昔の彼女が忘れられない彼 ~『ロリータ』ウラジーミル・ナボコフ~

美也子=「美也子」です。ボビイ =「ボビイ」だ。


Lolita (1955), Vladimir Nabokov

美也子記念すべき第1回は『ロリータ』です。いい歳したオジサンが12歳の少女に入れ込む、ちょっと変わった恋愛小説。「ロリコン」の語源になったと言えば話は早いかしら。

ボビイ「ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂」。

美也子それは第一部の書き出しね。

ボビイ文学史に残る有名な書き出しだ。

美也子語り手はハンバート・ハンバートという中年男。この小説は彼の手記という体裁になっていて、本人は既に獄死している。

ボビイ要するに回想録ってやつだな。ロリータとの愛の記録、そして、男の愚劣さがひねくれた筆致で綴られている。

美也子ハンバート・ハンバート、すなわちH・Hはヨーロッパ出身のインテリなの。色々あってアメリカに渡ってきたわけだけど、そこらの変態と違ってとにかく頭がいい。ハイカルチャーに通じているのはもちろんのこと、豊富な語彙や巧みな言葉遊びなど、高い言語能力を有している。

ボビイ日本のオタクどもとは大違いだ。

美也子そう。彼は貴族って感じなのよね。趣味がとても洗練されている。

ボビイそんなハイブロウがなぜロリコンになったのかというと……。

美也子H・Hは13歳のとき、同年代の少女アナベルに恋をして、すぐに死別している。

ボビイ苦い初恋ってやつだ。

美也子ええ。そのことが尾を引いているようで、彼は自分の好みについてこんなことを言っている。

さて今から、次のような理論を紹介したい。九歳から一四歳までの範囲で、その二倍も何倍も年上の魅せられた旅人に対してのみ、人間ではなくニンフの(すなわち悪魔の)本性を現すような乙女が発生する。そしてこの選ばれた生物を、「ニンフェット」と呼ぶことを私は提案したいのである。 (30)

ボビイ見事なロリコン宣言だな。実に清々しい。

美也子ここまで堂々とされても困るけど。

ボビイしかし、奴はニンフェット一筋というわけではない。大人の女と寝ることもできる。

美也子H・Hって実はイケメンだからすごくモテるの。でも、極上の快楽を与えてくれるのはニンフェットだけというから、好みはうるさいわね。

ボビイ奴にとってニンフェットとは、私にとっての骨付きカルビみたいなものだ。

美也子なによ、そのたとえ。

ボビイ私も彼も美食家なのさ。

美也子はあ……。

ボビイグルメ、もといニンフェットマニアのH・Hは、数々の遍歴を経てついにロリータと出会う。そして、彼女の虜になってしまう。

美也子彼にとってロリータはアナベルの転生なのよね。

ボビイまさにファム・ファタル(運命の女)だ。一目惚れどころの話ではない。

美也子12歳のロリータを何とかものにしたいH・Hは、なりゆきから彼女の義父に収まります。

ボビイH・Hとしては、妻に隠れてロリータと情事にふけりたいのだが、ことはそう簡単には運ばない。せいぜい体を舐めるのが関の山だ。うまく家庭に入り込んだものの、生殺しというか、お預け状態の犬になっている。

美也子奥さんとの駆け引きがすごく面白いよね。キャンプに行ったロリータを連れ戻したいH・H。ロリータを寄宿学校に追いやろうとしている奥さんに対し、それは許さないと断固拒否するH・H。自分の性癖を隠しつつ、ロリータを手元に置こうと頑張っている。

ボビイニンフェット期は貴重だからな。竹になる前の竹の子のように。

たしかに私はロリータに永遠の恋をした。しかし、彼女が永遠にロリータでいるわけはないこともわかっていた。彼女は一月一日に一三歳になる。二年もたてば、ニンフェットではなくなり、「若い娘」になって、それから「女子大生」になるのだ。 (117)

美也子まったくどうしようもないわね~。女子大生だっていいじゃない。

ボビイうむ。私も女子大生のほうが好きだ。

美也子別にボビイの好みなんて聞いてないけどね。

ボビイさて、H・Hの生活にも転機が訪れる。ある重大な事件が起こり、ロリータと2人で自動車旅行に出ることになる。全米各地を回ってアバンチュールを楽しもうって算段だ。

美也子この辺の事情は読んでのお楽しみとして、ロリータに翻弄されるH・Hがホント可笑しい。

ボビイH・Hはロリータを束縛するのだが、完全にはコントロールできないんだな。

美也子せっかく2人きりになって肉体関係も結んだのに、悩みの種は尽きない。一時はロリータを女子校に通わせるのだけど、関わってきた男に嫉妬してくちばしを入れている。彼女が離れていくのが許せないのね。もうニンフェット期を終えようとしているのに……。

ボビイロリータも人形ではないってことだ。年頃だし、他の異性を好きになってもおかしくない。

美也子なのにH・Hは自分の情欲のことしか頭にないのよね。保護者の特権を駆使してロリータに圧力をかけている。逃げ出さないようへそくりを没収するのにはまいったわ。

ボビイで、結局は2人の思惑が一致して退学。また車で旅に出るのだが、途中でロリータが失踪してしまう。

美也子そして、2年後に驚愕の事実が。ロリータから手紙をもらって再会することになるのだけど……。

ボビイ17歳の彼女は結婚し、母親になろうとしていた。

美也子H・Hってロリコンのサイテー男。性の怪人を気取ってはいるけれど、やってることは年端の行かない少女を縛り付けているだけ。でも、歪んでいるとはいえ、彼は本当にロリータを愛していた。もうニンフェットではなくなったのに、それでもなお彼女を求めていた。

私は全世界にぜひ知ってもらいたいのだ、私がどれほど我がロリータ、このロリータを愛したかを、色あせて卑しめられ、他人の子供でお腹が大きくなってはいても、やはりまだ灰色の瞳をして、まだ煤のように黒い睫毛で、まだ鳶色とアーモンド色の、まだカルメンシータ、まだ私のものなのだ。違う暮らしをしようじゃないか、僕のカルメンよ、二度と離ればなれにならないところへ行って暮らそう。 (495)

ボビイ筋金入りのロリコンがこんなことを言うとは……。胸が熱くなるな。

美也子ニンフェットではないロリータを愛したことで、アナベルの呪縛も解けたのかしら?

ボビイそう願いたいものだ。

美也子愚かしくもせつない恋の記録。男にとって初恋は特別みたいです。

( 2010.11.11 )

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