スウェーデンのスヌーゼレン

今、スウェーデンでは静かなブームと言っても過言ではないスヌーゼレン勿―ムが身体・知的障害者の間でだけではなく精神病・痴呆症、果ては健康な小中学生徒にまで広がっています。

スヌーゼレンという言葉を始めて聞く人は何だろうと興味がわいたのではないでしょうか。 これからは日本でも度々この言葉を聞く機会が増えて来るかと思いますのでここに紹介致します。

これはスウェーデン語ではありません。

語源はオランダ語で香りを嗅ぐ“スヌーザ”と言う言葉と、うとうとと居眠り状態を言う“ドーセレン”と言う言葉の合成語なのです。

発端は、1970年の後半オランダにあるハーテンバーグ施設で、そこにはダウン症などの知的障害児がたくさんいました。スタッフはどのような教育をしたら一番楽しく子供達の成長発達を促す事が出来るかと常に創意工夫をしていて、その結果、このスヌーゼレンと言う環境設定方法を思いついたのです。

普通の子供は生まれながらにして人間の持つ基本的な能力を身につけていますが、なんらかの障害を持つ子供は自己の感覚を自由に操る術に欠けているわけです。ですから欠けている部分に適度な刺激を与えて補えば感覚器官で受けた刺激が神経系の働きで大脳へと伝達して成長発達の促進に役立つわけなのです。

ピアノを習う人は毎日の練習から上手に弾けるようになります。それと同じ方法なのですが、従来の治療や訓練方法は欠けた部分だけを取り上げて集中訓練をしていました。ところが、全ての感覚を含めた環境設定をする事によって 始めて聴覚・視覚・味覚・触覚・知覚を統合した刺激がコンパクトな形でしかも楽しみながら身について行く事が可能になるわけです。

また発語のない障害児の周りにいる人々は、この玩具はおもしろいのだろうか、このクッションは気持ちがよいのだろうかと子供の目の表情やしぐさや音への反応を見る事によって理解しその子供独自の表現方法を学んでいきます。このようにコミュニケーションを優遇できる環境があり何度も同じ反応を見る事によって子供が首を振るしぐさは嫌悪を現すのではなく、喜んでいるのだと分かって来るのです。

スヌーゼレンと言う部屋へ一歩足を踏み入れると、普段体験出来ないような幻想的な異次元の世界へ迷い込んだような錯覚に陥ります。ロックコンサートやディスコに身を投じたと想像してみて下さい。周囲には様々なライティング効果が施されていて、見るもの手で触るもの全ての形が変化したり音を出したりするのですからこれほど面白い所はありません。ただコンサートやディスコと異なるのは耳を覆うような楽器演奏ではなく静かで美しい音色の環境音楽が奏でられているということです。

この部屋で一定の時間を過ごしリラックスすれば自然に感覚を自覚できるようになるのです。障害児が自ら物に振れ、調べ、音を聞き、誰からの指図も受けないで自分に必要な時間だけ要して学習して行くのです。

本来のスヌーゼレンは幾つもの部屋があり、リラックスを中心にしたホワイトルーム、音楽を中心にしたミュージックルーム、弱視のための暗室、遊戯・活動を主体にしたアクティビティルーム、ジャグジー付きのバスルームなどなどあらゆる角度から五感を刺激しています。

オランダやベルギーには数カ所大規模なスヌーゼレンセンターがあり、知的障害者のみではなく、身体障害者もそのセンターでスヌーゼレンを堪能しています。

このアイデアはイギリスにも飛び火して現在大小のスヌーゼレンを合わせて600箇所以上設立されています。

特にこのスヌーゼレンを賞賛し、さらにスヌーゼレンを理論的に究明したのがチェスターフィールドにあるセンターの臨床心理療法士のロジャー・ハッチンソンと作業療法士のジョー・キューインでした。彼等によってスヌーゼレンの確固たる裏づけが発表されたのです。

五感だけではなく、運動感覚も取り入れた感覚全ての総まとめです。

もちろん、従来の訓練もそれなりに必要ですがこのスヌーゼレンはそれらを補充し個々の感覚を充電する場所と言えばおわかり頂けると思います。


スウェーデンでは90年の前半にストックホルム、リーンショーピング、ゲーテボルグ、ルンドと次から次へと大きなスヌーゼレンセンターが出来ました。

 私は作業療法士として乳幼児・児童・青年を対象にしたハビリテーリングセンターに勤めていますが、スヌーゼレンに早くから興味を持っていた私は運良くこのプロジェクトを推進する担当者になりました。嬉しかったのと同時に大きな責任も一手に引きうけたわけです。

現在センターには地下二部屋がスヌーゼレンとして環境設定されています。そして様々な形で毎日この部屋は利用されているのです。

世界的なブームもブームだけでは終わらない確固としたものになるよう願っている私ですがすでに、揺るぎ無いスヌーゼレンを感じて喜んでいます。 

もっと詳しく知りたい方は、日本では初のスヌーズレン書籍、新評論社からの自著「スウェーデンのスヌーズレン」を読んでください。