梶井基次郎「檸檬」
この小説には、
・感覚的な読み方
・理屈で割り切る読み方
の二通りがあります。できれば、小説なのですから、楽しみで読むものなのですから、感覚で味わってほしい。
つまり、憂鬱で気持ちがふさぐとき、何かちょっとしたきっかけで、不思議と気が晴れた、なんて経験のある人は、それをまざまざと思い出していただければ、それでかなりいいわけです。
梶井基次郎の、若くって、ちょっと気合過剰のキラキラした文章を味わっていただいてもいい。
そして(想像上の)爆弾をどこぞに仕掛けてくる、スカッとした気分を満喫していただきたい。
、とハマーはかように考えるわけですが、そういかない人も多いかと思われます。「それの何が面白いんだ?」ト。
まあ、無理もございませぬゆえ、授業ではハマーが理屈で説明して見せましょうぞ。
◆主人公の状況
「得体の知れない不吉な塊」にいつも心を押さえつけられている。
焦燥(いらだち、あせり)とか、嫌悪(不快感、憎しみ)の気分である。
原因には肺結核や神経衰弱にかかっていることや、借金があることなどが考えられるが、今の私にはその原因よりもむしろこの憂鬱な気分自体のほうが問題である。
その気分に追い立てられるように、友人の下宿を渡り歩いている。
場所は京都で、京都大学の学生らしいが、現在は学校には行っていないようだ。
◆かつてこの主人公が好きだったもの
レコードで聴く美しい音楽。(輸入品。知的)
丸善。(洋書・輸入雑貨を売る、知的でリッチでおしゃれな感じの店)
赤や黄のオードコロンやオードキニン。(色鮮やか。輸入品。いい香り)
琥珀色や翡翠色の香水瓶。(同上)
煙管・小刀・石鹸・タバコ。(輸入品。おしゃれ。石鹸とタバコはいい香り)
一等いい鉛筆を一本買う。
→結局この人は、「色鮮やかな、いいにおいのする、輸入品で、特に生活上は必要のない、贅沢なもの」が好き。
◆今の主人公が好きなもの。
向日葵やカンナが咲いている裏通り。
やるのではなく、手にとって眺めるための花火。
おはじき、南京玉。
みすぼらしくて美しいもの。二銭や三銭だけど、贅沢な、つまり生活必需品ではないもの。安っぽさがかえって、私を喜ばそうとして、向こうから擦り寄ってくるような感じを起こさせるもの。
色鮮やかなもの。小さなもの。冷たいもの。表面の滑らかなもの。
◆趣味の変ったわけ
色鮮やかで、生活上必要のない、趣味的なものが好きなのは相変わらずであるが、以前好きだったものは、あまりにインテリくさく、高価で、そういうものと縁の離れてしまった今の「私」には荷が重い。
「何で学校に行かないのか」「借金を払え」「お前のようなダメ人間には上等すぎるものだよ」といわれそうな気がする。
そういうことを言い出さないもっと安っぽいものに、心の安らぎを感じている。
◆134ページ16行目「ある朝」136ページ10行目「その日」・・・同じ日。
その間に、檸檬を買った果物屋が、夜にはどう見えたかが入ります。夜に檸檬を買ったわけではないので、注意。
>何か華やかな美しい音楽の快速調の流れが見る人を石に化したというゴルゴンの鬼面―的なものを押し付けられて、あんな色彩やあんなヴォリュウムに凝り固まった・・・なんて、たかが果物の説明に、あんまり大げさじゃありませんか、というような描写が続きますが、まあ作者若いので許してやってください。
とにかく、その日「私」は檸檬を買うのですね。
するとあんなに私を苦しめた憂鬱感が次第に軽くなって、137ページでは遂に>軽やかな興奮に弾んで、・・・歩く、くらい元気出てきちゃうわけです。
いったい檸檬の何がそんなに気に入ったかというと、実は檸檬には、この人の好きな要素が、いっぱいあるのですね。
・単純でくっきりした鮮やかな色。
・小さくて丸い。
・表面が滑らか。
・輸入品。
・香り高い。
・冷たい。
・ぜいたく品であり、生活の役に立つものではない。
ついにこの人は、調子に乗って、檸檬の重さは、この世のすべてのよいもの美しいものを重量に換算した重さなのだ、つまりこの世の善と美の総計がこの檸檬の重さである、とそこまで思うわけです。
ま、自分でもその気分を「思い上がった諧謔心」と言ってはいますけど。(つまり調子に乗ってふざけた、と言うことですね)
◆丸善との闘い
調子こいたあまり、この人は丸善に出かけます。
今なら、丸善の高級感やインテリくささにも圧倒されないぞ、と思ったからです。
しかし、あにはからんや、やっぱり丸善に負けて、劣等感、憂鬱がぶり返してきます。
主人公、ピ〜ンチ!
しかしそこで一つのアイディアが主人公を救います。
主人公は洋画の画集(輸入物で高い)を引っ張り出しては、開いたまま積み上げます。
画集の山ができると、その上にちんまりと檸檬を鎮座させるのです。
檸檬vs.画集!
どっちの勝ち?
それは檸檬の勝ち、檸檬の色彩と形は、画集のごちゃごちゃした色彩を圧倒し、一つの秩序を作り出していました。
さtらにその興奮を持続させるため、彼はこの檸檬を「丸善を木っ端微塵にする爆弾」であると想像してみます。
するとなお、すっきりしたいい気持ちになれたので、私はその想像を楽しみながら、丸善を後にするのでした。