戦場に蝶一匹

   四季のエッセイ        @
 おや、ことしはじめてみる蝶だ。モンシロチョウが一匹、黄色い花を求め道端の植木鉢から植木鉢へと頼りなげに飛んでいる。
 蝶を描いた映画「西部戦線異状なし」があった。戦場に束の間の静けさ漂うある日、塹壕に身を潜めるドイツ兵ポールの目の前に蝶が一匹、ひらりと舞う。思わず捕らえようと身を乗り出したその瞬間、フランス軍の銃弾が炸裂、ポールに命中する。蝶に手を伸ばしたままの恰好で塹壕に崩れ落ちるポール。戦場に一服の清涼剤のように飛んできて、兵士の心をとらえた蝶の姿を、木っ端微塵に打ち砕く戦争の冷酷さを描いた映画であった。
 西部戦線異状なし。後方の司令部への報告に、ポールと蝶のことは一行もなかった。