その頃はまだ、夜は完全な闇であった。時間は今よりもずっとゆっくりと流れていた。人々は皆臆病で、ひとかたまりになって夜を過ごしていた。完全な闇の中では自分の手のひらさえ見えなかった。肉体と心の境界があやふやになった。心が肉体から溶け出した。それが夢だった。
そして闇には住人がいた。彼らは醜い容姿で、人々はそれをおそれた。けれど、それは嘘だ。完全な闇の中でどうやって彼らを見る?見えないから?ひょっとすると闇の住人は体をもたないのかもしれない。人の夢が形に表れたものでしかないのかもしれない。
とにかく、人は彼らと時間を住み分けていた。人は朝日が昇ると活動を始め、日が沈むと早々にひとつに固まり震えるようにして夜を過ごした。そして闇の住人が入れ替わるように活動を始める。あるとき一人の狂人が神を発明した。それから人が神にこう願い事をするのに時間はかからなかった。怖ろしい闇を取り払って欲しい。
それからしばらくして何もなかった夜空に紺碧の月が浮かんだ。その月明かりは闇を消した。闇の住人たちは居場所を奪われ、いつしか人々も夢をみなくなった。それと引き替えに人は何かを失った。
ぼくたちが夜空に月を見ると、喪失感をかんじるのはきっとそのせいなんだろう。
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