=「美也子」です。
=「ボビイ」だ。
『太陽の塔』は理系男子の日常を綴った青春小説です。
舞台はクリスマスを目前に控えた京都。主人公は京大生。四畳半の真ん中で妄想を弄び、京都の街を奔走する、われらが非モテ紳士の物語だ。
語り手の森本くんは京大農学部の5回生。4回生の春に研究室から逃亡して以来、現在まで休学中なの。彼は比叡山のふもとの四畳半に下宿しています。
街に繰り出すときは愛用の自転車「まなみ号」を使っている。
なにげに強烈です。
先に非モテ紳士と言ったが、実はサークルの後輩と付き合ったことがあるんだよな。
ええ。相手は法学部の水尾さん。でも、1年前に森本くんがふられちゃったの。彼はそのショックを現在まで引きずっている。「研究」と称して水尾さんをストーキングしている。
観察と研究を重ね、240枚にわたるレポートを書いてるのだから本格的だ。
レポート自体は付き合っている頃から書いてたのね。これはこれで奇妙だけど、問題は別れたあとも続けてるってこと。普段の行動をしっかり把握しているのにはまいったわ。A4紙7枚を貼り合わせた紙に、彼女の平均的な一日が曜日別に記録してある。
実地で観察するのに重宝みたいだな。普段の行動パターンを掴んでおけば、あとはちょっと推理を働かせただけで現在地を特定できる。
もう完璧なストーカー。
奴はなぜこんな「研究」をしているのか?
森本くんにとって水尾さんは「謎」なのね。彼のなかで固有の地位を占めている。本人は「恋の対象ではない」と言っているけれど、それはまったく怪しいわね。
副次的な目標として、「彼女はなぜ私のような人間を拒否したのか」を挙げている。
未練たらたらじゃーん。
謎を合理的に解明しようとするところが理系らしいな。
まあ、京大生だけあって頭は良いのよね。ただ、ものすごい変人だけど。
奴の友人たちも変人だ。
似たもの同士が集まって「四天王」と称している。男だけの妄想と思索によってさらなる高みを目指している。
我々はクリスマスを呪い、聖ヴァレンタインを罵倒し、鴨川に等間隔に並ぶ男女を軽蔑し、祇園祭において浴衣姿でさんざめく男女達の中に殴り込み、清水寺の紅葉に唾を吐き、とにかく浮かれる世間に挑戦し、京都の街を東奔西走、七転八倒の歳月を過ごした。
世間に蔓延する恋愛至上主義を呪い、四畳半に集まって妄想に花を咲かせる。充実した学生ライフだな。
どこが? どこが? どこが?
私の学生時代を思い出す。
え~! ボビイに学生時代なんてあったの!?
修行と研鑽の日々……。話すと長くなるぞ?
じゃあ、いいです。
そうか (´・ω・`)
で、とにかくまー、森本くんはホモソーシャルな世界にどっぷり浸かっているわけね。変人たちの、男汁あふれるコミュニティに。
注意しておきたいのだが、変人といっても悪人ではない。むしろすこぶる付きの紳士だ。女性の安全を願い、ビデオ屋に通ってやんちゃなジョニーを鎮めている。
世界平和のためには我々一人一人が責任を持って荒ぶる魂を鎮めねばならぬ、社会に生きる者の義務とは言えつらいことだと嘆きながら、禍々しい生殖本能の矛先をそらすために培われてきた膨大な作品群を前にして私は右往左往し、各コーナーに高らかに響き渡るY染色体の哄笑を聞き、そして割合まめに新作をチェックする。
ジョニーというのは、えー……。
男子の股間についてる暴力装置のことだ。
解説ありがとうございまーす。
そして、道行く女人たちに対し、イケナイ妄想を膨らませている。
そう言うと卑猥に聞こえるけれど、実際はかわいいものね。知りもしない人間に、ありもしない背景をでっちあげて楽しんでいる。ある人物についてさんざん描写した挙げ句、いまのは妄想だとちゃぶ台をひっくり返したのにはまいったわ。
まさに「騙り」の魅力だな。『ロリータ』のような。
まあ、一人称の醍醐味といえばその通りね。
というわけで、本作には理系男子のすべてが詰まっている。女人禁制の知られざる世界が広がっている。
わたし的には「なんじゃこりゃあ!」って感じでした。常に異様で常に恐ろしい、太陽の塔を見たような気分です。
( 2010.11.23 )