から物音。自分の机だ。
 顔色は変えずギョッとするという器用な真似をしながら音のする場所に視線を落とすと、どうしたことか机の引き出しがガタガタと揺れていた。間違えようもなく音源はここだ。
 ……なんだこれは。
 当然に浮かぶ疑問。しかし。
 この状況について頭を悩ませるも、仮説すら立たない。いったい何だというのか?
 そうしている間にも不可思議現象は収まる気配を見せない。むしろ、だんだんと音は大きくなっていた。
 ごくり。のどを鳴らす。
 虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言う。こうなれば。
 碇ゲンドウは原因究明に向けてもっとも手っ取り早い方法を選んだ。すなわち。
「………開けてみるか」
 わざわざ口に出して宣言したのは、踏ん切りをつけるためだろう。
 さて、鬼が出るか蛇が出るか…。
 えいや、と勢いをつけて引き出しを滑らせる…!
「…あ痛たた……頭ぶつけた。もうっ、何よここ!」
 少女が出ました。
 ゲンドウびっくりである。というか誰でも驚く。机の引き出しから少女がひょっこり顔を出すとか…。
「……ネコ型ロボットもびっくりだな」
 態度には出ていないが、この男なりに動揺しているらしい。彼らしからぬ暴言が飛び出す。つっこみ役の副官がこの場にいないのが惜しい。じつに惜しい。
 それはともかく。
 謎少女と目が合う。涙目になっていた。
「あら?」
「……む?」
 お互いに見覚えがあった。
 
「ああ、きみか。元気そうだな」
 かける言葉は短い。事務的な声。だがそれがこの男の口から出たものだと考慮すれば、それはとても…。
 硬い言葉の中に隠れている確かな『親しみ』を感じて、少女の顔から迷いが消える。
「よかった……こっちは知った顔ね。おひさしぶり、おじさま♪」
「うむ」
 色眼鏡を指で押し上げながらの返事。
 ……もしかすると、おじ様と呼ばれて照れたのを誤魔化すしぐさ、だったのだろうか?
 真相はともかく、少なくとも彼女は自分勝手に『そう』解釈して…。
「かわいい人よね、ほんと」
 もごもごと口の中で世迷い言をつぶやく。賛同者などとても見込めない発言内容。だが彼女の正直な気持ちだった。
 それは数少ない『本当』で……この欺瞞だらけの世界の中で、それは宝石のように希少で価値あるもの。とても大切なもの。
 だから小さく口にする。声高には叫ばず、そっと主張する。大切だから、汚れてしまわないように、そっと。
「かわいい、ひと」
 知らず、顔がほころんでいた。みっともないくらい、ゆるゆるに。自覚して、我が事ながら照れてしまった。
 あいかわらず私はこの人に弱い。甘えてしまう。
 ……さてと。気を取り直す。いつまでもこのままでは居られない。
 よいしょ、と体を引っぱり上げる。引き出しの容積を軽々と上回る人間一人分の体積が、常識を超えて現れた。
 すらりと伸びた足が、ふちをまたぐ。ミニスカートだった。生足と、その奥の見えそうで見えない部分。
 ゲンドウはそっと目をそらした。礼儀としてなのか、それとも意外に純情だったのか。一応、前者としておこう。
 こほん、と咳払いを一つ。誤魔化すように、
「その服はどうした」
「適当に拝借。上でね」
 少女は天井を指差す。正しくは、その先にある地上、第三新東京市。
「いつまでもプラグスーツじゃあ恥ずかしいもの」
「……なるほどな。あれは、きみか」
「あれって?」
「ドイツ方面からこちらに向かっていたエヴァだ」
 少女の返答はイエス。
「あると便利だったから……かっぱらって来たのよ」
 うふふ、とイイ笑顔を浮かべる。対するゲンドウは、
「そうか」
 あっさりしたものだ。深く考えずとも色々と問題あるはずなのだが…いいのだろうか?
 何もかもが非常識な会話は続く。
「しかし驚いたぞ。こんなところから」
「ごめんなさい。前みたいにこの部屋を目指したのだけど……どうも座標がズレていたみたい。ちょっとした誤差ね」
「ふっ……まるで狙ったような誤差だな」
「さすが私よね」
「まあ、そうだな」
 否定はしない。
「それより、おじさま、説明してくれないかしら」
「何をだ?」
「ぜんぶ。なにせ私、卵から孵ったばかりのヒヨコなのよね」
「……きみの意図ではなかったのか」
「そう。気がついた時にはもう私はいた」
「ならば……これは世界の選択かもしれんな」
「それって?」
「自浄作用ということだ。……さて、何から話すか」
「そうね。さしあたっては…」
 彼女は迷わなかった。
「シンジは、どこ?」
 
 
 
 
 
 
 
つづく
 
 
 
 
 
2010/03/27  了
 
        こけ  著
 

 トップに戻る  目次に戻る